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攻撃魔法は苦手ですが、補助魔法でがんばります!  作者: 緋泉 ちるは
第4章 国境~アルティカ共和国編
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弓月の刻、暇を持て余す

 「暇ですね」

 「うん」

 「やる事ないです」

 「そう?」


 ゆっくりさせて貰うと決めましたが、それが3日目ともなると完全にやる事をなくし、暇を持て余してしまいました。一人を除いて、ですけどね。

 

 「よく飽きませんね」

 「食べるのは楽しいからね」


 食べる事に対しではなく味について話したつもりでしたが、どちらにしてもスノーさんはお菓子をポリポリと食べてばかりです。

 それで朝食は勿論、昼食、夕飯をしっかり食べるから驚きです。

 もしかしたら、シアさんよりも沢山食べるのではないでしょうか?


 「ユアン、釣りしたい」

 「あ、私もです」

 「ダメですよ、もし誰かが呼びに来て、2人も居なかったら何処に行ったのか大騒ぎになりますからね」

 

 シアさんとキアラちゃんが期待を込めた目で僕を見ますが、僕は首を振り答えました。

 だって、転移魔法陣の事は伝えないと決めましたので、疑われる可能性が高くなるような使い方は出来ませんからね。一人ならトイレに行っている……も厳しいですね。トイレがあるのは部屋の外ですので、戻るのを待たれてしまったらアウトです。


 「退屈……」


 あぁ……シアさんの耳と尻尾がペタンと下がってしまいました。

 

 「それなら、体を動かしたらどう?」

 「どうやってですか?」

 「頼めば外で模擬戦くらいならやらせて貰えると思うよ?」

 「本当?」


 シアさんの耳がピンと立ちました。更に尻尾がゆっくりと左右に振れています。表情こそいつもの無表情に近いですが、感情を耳と尻尾で表すのはずるいですよね、可愛すぎます!


 「ユアンも同じ」

 「何がですか?」

 「耳、嬉しそうに動いてる」

 「そんな事ないですよ? それよりも本当に外に出れるのですか? 出来る事なら出たいですけど、向こうとしては大人しくしておいて貰いたいのではないでしょうか?」


 下手に騒ぎを起こされると対処に困ると思います。しかも僕たちの模擬戦は僕の防御魔法を使い、本物の剣を使い本気でやりますからね。

 事情を知らない兵士達は仲間割れだと勘違いするかもしれません。


 「その辺は事情を話せば多分だけど大丈夫だよ。向こうとしても、私達の実力を知っておきたいと思うだろうしね。万が一の為に」


 実力の測れない相手よりも、実力をある程度知ってわかる相手の方が対処しやすい。僕たちの実力を見る為にも許可は貰えるかもしれないみたいです。

 勿論監視はつくのが条件でみたいですが、それでも外に出る事が出来るのなら僕たちは構いません。 

 そして、部屋をでて警備をしている兵士の方に声をかけると、ギギアナさんの所に案内して頂いたのですが。

 

 「本当に許可出るとは思いませんでした」

 「だから大丈夫って言ったでしょ?」


 スノーさんの言葉通り、ギギアナさんに相談した所、快く許可を頂きました。

 こちらも予想通り、周りには兵士の姿がありますので、監視つきではありますけどね。


 「んー!!!」


 何にせよ、久しぶりの外です!

 僕は陽の光を体に浴び、籠っていない空気を思い切り吸い込み……伸びー!

 やっぱり外は気持ちいいですね。

 何よりもルードよりもアルティカ共和国の方が心なしか解放感があり、空気が澄んでいるような気がします。


 「ルードよりも自然豊かだからね、アルティカ共和国は」

 「田舎」

 「僕はごちゃごちゃした街よりは好きですよ」


 獣人だからでしょうか?

 ルード育ちの僕ですが、発展した街で暮らすよりも自然に囲まれた穏やかな時間が流れるような場所でゆっくりのんびりと暮らしたいと願います。

 忘れがちかもしれませんが、僕がアルティカ共和国を目指していたのは全てこの為ですしね。


 「それじゃ、体もほぐれたし、そろそろやろうか」

 「手加減しない」

 「最初はお手柔らか頼むね。ここ3日ほどまともに動いてなかったし」

 「それは、スノーの責任。私には関係ない」

 

 スノーさんはお菓子ばかり食べてましたが、シアさんは我慢できずにこっそりと転移魔法陣でトレンティアに戻り、体を動かしたり、剣を振ったりしていましたからね。しかも、僕たちの部屋を訪れる人がいない深夜にです。

 外に出る出入口を見張っているので、夜は人は来ませんし。

 何にせよ、その差が大きく出ないといいですけど。


 「では、ルールはいつも通り、麻痺ありでいいですね?」


 僕たちの模擬戦と言えばこれです。

 防御魔法で怪我はしませんが、剣が触れた場所は麻痺し、疑似的な怪我を負ったように動きが鈍ります。

 最近は少しずつ調整して、以前よりも再現出来ていると思います。痛みはないので、その辺は再現は出来ていませんけどね。


 「うん。いつでもいい」

 「やっぱりシア相手だと緊張するね。負けたくないし」

 「負けたくないのは私も」

 

 どちらも負けず嫌いですね。

 熱くなりすぎなければ、負けず嫌いは良い事だと思います。


 「では、準備を…………始め!」


 二人の間に、僕は立ち、振り上げた手を下に降ろし、僕はその場から飛びのきます。


 「ちょっと、いきなり!?」

 「油断しすぎ」


 僕が飛びのくと同時にシアさんがスノーさんの懐に低い姿勢で飛び込みます。

 それを、何とか防いでいますかキレがないですね。ですが、その分力がついたのでしょうか、シアさんを防いだ剣で下がらせます。


 「重い。体重のお陰?」

 「関係ないし。シアが軽いだけだよ」


 まぁ、元々受け身で戦うのがスノーさんですし、重くなっても関係はなさそうですね……多少なら。

 二人の戦いを見て、周りの兵士が驚いているのがわかります。傍から見れば、シアさんが本気でスノーさんに斬りかかり、それをスノーさんが防いだわけですしね。

 当然と言えば当然ですけど。

 そんな二人の攻防はシアさんが優勢で進んでいます。単純に、スノーさんが重いとかではなく、体をしっかりと動かしていた差ですね。元々シアさんの方が勝ち越しているようですし。


 「ユアンさん」

 「どうしました?」

 「たまには私も模擬戦しませんか?」


 二人の戦いの行方を見守っていると、僕はちょんちょんとキアラちゃんに肩を突っつかれ、そんな提案をされます。


 「僕たちでですか?」

 「はい。私思ったの、この前3人で魔の森を進みましたよね。その時に、私も前衛……とまではいかないけど、守られるだけではなく、攻める戦いができればって」

 

 シアさんとスノーさんが二人で入れ替わり休み、魔の森を進みました。

 そして、体調が悪いにも拘わらず、シアさんもスノーさんも僕たちの守りを気にしながら先導してくれたのです。

 キアラちゃんはそれが申し訳なく、悔しかったみたいです。

 当然、僕にもその気持ちはわかります。

 僕が出来たのは防御魔法を張り、二人をトレンティアに送り、迎えたくらいです。


 「わかりました。折角なのでお願いします」

 「うん! 私、頑張ります!」


 キアラちゃんと、というよりも僕にとって初めての模擬戦ですね。


 「えっと、キアラちゃんは弓ですよね?」

 「そうです。えっと……ユアンさんは魔法ですか?」

 「そうですけど、どうしましょう?」


 剣と剣、剣と槍、など接近戦での勝敗の判別は簡単ですが、僕たちは弓と魔法。しかも、僕は補助魔法を駆使する魔法使いです。

 勝敗はどうやってつければいいのでしょうか?


 「遠距離だし……お互いの体に攻撃が当たった方が勝ちというのはどうでしょうか?」

 「そうですね、それでいきましょう。それと、相手を降参させても勝ちにして貰えると助かります」

 「うん。それでやりましょう!」


 曖昧ですが、勝敗はそれと決まりました。


 「すみませんが、僕たちも模擬戦をしますので、合図をお願いできますか? それと、そこで戦っている二人の判定も」


 シアさんとスノーさんの試合を見守っている、というより唖然として見ている兵士の人達に僕は審判の役割をお願いします。


 「あ、うん。構わないが……あの二人、やるな」

 「まだ本気ではないみたいですけどね」

 「あれでか!?」

 「そうですよ? では、お願いしますね!」


 二人ともまだお互いに剣をぶつけ合うだけの準備段階ですからね。まだ致命傷を狙った場所への攻撃やフェイントを織り交ぜた攻撃はしていませんし。

 それに、本気のシアさんはもっと速いですからね!


 「では、準備を……怪我するなよ?」

 「はい、大丈夫です」

 「僕も大丈夫ですよ」


 僕たちは二つの意味で返事を返し、お互いに向きあいます。

 キアラちゃんは弓を持ち、僕は一応スタッフを手にし、準備を整えます。

 魔物との戦いも、人との戦いも経験はしましたが、いつも誰かの補助をし、誰かに守られて戦う事ばかりでした。

 もちろん、一対一の戦いはありましたけど、その数は数えるほどしかありません。

 なので、結構緊張しますね。

 しかも、相手は弓の扱いに長けたキアラちゃんです。今まで戦った事のないタイプなのでどんな戦法でくるのかも、どんな攻撃をしてくるのかもわかりません。

 ある程度は想像は出来ますが、キアラちゃんも成長しています。きっと僕の想像を上回ってくるでしょうね。


 「楽しみです。ユアンさん、手加減しませんよ」

 「僕も楽しみです。手加減……は僕もしませんけど、期待はしないでくださいね」


 問題は僕の攻撃手段ですね。

 攻撃を当てれば勝ちという条件ですが、あくまで攻撃となり、ダメージを与えれる攻撃を当てれれば、という条件です。

 そう考えると、ダメージを与えられる攻撃って僕は何があるでしょうか?

 と、考えていると僕たちの間に審判役の人が手を振り上げました。

 考えている暇はなさそうですね。

 戦っている間に僕が勝つ方法を探すしかなさそうです。


 「両者、構え……始め!」


 審判の腕が下がり、僕とキアラちゃんの模擬戦が始まりました。

 やるからには僕だって負けたくありません!

 どうにか勝って見せます。

 一応、僕は弓月の刻、リーダーですからね、少しは威厳を保つ必要がありますから。

 暇を持て余した、僕たちの戦《模擬》い《戦》が幕を上げたのでした。

弓月の刻の暇つぶし、それは模擬戦です。

娯楽などが少ない世界ですし、体を動かすのが一番かもしれませんね。

そして、ユアンとキアラの戦い、みなさんの予想はどうでしょう。

戦闘描写ですので期待はしないでお待ちください。


いつもお読みいただきありがとうございます。

今度ともよろしくお願いします。


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