異世界へ⑦
「トシさん、そろそろ休憩しませんか?」
リサがそう言いながらお茶を持ってきてくれた
「ん?そうか・・そうだな」
俺的にはまだまだやれるのだが、窓の外はすっかり暗くなってきているようだ。
リサさんは少し前に夕飯の用意があるとのことで、この場にはいない。
「ありがとう。ん?これは、緑茶?」
「緑茶を知っているんですね、このあたりの特産品なんですよ。」
リリはそう言いながら自分用に入れていたコップでお茶を飲む
「ところでトシさんは今夜どうするんですか?」
「どうするとは?」
「あ、いえ、今夜寝るところについてなんですが・・・」
「あぁ、そっか」
すっかり今夜の寝場所について考えていなかった、
まぁ盗賊を捕縛したときの金もあるし、どっかの宿で泊まることぐらいできるだろう。
「そうだな、もう遅い時間だしどっかこの村には宿みたいなものはないのか?」
「いえいえ、よかったらうちに泊まっていただいてかまいませんよぉ?」
そういいながら鍋を持ったリサさんがこちらに向かって声をかけてきた
「いや、さすがにそこまで甘えるわけはいかない」
「そんなことないです!トシさんなら歓迎です!」
少し顔を紅潮させながらリリが迫ってくる。
さすがにここまであからさまな行動をされては、よっぽど鈍感ではない限りその気持ちには気づく。
しかしその気持ちは一過性のものであろう。それを理解していながらこの家にお世話になるわけにはいかない。
「いや、今日もらった報酬もあるから、どっかの宿で泊まるよ。」
「そ、そうですか・・・」
少ししょんぼりしたリリを見ると悪いことをしてしまった気になる
「それでは夕飯ぐらいはどうぞ食べて行ってくださいなぁ」
リリは何となく察したような顔をしてこちらにウィンクをしてきた
「そうですね、ご迷惑でなければ」
既に迷惑をかけているんだがなと思いながらリリとリサさんとともに食卓を囲んだ。
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その夜
俺はリサさんに教えてもらった宿に来ていた。
この村に唯一ある宿屋である。
おれの他には商人や旅の人が泊まっているようだ。
「冒険者か・・・」
リリの父がしていたという仕事である、
リサさんに詳しく聞いてみたところそれは仕事ではなく、世界を旅する人の総称を言うらしい。
冒険者は町から町を転々と旅し、町にある役所やギルドで依頼される仕事をこなし路銀を稼ぐ。
そしてまた旅をするらしい。この世界は魔物がいる、また盗賊など治安もあまりよくなく、
冒険者になるものは基本荒事に強くなければいけないようだ。
前の世界ではろくに好きなことができなかった、
俺が生まれたころは世界的に治安が良く平和な国であったらしい日本だが、
物心がつく頃にはそんな面影は感じられなかった。
毎日TVのニュースでは戦争の話題だ、同じ日本のどこかで死者がでるのも普通だった。
そんななか俺は自衛隊への入隊を決めた。
いや、決めざるえなかった。
日々悪化する情勢に日本は各教育機関にあることを命じた。
『有事適応能力試験』、通称『赤試験』。
これは名前こそ試験とついてはいるが、日々の生活の中で能力の測定が行われている。
そして国が示している基準を満たしているものは晴れて入隊。
もちろん飛び級卒業である。
俺はこの制度の為、初等部のころに自衛隊に入隊した。
当時まだ11歳であり、初陣は12である。
それからは血なまぐさい日々が続いた。
毎日戦地を転々とし、帰国したとしてもすぐに次の任務がまっていた。
休暇は実家に帰るようにしていたが、両親が戦闘に巻き込まれてい行方不明になってからは・・・。
いや、昔のことはいいか、今は目の前のことを考えよう。
「そうだよ、昔のことじゃなくて、今を考えないと」
俺は窓を見る、そこには
「や、久しぶりだね。といっても君からしたら一日ぶりになるのかな?」
俺をこの世界に送り込んだ少年、いや、神がそこにいた。