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町の夜

隼人はやとそらが家でのんびりとした日常を過ごしている同時刻に、町にあるビルの屋上で一人の少女が5匹の魔獣に囲まれていた。


魔獣は全て狼のような形状でまっ黒な毛皮を纏い、凶悪な牙と爪を黒光りさせている。黒狼こくろうと呼ばれるごく一般的な魔獣で、1匹1匹の能力は、戦闘を行える魔法使いにとっては苦戦を強いられるものではない。

だが、黒狼は群れをなして連携しながら戦うのを得意としている。なので、町を襲撃する時も群れで行動するのである。

よって、黒狼と戦う時のセオリーとしては決して一人で立ち向かわないようにすることとされている。


しかし、長い黒髪をなびかせる少女はそのセオリーに反して一人で黒狼と対峙していた。

少女には武器と言えるようなものが見当たらない。服装は至って普通のフロンティアの制服。一般生徒と違う箇所は右腕に腕章とブレスレットを付けていることのみである。

その腕章にはこう刻まれていた。「ガディアンオブスクール」と。

先ほども述べたように、武器を持たない少女だが、それでも少女には焦りや恐怖といったものが見えてこない。ただ黒狼の群れの動きをしっかり見据えるだけである。


両者動かずに時間だけが過ぎていく。

不意に風が吹きだした。黒狼の方から少女の方へと。

その風が吹くと同時に、目論見通りというように一気に黒狼の群れが飛びかかってきた。

黒狼なりの知恵を使った戦い方である。そんなに強い風というほどではないものの、やはり追い風に乗れば少しとはいえスピードは上がる。

それを利用しての攻撃を考えていたのだ。少しのスピードでも戦況を変える要因になる。たった一つその場に石ころがあるだけでも、その石ころを使えば戦闘は劇的な変化をするかもしれないのである。圧倒的な武力差があったとしても小さな要因が結果を大きく変えることもある。戦闘とはそんな世界だ。

しかし、圧倒的な武力差がある場合戦況は変わらないことが多い。故に圧倒的なのである。


少女は黒狼の動きを見るなり、5匹が同時に飛びかかってくることで、下にわずかに出来た隙間を見つけ出した。そして、迷うことなくその隙間スライディングでかいくぐり一度黒狼たちとの距離をとった。黒狼たちもすぐ少女に第2撃を加えるために反転する。

しかし、黒狼が攻撃へ移るよりも早くに少女は右手を地面につけてこう唱えた。

錬金アルケミー」と。


その瞬間少女の右腕にあったブレスレットが茶色に光り、呼応するかのように地面も光った。そして、少女は1本の刀を地面から引き抜いた。


土属性魔法の特性の1つ創造の力を駆使した「錬成」である。各属性にはそれぞれ特性がある。その中で土属性は「創造」と「治癒」の2つの特性を兼ねそろえている。少女は、「創造」の力により刀を地面から錬成したのである。


少女は刀を持ってすぐに構える。構えは剣道の中段の構え。そして、こう言った。

「たとえ魔獣であっても、倒す相手に名を名乗るのは私の流儀。」

堂々とした口調で、敬意を込めるように。

「神崎流現頭首、神崎詩織。あなた達を斬らせてもらいます。」

そういって、腰の方へ刀を降ろして、黒狼の次撃に備えて構える。

黒狼は全員で顔を合わせてタイミングを合わせるようにしてもう一度一気に襲いかかってきた。

それに対して詩織は、居合のように一瞬ためを作り、

炎舞壱えんぶいちかた!!」

詩織の右腕にあるブレスレットが赤色に光りだした。そして、敵の攻撃に対して合わせるように、一撃で仕留める為の技を繰り出す。

炎桜えんおう!!!」

横に一閃。その後、技名の通り炎が桜の花びらのように舞う。一枚一枚の花びらが黒狼を切り裂いていく。1000枚を超える花びらは黒狼の群れを完全に切り裂いたと、詩織は思った。

しかし、一匹だけ少しタイミングをずらして飛び出していた黒狼がいた。他の4匹も楯となっていたので少々体に切り傷を作る程度で、詩織の元へとたどり着く。

詩織は油断もあり、一瞬視野に入れるのが遅れた。その一瞬で、詩織の左腕が鋭い爪で引き裂かれた。

「ぐっ。」

引き裂かれた腕から血が出る。

痛みに耐えながらも詩織は次撃を繰り出すためもう一度居合の構えを作る。

炎舞弐えんぶにのかた!!」

再度、ブレスレットが赤く光りだした。そして、詩織は気合いを入れて叫んだ。

炎刀えんじん!!!」

一閃。しかし、先ほど違い次は大きく縦に。先ほどの繊細な一閃とは違い、大きな炎のやいばが黒狼を真っ二つにした。

「さようなら。」


戦いが終わった。黒狼たちの亡骸は光の粒となって消えていく。

「浄化」。魔獣たちが魔力による致命的ダメージを負わされた時に、光となって消えていく現象はこう呼ばれている。これが、魔獣たちの何を意味しているかは分かっていない。一説によれば、浄化された魂が来世に清浄な心を持って生まれてくるとか、他にも一説では「浄化」は、魔獣達の闇への帰還ではないかと言われている。結局真相は闇の中なのである。


「ふぅ。」

緊張が解けて、ふとため息をつく。

そして、刀をビルに突き刺し、

再構築リバース」と、刀を消した。

正確には、刀をビルに戻したのである。先ほどの錬金はビルから材料をとって行った。その材料をそのままにして行く訳にもいかないので、戻す作業も当然あるのである。

まぁ、戻さなくてもいいのはいいのであるが、真夜中に刀を持ち歩くわけにも行かないのだ。

詩織は過去に一度、刀を持ったまま現場に移動しようとしたことがあったが、その時は町の警察に捕まり、職務質問をされて時間を取ることになった。その時、他のメンバーに迷惑をかけてしまったのである。それ以来、錬成した刀はその場にかえすようにしている。

(まぁ、あの時は会長のお陰でそこまで問題にならなかったけど。)


そんな、過去を思い出していると、不意に上からパチパチパチパチと拍手が聞こえてきた。

「いやいや、頑張ったわねぇ。」

金色のショートヘアに黒いカチューシャをつけて、フリルのついた黒いドレスを身に纏っている、見た目が西洋の人形のような小さな少女が上方から降りてくる。

「はぁ。」

呆れて。すごく呆れて、溜息がでる。

(また、私を見ていたのね。)

「生徒長。また、私の観察ですか?暇があるなら自分も少しは仕事をすればいいじゃないですか。」

「何言ってるのですか。私の詩織観察も立派な仕事の1つですよ。」

「私には仕事をしない口実にしか聞こえませんよ。」

この人形のような金髪少女は生徒長のディアナ・クロナ。

身長147cm体重見た目35kgぐらいの体格だ。

どうみても、中学生に見えるが、フロンティアの3年生である。

ちなみに、私は身長157cmと普通だ。

体重は気にしたらいけない。

先ほど述べたように、ディアナは生徒会長・・・・ではなく、生徒長・・・という役職についている。

フロンティアには生徒会長とは別に、生徒長というポストがある。

学校行事やその他学校に対する権限があるのは生徒会長である。

だが、生徒長はこのガーディアン・オブ・スクールの実質的リーダーなのである。

フロンティアの生徒会には「魔獣との戦闘を行えるものしか入ることのできない」、という条件がある。

そうして、組まれた戦闘のできる生徒会をガーディアン・オブ・スクール、つまり、学校のガーディアンとして機能させているのである。

そして、ガーディアン・オブ・スクールの生徒長はもっとも戦闘技術に長けたものが行い、生徒会長はもっとも事務関連の処理能力に長けたものがやるようになっているである。


「詩織が入ってもう1年になるのですねぇ。」

「そうですね。あれからもう1年になるんですもんね。時が過ぎるのは早いもんです。」

「ほんとね。1年前の詩織はまだまだって感じだったけど、今の詩織を見たら、今年入ってくる新入生の面倒を詩織に任せて大丈夫だと思うわ。」

「今年は、生徒会に入れる新入生が多ければいいですけどね。」

「どうでしょうか。今のところ魔法具を持った新入生はいないって話ですからねぇ。」


話の通り、先ほど挙げたガーディアン・オブ・スクールへの入会条件である、「魔獣との戦闘を行える」、という基準は一般的学生からの視点ではかなり高いハードルである。

それは、一般生徒のほとんどが、魔法石を形状化できないからである。

この世界にある魔法石は、魔力と思いを混ぜ合わせることで、形状を変化させる。

その形状化出来た魔法石は魔法具と呼ばれるようになる。

それは、剣であったり、弓であったり、様々な形を有するのである。

たとえば詩織なら、右腕につけているブレスレットである。

形状化した、魔法石はその持ち主の魔力を増幅させたり、詠唱を省略させる効果、さらに、その魔法具特有の効果を持ち合わせている。

それにより、より高度な戦闘を可能にするのである。

しかし、魔法具を持たない者達は、魔力切れが速かったり、詠唱が長いなどといった、おおよそ戦闘には向かないステータスが多くなるのである。

だから、よほどの実力を兼ね備えていない限り、まず魔法具を持っていなければ生徒会に入ることができないのである。


「まぁ、現状は質がいいからどうにかなりますね。」

「いくら質が良くても、量を相手するのはきついですよ。しかも、一番質の良い人にサボり癖があるわけですから。」

「そこは考えておきます。」

「考えないで、仕事してくださいよ。」

そんな話をしていると、ディアナの携帯が震えた。

バイブに気付いたディアナは携帯をとる。そこには、見慣れた名前と番号が載っていた。

東堂とうどう せいと。

「はぁ。」とため息をつき、通話ボタンを押した。

「何をしている。」

電話越しに静かにしかし、怒鳴り声より迫力がある声がしてきた。

「ごめんね。別にサボっているわけじゃないから。今から、次の現場に向かいます。」

少し間があき、

「そうしてくれ。俺たちは人手が足りないんだよ。」と言われた。

まだ、激怒はしてなかったようだと一安心する。

「分かったわ。ところで静、今年の新入生でウチに入りそうな子はいる。」

「新入生にはいないな。だが、お前もとても気に入る奴が一人いるはずだ。お前絶対にリストに目を通していないだろう。」

ヤバい、と心の中で焦り始める。

「いやいや、そんなことはないよ。ただ、覚えてられないだけだよ。」

「まぁいい、お前たちには早く次の現場に動いてもらわなければいけないからな。そいつのプロフィールを送っておく。どうせ、2で確認するのだろうから、見たらさっさと動けよ。」

「はーい。」


電話を切るとすぐに静からのメールが来た。

(相変わらず仕事が早いわね。)

「詩織ー!!静が気になる人のプロフィールを送ってきたから見てみない?」

見てみると、詩織は先ほど黒狼にやられた傷の治癒をしていた。私の電話が長引くと思ったのであろう。

ブレスレットが茶色に光っているので土属性の治癒を使っているのだ。

「ちょっと待ってもらっていいですかー?」

「いいわよ。しっかり治しなさい。」

と、即答で返す。


しばらくして、詩織が私の方にやってきた。右腕の傷は完全に癒えていた。

「お待たせしました。さぁ、生徒会長が気になるっていう人を見せてもらいましょうか。」

「静が気になるっていうほどだから、すごい人材だと思うんだけど、その割に噂がないのよね。」

そういいながら、プロフィールを開いてみると詩織とディアナはそれぞれ驚いた。

そして、ディアナはこういった。

「確かに楽しみな人材がここにやってきたわね。」

ディアナは不敵な笑みを作った。

その笑みが、詩織には何を意味しているのか全くわからなかった。ただ、詩織はプロフィールの人物がなぜディアナや静の興味を惹かせるのかを考えていた。

そう、自分の幼馴染の来島隼人。

彼に一体何があるのかを。

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