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誤って殺されたのだから、第二の人生を歩ませて下さい……  作者: 今野常春
第二の人生はエラーが発生していた。
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第八話 デレス、採用試験を受ける①

「この者に採用試験を受けさせたい?」


 急遽アバンの中心地から戻ったカナタ達はキューレン・デレスを連れてヴィレスタ・アーバカストの居場所を尋ね、執務室へと向かった。そして、カナタが父に対し願い出たのだった。

 ヴィレスタも大貴族の当主である前に人の親である。情を利用して少しでも確立を上げようと客人待遇のレイシェル・マダレールによる提案がテレサに認められたのだ。


 これにはカナタもいの一番に賛成する。その根源は山本彼方の考えである。新しい父親と言う感覚はある物の、どこかで一線を引いているのだとこの時思わざるを得なかった。


「はい! 僕がアバンに出てとっても料理が美味しかった人です!! この家でも食べたいと思いました」


 嬉しさと興奮による子供の早口はヴィレスタの思考でも正確に捉える事は出来ず、補足説明を行うようにテレサへと視線を向けた。

 彼女は努めて冷静に視線の答えを述べ始める。何故その店を選んだのか、から始まり採用しようと動いたのかまで詳細に答えた。

 だが、当然彼に町長の件が発覚し、独断で解決した事もばれる。


「後ほど査察官を派遣せねばならんな。安心しろ、既にテレサがカナタを通じてその者らを追放処分としたのだから覆す事はない。彼らにはそれ以外の調査を行って貰わねばならん。それで、彼女を当家の料理人として採用したいという物理解した。だけどなけじめは取らねばな」


 ヴィレスタは椅子に腰掛けていたが、言葉を区切ると立ち上がる。その事にカナタ達は首を傾げる。


「アーバカスト侯爵家当主、ヴィレスタ・アーバカストとしてキューレン・デレスには謝罪を述べねばならない。今回は済まなかった」

「えっ!!」


 カナタを含めた四名は彼の折り目正しい謝罪の仕草に驚いた。


(俺、間違ってないじゃん……)


 カナタはヴィレスタの謝罪を見て一瞬テレサを見る。しかし、その驚いた表情を見て言葉に出す事を止める。


「ご主人さま!?」

「言うな、テレサ。今回ばかりはこの様にせねばならない……」


 ヴィレスタはそう答えると頭を上げる。依然として対象のデレスと巻き込まれる様な形で頭を下げられたレイシェルは固まったままだった。しかし、彼等の声は耳に届いている。

 だからこそ、余計に思考力を奪われる。


 この場合、デレスは他の領主の領民である。彼女は侯爵家が選んだ人間によって不利益を被った形となる。当然デレスは告げる事はないが、それは必ず漏れ伝わり、領主の耳に届く。するとその者から謝罪と賠償を求めて来る流れとなる。しかし、こうして大貴族たる侯爵が頭を下げ、謝罪を述べる事でその事で突いてくる事は出来なくなるのだ。


「そこまでの配慮が至らず、申し訳ございません……」

「気にするな、テレサは領主になる者ではない。知らないのが当然なのだ。さて、デレス、君は当家で料理人として働きたいのだな?」

「は、はい。私にはどうしてもやりたい事が在りますから」


 彼女は幾分落ち着きを取り戻し、自ら進んで研究内容を話し始める。


「魔法栄養学? 済まない、初めて聞く名だが、それは我らが食しても問題ないのか?」

「侯爵様は魔法についてどれほど知識を有しておられますか?」

「残念だが、少しだな。当家に魔法を使用出来る者が存在しない。尤も可能性を含んでいるのはカナタだ。それも一年後の検査結果待ちと言う状況だ」

「そうでしたか。私はどの様な方々にも少なからず魔力が存在していると考えています」

「それは私でも魔力を有し、魔法が使えると言う事か?」


 ヴィレスタは僅かに上擦った声で問い掛けた。彼も魔法と言う物を使用してみたいという願望は少なからず抱いている。だが、デレスは申し訳なさそうな表情で首を横に振る。


「申し訳ありません。魔法はやはり一定量の魔力を有していないと使用出来ません」

「そうか、それは仕方がない。それで、魔法栄養学は僅かな魔力を持つ者にもどの様な影響を齎す?」

「睡眠などから得られる疲労回復を促進すると考えています。実際に食事をなさった方からお話を聞かれては如何でしょうか?」


 デレスはこの時確信を以てヴィレスタに答える。何より身近に体感出来る者がいるのだから使わない手はない。

 最初に尋ねられたのは魔導士のレイシェルだった。


「確かに魔力の回復を感じました。あのお店で最初に指摘したのが私でしたから……」

「なるほど。次はテレサだな」

「言われてみますと体が軽くなった様に思えます。これもデレスの料理によるものでしょうか?」

「是までにお休みに為られていれば、そちらでしょう」


 デレスは敢えてそうだとは言わなかった。


「随分と自信を持っているのだな。よかろう、試験を行う事を認めよう」

「有難う御座います!!」


 大きく頷いたヴィレスタは彼女が試験を受ける事を認めた。それに対し、カナタ達は大きく頭を上げて彼に礼を述べた。


「但し、試験は一発勝負、加えて今直ぐに行う。テレサ、関係者を集めろ。オイレン、準備を頼むぞ」

「承知致しました、ご主人様」


 二人は彼の指示に深く頭を下げ、各々準備に取り掛かる。テレサは料理長以下全料理人の召集と説明を、執事オイレン・アースゲルドはアルメナを呼びに向かい、さらには会場の設置と後者の方に仕事量が大きいのは信頼の表れである。


 それから一時間後、急遽行われる採用試験だが、二人の尽力により無事漕ぎ付ける事に成功していた。


「それでは、アーバカスト侯爵家料理人採用試験を開始致します。司会進行役はテレサ・ベリットが務めさせていただきます」


 淀みなく話すテレサに会場からは拍手が送られた。送っていたのはカナタであり、それに吊られる形で徐々に大きくなった形だった。

 出席者は以前デレスに説明したとおり、侯爵家の人間カナタと両親が中央に座り、少し離れてマックリード・デインス料理長以下料理人の総勢三十名が出席している。その他にも料理を運んだりする女中や、エレナ等侍女も含めて食堂内は六十名を軽く超えていた。


(やっべ、ノリで拍手しちゃったよ。まあ、微妙な雰囲気で終わらなくて良かった……)

「今回は推薦書の無い採用試験です。その為、プラス点は御座いません。点数は一人十点、三百満点から二百八十点を合格と致します」

「九割か……」

「あら、カナタはすぐに計算できるのね! 偉いわ!! テレサとエレナのお陰かしらね」

「えっ!? う、うん。二人のお蔭なんだ。凄いでしょ……」


 アルメナに聞こえてしまい、あわやというところで誤魔化せた事にカナタは安堵する。


(あっぶねぇ…… 気を付けないとな……)


「それと、彼女はマデリア王国の国民ではありますが、以前は東方の国の者でした。その為今回は得意料理で審査して頂きます。デインス料理長構いませんね?」

「当然だ。彼女がどのような経歴であれ、旦那様がお認めに為られた受検者だ。ならばそれに否と言う者は俺の部下にはいない。安心してくれ」


 デインスは腕を組み、威厳たっぷりにテレサへと答える。彼は普段表に姿を現さない。その理由は常に料理研究に勤しみ、食材の調査も併せているためだ。事実、カナタも姿を見るのは初めてで、カナタの記憶にも存在していなかった。


「有難う御座います。それでは、受験者のキューレン・デレスは移動してください」

「は、はい!!」


 女中に案内される形でテレサの横に立たされ緊張していた彼女は調理場へと移動する。その際、カナタは彼女に届く声で応援の言葉を投げ掛けた。


「頑張ってデレスさん!!」

「有難う御座います、カナタ様」


 二人の会話に周囲からざわめきが起こる。何しろ侯爵家の嫡男が気心許す存在だったのだと理解したからだ。だがそれで点数が変化するわけではない。全員が職責に忠実であり、環境に左右される者は審査員として選ばれていないからだ。


 その後、調理場に入り、合図の鐘が打ち鳴らされ一時間の試験が始まった。その間、テレサはデレスの事を詳しく知らない者に話を行う。当然全員が耳を傾ける中、カナタだけは座っていながら舟を漕ぎ始める。流石に危ないという揺れを始め、エレナが慌てて抱き抱えた。それでも彼女の腕の中で気持ち良く眠る姿に誰の文句も飛んでは来ない。


 寧ろその可愛らしさから目を奪われる女中や、中には男の視線も集めていた。当然真正面で説明を行うテレサも口は饒舌ながら、その瞳は常にカナタへと向けられるほどであった。

 その光景を目の当たりにする特別審査員のレイシェルは大きく溜息を吐く。


「私の貴族像が大きく崩れていくわね…… お願いだから美味しい物を早く食べさせてね、デレス……」


 半ば思考放棄に近い感覚で自らの希望を口にしたレイシェルは、終了までの間を過ごす事となる。

 ご一読頂き有難う御座いました。

 話が長くなる為、分割投稿致します。

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