生徒会室にて(1)
クロイス区、フロンティア魔法学校の生徒会室で俺、来島隼人と神崎詩織、東堂静、ディアナ・クロナの4人での会談が始まった。
最初に口を開いたのは東堂静だった。
「まず第一に、お前に言っておかなければいけない事がある。」
「先ほどの魔獣退治の重要参考人としてお前を呼ぶと詩織にはいったが、実際はそうじゃないんだ。」
「はぁ。なんでだよ。」
「いやぁ。さっきの戦い自体は上から私が傍観していたからな。経緯はわかっている。」
詩織が入れた紅茶を飲みながら、ディアナが答えた。
「上から見てたって。手伝えよ。」
「いや、もちろん危なくなったら助けるつもりだったぞ。その必要はなかったようだがな。」
「そうかよ。」
確かに、10年前からこいつの実力は圧倒的だった。
今のディアナの実力は知らないが、あの程度の魔人が相手なら、俺がギリギリまで追い詰められて命の瀬戸際に立たされていたとしても、問題なく対処できるのだろう。
さながら、主人公がとどめの一撃をささせれそうな時に、カッコよく登場して攻撃を軽々受け止める、マンガのキャラのように。
「なんだ、難しい顔をして。」
「いや、単に俺とお前の差を改めて認識しただけのことだよ。」
「そうか。」
ディアナは少し満足そうに笑みを浮かべながら、
「認識したのなら、次は努力すればいいさ。」
と言った。
「わかってるよ。」
俺は、改めて自分の目標の1つがこんなにも高い壁だったのかということを認識した。
「さて、少し話がそれてしまったが、そういうことだ。ディアナのおかげで魔人についてはある程度把握した。本題はここからだ。」
「あぁ。で、なんなんだ?」
しかし、実際さっきのことに関しての件でなければ、いったい何なのだろうか、と思っていると静が口を開いた。
「単刀直入に結論から言おう。俺たち、フロンティア魔法学校生徒会。通称G・O・Sはお前、来島隼人をメンバーに迎え入れたいと思っている。」
やはり、静は昔から変わっていない。
相も変わらず、物事を結論からスパッという奴だった。
(それにしても、俺をG・O・Sに入れたいねぇ。)
こいつらは、転校直後の俺を学校の生徒会に入れたいと言っているのだ。
転校生に学校の重役を務めろなんて無茶いうものだ。
G・O・Sと言えばあの・・・?
「はぁ!!!俺をあの天下のG・O・Sに勧誘?どういうとだ!?」
あっさり聞き流しそうになった俺だったが、ことの重大性を認識して、つい大きな声を上げてしまった。だって、あの天下のG・O・Sだ。
フロンティア魔法学校の生徒会である、G・O・Sはとても有名だ。
フロンティアの生徒会に限らず、他の魔法学校だって生徒会はある。
生徒会のシステム自体もほとんど変わらない。
ガーディアンになるための訓練も受けられるとあって人気があるため、例外を除いては学校側が成績などを考慮した上で選抜制でメンバーを選出するのである。
だから、ガーディアン志望の者は、皆最初は生徒会を目指して日々努力するのだ。
そして、そんな魔法学校生の憧れである、生徒会の中でも最も有名な生徒会がフロンティアの生徒会、通称G・O・Sなのだ。
1つの学校の生徒会が有名になるのにも理由がある。
各学校の生徒会メンバーで優劣を決める、魔法学校間の代表王者決定戦というのがあるのだが、4年間連続で優勝しているのだ。
つまり、生徒会という各校のトップが揃う場所のさらに頂上にいる、だから天下のG・O・Sなのである。
そのG・O・Sがあろうことか、俺を勧誘してきたとなれば、そりゃ一大事だ。
「なんで俺をG・O・Sに?大体メンバー選抜は学校側の裁量で決まるはずだろうが?」
「そうだな。確かに普通はメンバーを学校側が選出するという決まりがある。ただ、例外もある。生徒会メンバーでの推薦だ。」
「そういやそんなものあったな。」
確かに生徒会メンバーによる推薦という例外の制度は存在する。
これは生徒会メンバーを学校側の判断だけで見ることなく、生徒会自体が優秀なメンバーを見つけるためにある制度だ。
これにより、生徒会メンバーの人材を探す力を養わせるのだ。
まぁ、将来上の立場に立つ可能性が高い人間たちだから、そういう力を身につけさせておく力もいるだろうっていう裏もあるだろうが。
しかし、この制度を行使する生徒会自体珍しいものだ。
だって、優秀な人材はすでに学校側が選んでいるのだ。
そして、こう言ってはなんだが、生徒会に選ばれた奴らは大抵プライドが高い。
だから、外から自分たちよりも劣っている人材を入れる必要はないと考えるのだ。
「でも、推薦って確か生徒会メンバーの中で過半数の承認がいるんじゃなかったっけ?」
「そうだ。だが現在我がG・O・Sはメンバーが不足していてな、今は4人しかいないため、俺達3人の承認があれば、それでいいんだ。」
「それなら、俺がOKを出せば、俺はG・O・Sに入ることになるってことだな。でも、天下のG・O・Sがなんでそんなことになってんだよ?」
「まぁ、今季の4年生2名が生徒会活動を継続しないと決めたまでは普通にあることだったのだが、その後任に選ばれた者達が、変り者でな。生徒会入りを拒否したんだ。そこで、空席が2つ出来てしまった。」
「それでどうなったんだよ?」
「生徒会の顧問もまた変わり者でな、自分が見つけ出した奴以上に適任なのはいないから、こっちで発掘しろという命令を出してきた。」
「そりゃまたいい加減な・・・。」
そんないい加減な教師がいていいのか?
「そうして、1つの役職は今季、うちの中等部から上がってくる奴がつくことになったんだ。そいつに、お前に任せたいと思っている役職についてもらおうと思っていたのだが、それは嫌だと断られてな、その役職に問題があるために今もまだ埋まらないんだ。」
「なんだその問題がある役職ってのは?俺にそんなの押し付けようってのかよ?」
「いや、実際役職自体は問題があるわけじゃなかったんだ。」
「その役職の選抜方法を間違えたんだ。」
「はぁ?」
「役職は生徒副長。つまり、ディアナの補佐だ。」
「生徒副長?そういえば、さっき生徒会長と生徒長とか言ってたな。それってなんどう違うんだ?前の学校では単純に生徒会長だけだったぞ。」
まぁ、フロンティアは優れた学校だし、ほかの学校と少し違うシステムをとっていたとしてもおかしくはないんだが。
「それについては、私に説明させてください。」
と、詩織が会話に参加してきた。
「あぁ。じゃあ、頼む。」
「ありがとうございます。じゃあ、隼人君、説明するね。」
「おぉ。よろしく頼む。」
「このクロイス区では、魔獣関連の事件が他の区よりも多いことは知ってるよね。」
「あぁ、年間にすれば他の区の3倍ぐらいになるよな。」
「そう。そして、魔法学校の生徒会は魔獣退治を少しだけど請け負うことになる。でも、年間の事件量が違うわけだから、仕事もその分増えるわけ。そこで、フロンティアの生徒会ではね、役割を分担させるために、戦闘と事務という2つの分野で分けるようにすることにしたの。つまり、戦闘分野が得意な人は戦闘を。事務が得意な人は事務をってね。」
「そうなのか。」
確かに、他の学校の3倍の仕事量があるのだ。
それぐらいはするだろう。
「もちろん。ある程度分けるだけであって、完全に仕事だけ、事務だけって分かれる訳じゃないからね。そうじゃないと、経験を得られなくなる人も出る訳だし。」
「まぁ、要するに文武両道ってわけだな。」
「そうなるね。そこで、とりあえず戦闘に特化した人のリーダーを生徒長。事務系に特化した人のリーダイーを生徒会長としてるわけなんだけど。その補佐として生徒副長と生徒副会長も存在するの。まぁ、その他の役職は書記と会計という極めて普通な生徒会にもあるものだね。でも、この2つも生徒長、生徒会長のどちらかに付くことにはなるね。」
「そうなのか。生徒会の中でも2つのグループみたいなものがあるんだな。そういえば、詩織はなんの役職してんだ?」
「あぁ。そういえば言ってなかったね。私の役職は生徒副会長。会長の補佐をしてるの。」
「詩織はなかなか優秀だ。とても助かってる。」
「またまた、会長。お世辞はいいですよ。まぁ、役職に関してはそんな感じ。あとは、生徒副長の上司にあたる、生徒長。説明をお願いします。」
と、詩織はボケーっとしていたディアナに振った。
「ん?何の話だっけ?」
詩織は溜息をつきながら、
「聞いてなかったんですね。」
「スマンスマン。つい、うっかりしてしまった。で、何を話せばいいんだ?」
「生徒副長の役職がなぜ空席のままになっているかってことですよ。」
「あぁ。それか、それはな。不意打ちで、私が攻撃してその反応を見る。そうやって、振るいをかけていたら、私の目にかかる奴がいなかったからんだ。」
「やっぱりそうなったか。」
この仕組みを聞いて、ディアナの補佐が空席と聞いた時点でなんとなく、想像はできていた。
やはり、コイツが原因のようだった。
「いや、お前の目にかかる奴なんてそんなにいないだろう?」
「スマン、語弊のある言い方をしてしまったな。そんなことはなかったんだ。実は、2人私の補佐にふさわしい人間はいた。」
「そうなのか?」
と、静に尋ねると。
「確かに、コイツが認めた2人は逸材だった。ただ、1人は見つけた当初は知らなかったんだが、元々学校側が選抜していた奴だった。もう1人は、自分は書記がいいと言い張って、生徒副長になることを拒否したんだ。そうすると、残りのメンバーではコイツが納得せず。結局決まることなく今まで引き延ばされてしまったんだ。」
「まぁ。そういうことだ。だが、お前なら文句なく合格だ。」
ディアナが、満面の笑みでこちらを見てきた。
「お前にある程度認められたってことなんだな。なんか、嬉しいよ。」
「そうだろう。じゃあ、さっそく承認して隼人をウチのメンバーにしようではないか。良かった良かった。」
そういって、みんなは喜び合っていた。
そんな中で俺は、
「いや、悪いんだけど。俺はG・O・Sに入るつもりはない。」
と返答をした。