白い箱(箱物語8)
週に二度の塾からの帰り。
九時過ぎに、わたしはこの公園を通り抜ける。
この夜。
真冬の、しかもうす暗い公園。葉を散らした木の枝がいっそう寂しく見えた。
公園の中ほどにさしかかったとき、子守歌を歌う声が聞こえてきた。
――今日もいるんだわ。
わたしは街灯の下のベンチを見やった。
若い女の人がいつものようにベンチに座り、おくるみに包まれた赤ちゃんをあやしている。
この、ひと月。
ここを通るたびに見かけていた。
今夜のように赤ちゃんを抱いて、女の人は子守歌を歌っている。
――夜泣き、ひどいんだろうな。
そんなことを考えながら、わたしは赤ちゃんの顔を思い出していた。
はじめて見たのは秋が始まるころ。
やはり、あの街灯の下のベンチだった。
――たしか女の子だったな。
あれから三カ月たつので、ずいぶん大きくなっているはずだ。
――かわいらしくなってるだろうな。
赤ちゃんの顔が見たくなった。
「こんばんは。赤ちゃん、見せてもらえますか?」
声をかけ、わたしはベンチの女性に歩み寄った。
「どうぞ、見てやって」
女の人がニッコリほほえむ。
さらに気をきかせ、おくるみをはいで開いてくれた。
「ねっ、かわいいでしょ」
街灯の明かりが、おくるみの中を照らし出す。
――えっ?
わたしはおもわず息が止まった。
見えたのが赤ちゃんではなく、白い布で包まれた真四角の箱だったからだ。
――どういうこと?
とまどっていると……。
「寒いわ、もう帰りましょうね」
女の人はベンチを立ち、ふたたび子守歌を歌い始めたのだった。
小さな白い箱に向かって……。