【DICTIOROID】国語辞典
小学六年生になったボクは、新しく国語辞典のディクショロイドを買ってもらった。
斜め向かいに住むお姉ちゃんみたく中学生って雰囲気で、肩まで伸びた黒い髪がサラサラしてて眼鏡をかけてるから頭良さそうに見える。
学級委員長とか似合いそうな感じ。
ママは今買い物に出かけてて居ないから、早速意味を調べてみることにした。
勿論、調べる単語は決まっている。
エッチな単語だ。
アレコレ言ってみたけど、ディクショロイドは顔を赤らめてモジモジするだけで意味を教えてくれない。
バグってんのかな。
「じゃぁ、キスは?」
「鱚。スズキ目キス科の海水魚。沿岸の砂泥底にすむ。全長約三〇センチ。体は細長……」
「スキップ」
魚のキスを調べたい訳じゃないから次の項目へ飛ばす。
そうしたら、ディクショロイドがいきなり胸の前で祈るように指を組み合わせ、瞼を閉じてちょっとだけ顔を上向けたりするからドキッとした。
簡単な動作もしてくれて意味を分かり易くしてくれるというのが特徴なんだけど、このディクショロイドってちょっと可愛いんだよね。
「接吻、口付け」
「リ、リピート」
「接吻、口付け」
声も可愛い。
ドキドキしながらディクショロイドの肩にそっと手を乗せて顔を寄せてみた。
「…………お前、何やってんの?」
ドアのところに凭れて腕を組んでるお兄ちゃんが呆れた顔でボクを見ていた。
「っ……ぅわああああああああっ! ド、ドア! ノックしてよっ!」
「いやいや、開けっ放しにしててノックも何もないだろうが」
お兄ちゃんに見られた! 人生最大の汚点だっ!
恥ずかしくて身体がカッカッしてくる。
「まぁ、誰しもが通る道っつーか……あ、そのディクショロイドってさ、検索できる単語に制限があって、何調べたのか親がチェックできる機能ついてるんじゃなかったっけ? ほどほどにしとけよ?」
お兄ちゃんはニヤリと笑ってそう言うと自分の部屋へ戻っていった。
呆然としていたボクだけど、慌ててディクショロイドの手を引っ張ってお兄ちゃんの部屋へと駆け込む。
「お兄ちゃん! 検索の初期化方法教えてーっ!! ママに怒られちゃうーっ!」