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誤って殺されたのだから、第二の人生を歩ませて下さい……  作者: 今野常春
第二の人生はエラーが発生していた。
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第一話 カナタ、意識不明から回復する。

 マデリア王国の王都マデリアは国史と共に最重要な都市として常に中核を成してきた。しかし、人口増加と地理的な影響からこれ以上の拡張が困難と判断され、王都より西側へと移動した場所に新都市建造が始められた。

 そして時は流れ、その地は王国第二の都市ベリアンと言う名前は誰もが知るところとなる。


 ベリアンは時間の経過と共に発展を遂げ、王都の防衛機能を果たすと共に経済の中核を成す。その理由は方々に延びる街道の集結地となり、自然と人物金が集まるためだ。


 そして、この都市の建造に尽力した人物が、モノーデル・アーバカストと呼ばれる一人の若き貴族であった。彼はゼロから建造を始め全ての計画を一手に引き受け、それを円滑に滞らせることなく王より命じられた期限を守り完成させる。この功績により、彼には侯爵位への陞爵とベリアンと王により命名された産声を上げた都市を任されるようになる。


 さらに時は流れる。モノーデルが侯爵となりこの都市を任されて以降も、より発展に尽力した。それはアーバカスト侯爵家の代々続く壮大な事業として、家訓により継続されることになる。『我が侯爵家を栄続させよ。それはベリアンの発展と共にあり』モノーデルはこの言葉を息子に残し、息を引き取る。そして彼はその言葉を家訓として明文化すると共に、侯爵家の法として組み込んでしまう。


 だが、それも限界を迎える。永遠に都市を拡張する事は不可能であるからだ。そこで、アーバカスト侯爵家は王の許可を得て新たな都市の建造を始める。それがアーバカスト侯爵領の中心地となる第三の都市アバンであった。

 この物語はこの地より始まる。




 都市アバンに於いて一際歴史を感じさせる屋敷が存在する。王国では知らぬ者はいないとされるアーバカスト侯爵家の本宅である。その場所では、言い知れない緊張感と慌ただしさが支配している。


「至急回復魔法を使用出来る者を呼び寄せるのだ!!」

「は、はい。直ちに呼び出します!!」


 彼はヴィレスタ・アーバカスト。アーバカスト侯爵家の当主であり、この屋敷の最高権力者である。彼の言葉を受けた執事は一目散に駆け出し、大勢の使用人へ命令を伝えていった。その様子を見て、彼は大きく息を吐き出すと、その根源たる息子へと視線を向ける。


「ああ、カナタ! カナタ、返事をして頂戴!!」


 ヴィレスタの妻にして息子の母アルメナはベッドで呼吸を荒くし、意識を失いぐったりする愛息子カナタへ必死に声を掛け続けている。その脇ではカナタ付きの女中も必死になり冷えた布を頭に置き、氷も多量に使用して熱を下げよう頑張っている。

 ヴィレスタはその光景を見て最悪の事態が頭を過るが、すぐに切り替える。


「アルメナ、今魔導士を呼び出している。それまで、カナタに声を掛け続けるのだ!!」

「あなた、急ぎお願いします! カナタを、カナタを……」


 すでにこれ以上の言葉は続かず、アルメナと目配せすると彼はその場を後にする。

 彼はこの時、侯爵と言う立場に苛立ちを覚える。爵位を持つ者はいかなる時も冷静沈着に、常に紳士であれとは形骸化されているが、依然としてこうして父親として息子を心から心配し行動に移せない。それが彼にとってはもどかしく、同時に妻アルメナを羨ましく思う。


 それから程無くして、偶然回復魔法を使用可能な魔導士が存在している事が判明し、至急屋敷へと連れて来る事が出来た。これには探しに出た者たちは大いに安堵している。主人の命令が困難かつ時間を要する内容であったからだ。

 しかし、命令内容が回復魔法使用者と漠然としていた為、彼らはこれで務めを果たした物だと安心しきったのだ。


「侯爵様、レ、レイシェル・マダレール…… お呼びと聞き参りました!!」


 若干声高な口調で名乗った魔導士レイシェルは何とかヴィレスタに挨拶を行う事が出来た。だが、それ以上に彼の方が緊張しているのをこの時誰も気付かない。


「う、うむ。よく参った!」

「それで、如何様なっ!?」


 レイシェルは頭から黒のローブを纏い、魔導士の象徴である腕輪を左腕に装着している。

 ヴィレスタは証をすぐに確認すると、彼女の問い掛けに返答する間もなく腕を掴み屋敷へと連れ込んだ。

 その事に彼女は驚き、踏み止まろうとするも彼の力に抵抗できなかった。


「先ずは来てくれ! 話はそれからだ!!」

「わ、分りました。分りましたから、手をお放し下さい。しっかりと着いていきますから、侯爵様!!」


 彼女の悲痛な声に、漸く我に返った侯爵は手を放す。


「ああ、済まない。どうにも余裕がなくてな。さあ、こっちだ」

「はい」


 ヴィレスタは急ぎ足で長い廊下を移動する。その後を彼女は駆け足で追う。何しろ体格差があり、歩幅に倍近くの差が出ていた。その為、置いて行かれない為には駆けるしかなかった。

 廊下を進み、階段を上る。それだけでもこの屋敷の大きさが実感できるレイシェルは、若干息を切らして目的地へとやって来る。


「アルメナ、魔導士を連れて来たぞ!!」


 ヴィレスタは扉を執事に開けさせると、勢いよく室内へ入り、吉報を届ける。その言葉に室内に居るアルメナと女中の二人は一斉に彼へと視線を向ける。


「ああ、あなた、急いで下さい! カナタの呼吸が!!」


 アルメナの悲痛な言葉にヴィレスタは心臓を鷲掴みにされる。そして、後ろに居るレイシェルに視線をやり、一言「頼んだ」と言葉を掛けた。


「先ずは確認致しましょう…… 魔法はその後です」


 沈痛な面持ちのアルメナを移動させたレイシェルはすぐにカナタの容体を確認する。額に手を当て、首や手首を触り脈拍を確認したあと、瞼を開けて眼球を見やる。その行為に後ろで固唾を飲んで見守る四人は首を傾げる。この様な行為を行うのは医者の役割で、魔導士は即座に魔法を唱えるものと考えていたからだ。

 しかし、要請した手前この行為にケチを付ける訳には行かず、只管助かるのを祈る。


(う、嘘!? この子、殆ど死にかけているじゃない!! 今のままでは私の魔法如きでは回復は見込めないわ。でもこの事を述べるとどうなるのかしら……)


 レイシェルはカナタの容体に確認して愕然とした。そして自らの手に及ばない状態である事を認識する。しかし、ここで無理だとは言い出せず、僅かな沈黙した時間が流れる。


「マダレール、どうかな。カナタは助かるのか?」

「へっ!? は、はい。必ずや、カナタ様をお助けして見せます!!」


 自らの心を読まれたかの様に驚いたレイシェルは、素っ頓狂な声を上げてヴィレスタに答える。だが、その台詞も空手形に過ぎず、彼女の予想はほぼゼロに近い数字であった。

 しかし、助けると宣言した以上彼女は自らの魔法で助けなければならない。彼女は出来る事なら頭を抱えたくなる思いであった。


(言っちゃった。言っちゃったよ…… バカ、何でその様な言葉を口にしてしまうのよ!!)


 内心で焦りは最高潮に達し、それが汗となり体に現れる。額から流れた汗が頬を伝い、ベッドへ一粒落ちる。


(やれるだけやって、ダメならトンズラね! 有るだけの魔力で魔法を放ち、その隙に逃げ出してやるわ!!)


 魔導士の場合、魔力切れを起こせばその場で気絶するのが常である。つまり、彼女の考えは最初から破綻し、それに気付かないほど彼女は追い込まれ緊張しているのだ。しかし、彼女は追い込まれた状況ほど燃えるタイプでもある。

 大きく深呼吸した後、決意した彼女は魔法を唱え始める。


「水の精霊『ウエイタン』よ」

(ああ、これで私の短い人生も終わるのかしらね。でも逃げ出せれば……)

「我に力を与え給え、生命の源水!」

(ええ、私はレイシェル・マダレールよ。最高の魔導士と謳われるマーレイン・ルードスの一番弟子じゃない!!)

「この者に生を与えよ、『ヒール』!」

(もう、ありったけの魔力を注いでやるわ。だから必ず回復しなさい! そして私にまだ訪れない春を与えるのよ!!)


 魔法を使用し始めたレイシェルは体全体から淡い光が浮かび上がらせる。そして、言葉と共に光は左腕に装着された腕輪へと集まって行く。

 そして、全体の光が一点に集まった事を確認したレイシェルはカナタの胸元へその腕輪を当て、ヒールの回復魔法を唱えた。


(お願いよ! 本当に回復してちょうだい!!)


 彼女の神頼み的な言葉を天は聞き届けたのか、思いと魔力が最高潮に達したとき、室内は目も眩むほどの激しい光に包まれた。それは使用者すら視界を奪われるほどであった。


(えっ、何この光!? 眩しくて目を開けていられないわ!!)

「キャッ!?」

「くっ、目が!?」

「ま、眩しいわ!!」


 レイシェルの真後ろで固唾を飲んで見守っていた四人は言葉と共に手で目を覆い激しい眩しさから逃れようとする。

 そしてさらに後ろに控える侍女も声を出さなくとも目を守る様に手で押さえていた。


 室内中に放射した目も眩むほどの激しい光は、次第にカナタへと戻されるように吸収された。そして、室内は元に戻り静寂がこの場に流れる。


「せ、成功したのか……」


 最初に言葉を漏らしたのはヴィレスタだった。彼の言葉を受け、半ば放心していたレイシェルがカナタの腕を取り脈拍を確認し、額に手を当てて熱を確認する。その後、耳を鼻元へ近付けて呼吸を確認する。


(か、回復している!? 呼吸の乱れも熱も下がっている。これは奇跡?)


 そして、彼女は大きく息を吐き出し侯爵たちに振り替える。


「侯爵様、カナタ様は無事に回復されています」

「ほ、本当か!?」

「カナター!!」


 ヴィレスタはその場で何度もカナタの容体を確認し、アルメナは真っ先にカナタを抱き締める。そして侍女の二人は互いに抱き合った涙を流し喜びと安堵の声を上げていた。

 一方、当のカナタはこの状況を全く理解出来ず、茫然とした状態でアルメナに抱き締められている。その衝撃で、カナタは目を覚ました。


(えっ、何この状況…… 俺は何故美人に抱き締められているんだ?)


 カナタは山本彼方の意思でこの場に存在していたのだ。彼は目が覚めると同時に、見慣れぬ天井と庶民が使用する事はない豪華なベッドで寝ている事に驚かされた。そして、今自らを抱き締めている美女に、更に驚かされていた。


「カナタ、本当に良かったわ。母はどれほど貴方を心配したか……」


 アルメナは大粒の涙を流し、カナタを力一杯に抱き締める。それはもう二度とこの様な事態にはさせない、と言う母親の決意の表れであった。


(母だって!? いや待てよ、確か俺はあの日、誤って殺された…… そう名前は山本彼方。これは俺の名前だ。大丈夫、しっかりと覚えている。それで、俺を殺したのが執行者と呼ばれていたな。その女性の名前が思い出せない…… でも、上司の様な女性が第二の人生を用意すると話していた。つまり、これがその世界と言う事か)


 彼方は抱きしめられている間、何もせずただ状況把握とここに至るまでの事を思い出していた。その為、アルメナは全く反応を見せないカナタを心配する。


「カナタ、どこかまだ具合が悪いのかしら? 今ならまだ魔導士の方がいらっしゃるから何とかなるわ」

「ま、魔導士ですか……」


(おい、魔導士って、魔法を使用出来るあの魔導士か? つまり俺はファンタジーの世界で新たな人生を歩むというわけか……)


 彼方の思考を読み取れるわけがないアルメナは、カナタの言葉に簡単な説明を行う。


「そうです。カナタは流行病が悪化して意識を失っていたのです。ですが、此方に居るレイシェル・マダレールさんによって回復したのですよ」


 彼女の説明で彼方はレイシェルへと視線を向ける。すると、そこには小柄な真黒なローブを身につけた美少女が恐縮した面持ちで立ち、目が合うと頭を下げてきた。


(やばい、これって将来有望な超美少女だ…… それに、俺のポジションは所謂お貴族様?)


「マダレールさん、有難う御座いました……」


 彼方は自ら話せる日本語で彼女へとお礼を述べる。すると彼女は途端に驚きの表情を見せる。そればかりか、アルメナを始め、この場に居る者全てが同様の表情であった。


「カ、カナタ様、平民たる私にその様なお言葉など勿体なく」


 彼女はそう言うと深々と頭を何度も下げた。何度も素早く頭を上下させ、カナタは少し笑いそうになる。


「あれ。は…… 母上、僕は何か間違いましたか?」

「母上? カナタ、私をそう呼ぶのですか?」

「駄目でしょうか?」


(あれ、俺の言葉使い間違っているのか? それに日本語で大丈夫なのは仕様ってやつかな?)


 彼方は不安げにアルメナに尋ねる。だが、彼方の質問に彼女はほほ笑みを向ける。


「いいえ、それで良いのです。アーバカスト侯爵家の一員としてその言葉使いは正しいのですよ」

「はい、母上」


 アルメナはカナタの頭を撫で、その言葉が正しい事をはっきりと伝える。


「カナタは貴族の息子です。彼女は魔導士とはいえ平民と言う立場です。この場ではその言葉は正しいのですが、私たち以外の者が耳にすれば問題が生じると考えておくのです」

「は、はい……」


(マジかよ。つまり、貴族様絶対主義的な世界観ってことか……)


 彼方はこの時、この世界のカナタと融合を果たす。その起因はこの世界の理を理解する事だった。

 それに合わせ、何とか踏ん張っていたレイシェルも持てる魔力を回復魔法に注ぎ込んだ結果、床に御倒れ伏したのである。


「マダレール!? おい、彼女を客室へ運べ、それと要望は何でも聞くのだ!」

「承知致しました、旦那様」


 執事はヴィレスタの言葉を受け、二名の新たな侍女に彼女を運ばせ、この部屋を後にする。


「それではカナタも体を綺麗にしなければいけないわね。テレサ、エレナ任せるわね」

「はい、奥様」

「さあ、参りましょうね。カナタ様」

「へっ? あれ、ええ!?」


 カナタは事態を把握しきれないまま、別の場所へと連れて行かれるのであった。


 ご一読頂き有難う御座いました。

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