運命の朝3
カンカンカン……。
耳障りな音を聞きながら、カケルは二度目の夢の回想を終えた。一度目の時とは違い、二度目の夢ではカケルはこの夢の目的に薄々気付いていた。
一度目も二度目も、カケルは最終的にすぐそこに見える踏切へ飛ばされていた。電車にぶつかった衝撃で下半身をちぎられ、上半身だけになった状態で、遮断機のランプに引っかかった状態。それが、彼が間違った選択をした際の最終地点だった。
二度目の夢でカケルが自覚したように、カケルは転移のたびに選択を迫られている。間違えた選択をすれば、踏切へ飛ばされ、夢は終わる。一度目は母子に関わってしまったこと、二度目は交差点鋲に触れたこと。それがバッドエンドへの引き金となった。
カンカンカン……。
『まもなく、二番線を、電車が通過いたします。危険ですので、白線の内側へ……』
アナウンスを聞きながら、カケルは三度目の夢のことを思い出そうとしていた。
一度目の夢でも、二度目の夢でも、踏切に飛ばされたときのカケルに、もしも正常な判断力と命が燃え尽きるまでの十分な時間が残っていれば、彼はその場の状況を正しく理解できたはずである。電車にはね飛ばされた直後の場面に、転移してきたのだと。
正しい選択をしなければ、カケルは電車にはねられ、体の下半分を失う。そして意識を保ったまま遮断機にたたきつけられるという運命を迎える。夢なら、たまたま壊れなかったスマホの画面に触ることで、目覚めた瞬間に戻ってこられた。赤く点滅するスマホの画面はもちろん、カケルの目覚まし時計もまた、赤く点滅する光を出すという点、そして夢と現実の境界にある点で、転移先の条件を満たしていたからだ。
一度目、二度目の夢の結果だけを見るなら、カケルはこのまま電車にはねられる運命にある。そして、その運命を回避することこそが、カケルが三度にわたってみた夢の目的であった。
カケルには、ここまで正確に今の状況が理解できていたわけではない。ただ、彼は遮断機の音に増幅された不安の中で、必死に三度目の夢を思い出していた。その結果次第では、自分に恐ろしいことが降りかかることを確信しながら。
現実世界には、転移はない。
今はまだ彼を轢く運命にある特急電車が、けたたましい警告音と共に近づいてくる。
裏設定
カケルの最寄り駅は四番線まであって、急行列車が停まるけど特急までは停まらない。