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攻撃魔法は苦手ですが、補助魔法でがんばります!  作者: 緋泉 ちるは
第4章 国境~アルティカ共和国編
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弓月の刻、兵士を鍛える

 「逃がすな!」

 「逃げないから平気」

 

 シアさんの周りを5人の兵士が囲み、槍を向けています。

 

 「揺らしすぎ。狙うなら静止する。タイミングをずらすならいいけど、合わせるなら切っ先は止めた方がいい」


 シアさんを狙う兵士の一人を指摘し、シアさんの言葉に従い、揺れていた槍がピタリと止まり、シアさんに狙いを定めます。


 「かかれ!」

 

 一人の兵士が叫ぶと同時に、シアさんを囲んだ兵士達がシアさんに槍を突き刺します。


 「甘い」


 僕でしたら逃げることは出来なかったと思いますが、シアさんはいとも簡単に槍を躱し、一人の兵士の首元に剣を突きつけます。

 そういえば逃げないとは言っていましたが、避けないとは言ってませんでしたね。


 「脱落。続ける」


 気づいたら首元に剣を突きつけられ驚く兵士を無視し、シアさんは残る4人の方に向き直り、剣を構えます。


 「くそっ、何であれが避けれるんだ!」

 「簡単」

 「一人ずつずらして行くぞ! 避けた先を読んで狙え!」


 作戦をばらすのは悪手だと思いますけどね。

 逆に言えば、言葉に出さないと連携が取れないという事でもありそうですけど。


 「順番に対処するだけ。避ける必要もない」


 順番に向かってくる兵士たちの槍を1本1本叩き落としていきます。


 「全然だめ」

 

 僕たちは昨夜ギギアナさんに頼まれ、部下たちの模擬戦をして貰うように頼まれました。

 一応、依頼ではありますので少なからず報酬は出ますし、体を動かせるので僕たちが断る理由もありませんでしたので快く引き受けた次第です。


 「囲むのはいい。けど、バラバラでは包囲した意味はない」


 僕から見たら揃っているように見えましたが、シアさんからすればズレがあったみたいですね。


 「それに槍を突くだけで、槍を引いてから刺すのは無駄。槍先がブレて隣の邪魔になるし、予備動作で攻撃がくるのが読める」

 「だけど、槍を引いた方が反動で強い攻撃が出来ると思いますが?」

 「一人で戦うならそう。だけど、5人いるのなら少しでも相手に傷を負わせる。安全を図りながら少しずつ削ればいい」


 一撃で仕留める事が理想ですけどね。

 ですが、相手が格上であれば人数差を活かし確実に手足に傷を負わせる方がいいとシアさんは言っていますね。

 

 「もし、お前たちの一人が私の脚に掠りさえしていれば、結果は変わったかもしれない」


 脚に傷を負うと全ての動作に影響が及びますからね。強い攻撃する為には踏み込まなければなりませんし、避けるにしても、攻撃を受けるにしても足で踏ん張る必要があります。


 「もう一度お願いします」

 「何度でも来い。私に攻撃を当てれるまで終わらないから」


 果たしてシアさんを囲んでいる人に終わりはくるのでしょうか?

 頑張って貰いたいですね。


 「それでは駄目だ!」


 スノーさんの大きな声が聞こえました。

 向こうも激しくなってきているようですね。


 「真後ろではなく、守りたい者を常に視界に入れられる位置につけ!」

 「はい!」

 「そうだ! キアラいいぞ!」

 「わかりました! では、こちらは対象者と守り手が重なるように移動しながら狙いましょう!」


 こちらは合同でやっているみたいですね。

 キアラちゃん側には弓を持った人が、スノーさん側には盾を持った人達が集まっています。


 「相手の狙いを読め!」

 「移動しながら射るのは難しいですが、これが出来れば色々と応用が利きますので頑張ってください!」

 「「はい!」」


 ちょっとしたゲームみたいな事をやっていますね。

 キアラちゃん側は、対象者か守り手に矢を当てれれば勝ち、逆にスノーさん側はどちらも矢から守り切れば勝ちみたいです。 

 対象者が一人に対し、守り手と弓使いが2人同士で戦っています。


 「対象者と重なるな! それだと避ける事が出来ない! 避けたらお前が壁となって、対象者からは矢が迫っている事が見えないぞ!」

 「その調子です! 相手の動きを制限するように移動してください!」


 騎士というのは第一に主の安全を考えるとスノーさんは言っていました。どうやらその訓練であるみたいですね。


 「あの、私達にもそろそろ何か教えて頂けませんか?」

 「あっ、すみません」


 仲間が何をしているのか気になって自分のやる事を忘れていました。

 ちなみに、仲間にも兵士達にも防御魔法を付与してあげているので、何もしていなかった訳ではありませんからね?


 「えっと、皆さんは普段どういった役割を担っているのですか?」


 僕の元に集まったのは杖を持った、女性の獣人の方たちです。

 それだけでも魔法を使うとわかるのですが、魔法にも種類がありますので、それを聞かない事には説明はできません。


 「私達は回復魔法ヒールを使えます」

 「えっと、回復魔法ヒールという事は風魔法ですね……」


 回復魔法にも種類が多いですからね。

 僕が主に使う回復魔法は聖魔法に分類されます。といっても僕の聖魔法はまた特殊みたいなので割愛しますが、水魔法を起点したのが回復魔法ケア、風魔法を起点にしたのが回復魔法ヒールと呼ばれています。

 そして、同じ初級の回復魔法でも効果は属性によって変わります。

 順番で言えば、聖魔法、水魔法、風魔法の順で効果が高くなります。

 といっても、使い手の魔力や知識で効果は変わるので一概に回復魔法ヒールが悪いという訳ではありませんけどね。

 そもそも、基本的に魔法が苦手と言われる獣人が魔法をまともに使える事が凄い事です。

 まぁ、僕のような狐族は魔法が得意な人が多いみたいですが、ここに集まってのは猫族や犬族の人だけですので、単純にすごいみたいです。シアさん曰く、ですけど。


 「では、まずは基本からですね。皆さんは無属性魔法は使えますか?」


 僕はお手本として真ん丸の魔力の塊を手元に浮かべます。たんに身体に流れる魔力を取り出した状態ですね。

 

 「はい、できます」


 少し時間がかかりましたが、僕の元に集まった人達は問題なくできるようです。

 

 「では、次は両手でやってみましょう」


 またお手本として僕がやってみせます。

 両手に同じ大きさの魔力の塊を浮かべ、真似をして頂きます。


 「あ、あれ?」

 「意外と難しいですよね」


 人には利き腕がありますので当然です。

 魔法を使う時、大体の人は手を前にかざします。

 攻撃魔法にしろ、回復魔法にしろ一番魔法を使うのにイメージしやすいのは手から放出する方法だからですね。

 そして、その手であっても右か左、つまりは利き腕のほうから放出するのが身に付いてしまっています。


 「なので、まずは両手で均等に魔力を取り出せるようになりましょう。コツは両手に集中するのではなく、自分の魔力の器から両手に均等に魔力を流す事を意識する事です」


 これをやることにより、両手だけではなく、身体全体に魔力を流す練習にもなります。


 「きゃっ!」

 「大丈夫ですか?」

 「大丈夫です、すみません」


 どうやら失敗し、魔力が暴発したみたいですね。

 

 「焦らなくても大丈夫ですからね。落ち着いて、ゆっくりと魔力を両手に集めてください。感覚さえ掴めば簡単にできるようになりますからね」


 一度その感覚さえ掴みさえすれば、無意識に出来るようになります。


 「できました!」

 「上手ですね」


 獣人で魔法が使えるという事はそれだけ才能があるという事ですので、5人の中の二人が早速成功をしました。


 「では、次は片手でいいので、魔力の塊を好きな形に変化させましょう。最初は丸から四角でも構いませんので」


 僕は真ん丸の玉を四角に変化させます。


 「む、無理です!」

 「はい、少し難しい事ですからね。ですが、これが自由に扱えればそれだけ自分の魔力を自在に操れる証拠にもなります」


 要はイメージ通りに魔法を使える為の練習ですね。イメージ力が高ければ高いほど効果は高くなりますからね。

 そして、理論を覚えれば例え初級回復魔法である回復魔法ヒールが理論やイメージ力の低い中級回復魔法メガヒールを上回る効果を発揮する事だってあります。


 「それに、魔法はそれだけではありません。こうやって皆を楽しませることも出来ますからね」


 僕は魔力の固まりを猫の形に変化させます。


 「可愛いです」

 「子供とかが喜んでくれますよ。魔法とはみんなを助ける為にあると僕は思っています」


 攻撃魔法で魔物を倒す事も、回復魔法で傷を癒す事も大事ですが、それよりも、何よりも人の心を守るのが魔法の本質であり役目だと思います。


 「そういった意識を、何のために魔法を使っているのかを考える事も大事なので忘れないでくださいね」

 「「はい!」」


 実は、魔力の扱いよりも僕が教えるに辺り、一番伝えたかったのはこの事です。

 自分の魔法で何が出来て、何の役割を担うのか、明確な意思を持ってもらいたいと思います。


 「では、引き続き練習をしていきましょう。これが出来るようになった次の段階です!」

 「「「わかりました!」」」


 ギギアナさんに兵士達と模擬戦をしたり、魔法の練習を手伝ってほしいと言われ、簡単に承諾してしまいましたが、もし、反抗的な人達だったらどうしようかと実は少し不安でした。

 ですが、シアさんの所の人も、スノーさんとキアラちゃんの所の人達も、そして僕に教わっている人達も、全て素直に僕たちの言う事を吸収しようと真剣に向き合ってくれています。

 スノーさんが獣人は真っすぐな人が多いと言っていましたがその通りで安心しました。

 僕もシアさんも真っすぐな性格ですし、きっとそうなのですよね!

 結局、朝、昼、夕と兵士の皆さんは番に別れているようで、同じような事を3回繰り返す事になりました。

 勿論、途中で休憩を頂きながらですけどね。

 それでも……。


 「疲れた……」

 「疲れましたね」

 「楽しかった」

 「喜んでもらえましたね」


 意見が二つに分かれましたが、疲れたか疲れていないかと聞かれれば、正直疲れました。

 それでも、充実した気持ちの方が大きかったと思います。


 「これを明日もやるんだよね?」

 「はい、その予定です」

 「おさらいは大事」

 「大事なのはわかりますけど」


 各自、宿題を出していますからね、成果を見てあげないといけません。

 僕も明日までにせめて形の変化を出来るように宿題を出しました。

 それが出来るようになれば回復魔法ヒールの理論をどう理解しているのかを聞き、それを訂正してより効果をあげれるようにしてあげれればと思っています。


 「こっちはひたすら戦っているだけだからユアンが羨ましいよ」

 「僕は一日魔法を使いっぱなしですよ」


 魔力が無くなる事はありませんが、流石に疲れる事には変わりありません。


 「スノーが怠けていた証拠」

 「そんな事ないし!」

 「スノーさんが騎士団に居た頃はもっと大変だったんじゃないの?」

 「確かにそうだけど」

 「スノーさんには、明日もっと頑張って貰わないとですね」


 僕も頑張りますけどね!

 初めて僕が先生となり魔法を教えた子達ですからね!

 といっても、年上の人ばかりだったので子達というのは可笑しいですけど。

 それでも、先生は先生です!

 恐らく、明日には本国から返事が来る筈ですので、此処に居られるのは明日まで。

 明後日にはアルティカ共和国の王様の元へと向かう可能性が高くなります。

 もちろん、話を聞いていただけるのならば、ですけどね。

 それまでに、先生という役割を全うしたいと思います。

 ちなみに、ギギアナさんからの報酬はここを出る前に頂くことになっています。


 「もし、本国からいい返事が貰えなくて、報酬も反故になったらどうする?」

 「暴れて逃げる」

 「それはダメですよ。その時は、その時です」

 「何処に向かいますか?」

 「魔族領ともいかないですので、トレンティアの家かガロさんの所に戻りましょう」


 そこで一度今後どうするか考えるしかないですよね。

 冗談かもしれませんが、ローゼさんが匿い雇ってくれるとも言っていましたので、その時は相談してみるのもいいと思います。


 「どうなるにしても今日は休みましょう」

 「うん。ユアンと一緒」

 「なら、私はキアラを貰うね」

 「はい、スノーさんよろしくお願いします」


 最近はこの組み合わせで分かれる事が多くなりましたね。

 どうやらスノーさんとキアラちゃんの仲が深まっているみたいで何よりです。

 もちろん、野営とかで別の組み合わせもありましたのでスノーさんとキアラちゃんとも仲はいいですからね。

 

 「でも、別々って感じはしませんね」

 

 ベッドをくっ付けて、4人で固まるように寝ていますからね。

 僕の隣にはシアさんとキアラちゃんがいますし、キアラちゃんの横にスノーさんがいる形なので。

 何にせよ、今は明日に備え休むべきです。

 それではみなさん、おやすみなさい。

 また明日。

 大切な仲間に囲まれ、僕はゆっくり眠るのでした。

本国からの返事までいきませんでした。

毎回、予告詐欺みたくなっていてすみません。

ですが、次回こそ国境から旅立ちですのでご安心を?


いつもお読みいただきありがとうございます。

感想、ブックマークありがとうございます! 勉強にもなり、助かります!

今後ともよろしくお願いします。


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