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無関心系女子

無関心系女子の日常。

作者: せん

2作目になります。


皆様の良き暇つぶしになれたら幸いです。



 目の前に差し出された書類。手は一世代前のノートパソコンに置かれたままである。モニターには何とも汗臭い野郎共の姿が。


 そして机の向こうに微笑む美形。


「悪いけど、よろしく。またうちの庶務ちゃんがやらかしたんだよねぇ」

「はあ!?は、おま、ええ!?いつの間に!?」


 じゃ、よろしくーと無責任に去って行った美形はまさに悪魔である。いや、むしろ原因を作った庶務が悪魔か。どっちだっていい。迷惑をこうむるのはこちらなのだ。


 そろり、と書類に手を伸ばす。ひと際大きなフォントでうたれた『備品の破損について』の文字。この時点でもう目をつむってしまいたい衝動に襲われる。一体何を壊したのやら。わざわざ私の元へ持って来たということは、放送機器なのは間違いない。ビデオカメラやCDラジカセならまだいい。いや良くはないが。


『無線マイク2本、有線マイク用コード、マイクスタンド、折りたたみ式事務机、デジタルビデオカメラ』


 泣きたい。何をどうしたらここまで壊れるのか。書類をシュレッダーにかけたい衝動に駆られる。なぜ生徒会の過失を私が、というより放送局が処理しなければいけないのか。教師に頭下げて発注するのはこっちなのだ。壊れた備品の廃棄にすらお金と手間がかかる。労力、というより精神力を削られるのである。気のせいか頭が重く、顎を机に載せてうなだれた。


「御幸さ~ん…これは無いんじゃないでしょうか…まだ5月ですよ…すでに予算が…いや予算はあるけど…」

「いやー俺もね??注意はしてたんだけど…。なんか勝手に手伝いにいっちゃったらしくて…。」

「何でそんな奴生徒会にいるの!!そいつのせいで生徒会も放送局も信頼ガタ落ちするんだけど!!」

「ねー…。」


 御幸こと生徒会会計様は目を細めて明後日の方向を眺める。立場は違えども心境はほぼ同じであろう。ノートパソコンを横にずらし、書類を見る。改めて見るとすごい量だ。逆に凄い。去年より悪化してるんじゃなかろーか。


「陸斗も、頑張ってはいるんだけどね…。」

「なら庶務じゃなくて書記とかさあ!もっと引きこもってるような仕事やらせればいいじゃん!」

「いや、それこそ書類ミスされたら困るし。二度手間だよ。」

「もうどうでもいいや。提出書類は作ってやるから沖田先生には御幸が持ってってね。」

「地味にいやなとこ押し付けたな…。まあ責任は俺にもあるし。わかったよ。」


 妙齢の男女2人が密室にいるという状況において、なんとも色気のない会話である。そこら中に書類が積み上げられた空間で、元から色気もくそも無いのだけれど。


 作業を中断したままのノートパソコンをいったん閉じ席を立つ。まずは備品の名簿と今年の資料を探さないといけない。場合によっては新しく買い替えなくてもいいかもしれない。

 スチールの棚からファイルを取り出しめくっていると、やはり無駄を発見することが出来た。様々な行事において、マイクを同時に使うのは最大でも学園祭の6本。去年予備にと買われたマイクを含め、現在高等部には10本のマイクがあると把握している。今回壊れた2本を引いても、8本残る。予備にも問題ない。とりあえずマイクを買い替える必要はなさそうだ。修繕が可能ならそれも申請したいところだが、無駄なお金がかかりそうならそれもしない。


 書類の余白に『マイクの買い替えの必要無し。修理の申請を検討。』と記入する。


 続いて有線マイクのコード。これは少し困る。8本あるうちの3本は有線マイクであり、コードの予備は無かった。5本の無線マイクと1本の有線マイクで回すのも可能だろうが、もしもの時に対応できない。これは買った方がいいだろう。


 先ほど書いた下に『コードの買い替えは必要。』と書く。


 マイクスタンドはこれで6本になるが、同時に使うことはそうそうないので買う必要もないだろう。事務机は会議室にあるものを代用すればよし。ビデオカメラは…。父母会からの寄付で使ってないものがあったはずだ。それを使わせてもらえばいい。


 『その他、ともに購入の必要無し。』


 思った以上にお金がかからないことに少しホッとする。今後また壊れることがあるかもしれないが、そんなことのためにまた購入するなど買うだけ無駄だ。早速書類作りにかかる。生徒会所有のデスクトップパソコンの電源を入れる。こちらは最新型だけあって起動も速い。放送局用のユーザを選び、ファイルから備品発注用のテンプレートを呼び出す。カタカタとキーを打ってさっさと作成し、その場で印刷する。パソコンとは違って少し古いプリンターが書類を吐き出すのを待っていると、作業を続けていた御幸に話しかけられた。


「…東條とうじょう。」

「んあ?」

「お前さ、2年の転校生と会ったことある?」

「んなにそれ。知らないよ。」

「そっか。だよなあ…」


 そういう御幸はどこか遠いところを眺めている。ぼうっとした表情で、返事も何となく浮ついている。


「何。可愛い子でも入ってきた?」

「へ…ッはあ!?いや、そんなんじゃない、ああ、別にそういうんじゃないんだ。誤解しないでくれ」

「何言ってるか分からないんですが…」


 何気なく聞いたら良く分からない反応をされた。誤解も何も、可愛い子は可愛いといえば良いのに。


「そ、そういえば書類出来たな。見せてくれ。」

「へーへー。さっさと持ってってくださいな。」


 だいぶ前に吐き出されていた書類を手に取り御幸に渡す。別に御幸に好きな子が出来ようが彼女が出来ようがどうでもいい。ただ生徒会の仕事が滞り、放送局長である私の仕事が増えるのだけはやめてほしい、と思う私なのだった。

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