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理想郷  作者: 紫木
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失意

これは彼が愛した理想郷の話です


とても傷つき易いくせに、とても臆病者なくせに

私達兄妹を守るために、その体を戦場へと投げ出した愚かな人


私達兄妹は他人に迷惑をかけて生きてきました

生き延びる為に残飯を漁り、時には裕福な人を襲いもしました

それは生き伸びる為に当然の事で必要なことでした

この世界は誰にでも等しく平等に与えてはくれません


やがて私達兄弟はこの世界から見放されました

私達の生き方が道徳的に反する行為だとして


罪人と呼ばれた私達は帰る家も失いました

毎日の様に私達は追われました


生きる事が本当に辛かった

でも死んでやる事はもっと辛かった

毎日悔しくて、毎日泣いていました


そんな時に現れたのが彼でした


彼は私達を偏見の目で見ずに、寄り添う様に隣に居てくれる人でした

最初は疑いもしました

どうして昨日今日会った人間を信じる事が出来ましょうか

私は彼が嫌いでした

面と向かって人助けなどという言葉を口に出来る人間をどうして信じる事が出来ましょうか

私は彼に多くの罵詈雑言を浴びせました

それでも彼は私達の傍に居てくれました


そんなある日、彼は私達の為に人を殺しました

殺された人は私達を追いかけていた役人でした


後に兄はあの時の事を振り返ってこう言います

彼があの場で手を下してくれなかったら、きっと俺が殺していただろうと


その行動が、その行為が正しいかどうかは分かりませんが

私たち兄妹にとってそれはとても大事な事だったのです


彼は殺した相手に許しを乞う事も無く、懺悔する事もありませんでした

彼には自分の行動に一片の悔いも無かったのです


どうして彼はそこまでして私達を守ろうとするのでしょうか

どうして彼はそこまでして守る事に拘るのでしょうか

私には理解出来ませんでした

兄には彼の行動原理が少し理解出来ていた様で、少し嫉妬していたのを覚えています


紆余曲折を得て、彼は私達兄妹にとって大切な人となりました

家族よりも大切な人、血の繋がりよりも大切な人

彼にとっても私達兄妹がそうである事を疑うことはありませんでした


彼はとても穏やかに笑っていました

彼は本当に私達が大切だと言ってくれました

彼は私達に出会えて良かったとそういって笑いました


今となっては彼の本当の気持ちを理解出来なかった自分を悔やむばかりです


他の人が10を与えられれば幸福と感じるのに対して

彼や私達は1を与えられれば幸福と感じでしまうのです


私はその事実に気付く事が出来ませんでした


幸せな日々が長く続き、自分たちの立場を私達は忘れてしまっていたのです

世界は罪人を許してはくれません

私達の前に英雄と呼ばれる一人の女性が立ち塞がりました

もちろん、私達を罰する為に


彼は私達を守る為に、その英雄と対峙する事となりました


そして私達兄妹は彼を失ってしまったのです


これはそんな彼を愛した兄妹と、彼が愛してくれた、とても小さな理想郷のお話です


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