運命の朝2
カンカンカン……。
遮断機の音が遠くで聞こえる。カケルは夢の内容を思い出していた。一瞬で頭の中を夢の景色が駆け巡り、頭がくらくらするような気がした。呼吸は速くなっていた。
カケルは今まで夢の内容を覚えていることはほとんどなかったが、この朝に限っては、カケルは思い出すことができた。しかし、その理由にカケルが注意を巡らせることはなかった。思い出した内容を頭の中で整理するのに精一杯だったからだ。
カケルが夢で見たのは、赤く点滅するものに触れるとどこか違う場所に「転移」するというおかしなルールが支配する世界だった。その世界でカケルは転移をし、そして最終的には「あの」場面へとたどり着いた。
カケルがなぜそうのような夢を見たのか。夢の中には見ている本人が最近経験したことや、深層心理が現れると言われる。赤く点滅するものなど、日常にはあふれている。カケルが最近始めたゲームのゲームオーバーになったときに表示される画面、あれも赤く点滅するエフェクトになっている。
それらに「転移する」という、まさに夢のような要素が加わったとしたら、カケルが見たような夢を見てもおかしくはない。普段と違ってカケルが親子に対して強引な行動をとったのも、夢のせいで片付けられることだ。
抑圧された心理が、夢の中で現れたのかもしれない。夢なら、そういうこともあるだろう。
たかが、夢なのだ。
しかしカケルには、どうしてもそう思えなかった。
カケルはまだ、夢の最後で見た「あの」場面のことをしっかり理解できなかった。答えはすぐそこにあるのだが、カケルは理解することを拒んでいたとも言える。混乱する頭で、考えることを放棄して、さっきからしているゲームの操作を続けようとした。手が思うように動かない。手足がふわふわして、まるで夢の中の感覚のようだと、カケルは思った。
時間が経ちすぎたのか、すでにゲームオーバーになっていた。
夢の中の世界で、カケルは最期に下半身を欠損していた。上半身だけの姿になって、赤く点滅するものに触れていた。
その正体が遮断機の赤いランプであったと、なんとか気付くことができたとき、カケルはまた思い出していた。カケルがこの夢を見たのは一度だけではなかった。何度か見た夢だったのだ。