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我楽多  作者: 市太郎
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【Snatch】 いらっしゃい新人さん

「騎士団への入団をご希望で? では、こちらの用紙に必要事項の記入をお願いします」

 年中無休で人材を募集しているとは言っても、王都であればいざ知らず、地方の詰所の窓口などは暇そのものである。

 現に、騎士団入団希望で男が窓口に声を掛けた時も、担当者は暇そうにしていたのだ。

 差し出された用紙に男が記入項目を埋めていく様子を、窓口担当の男は暇潰しを兼ねてか覗き込んでいる。

「へぇ。ヨリーシャのギルド所属だったんだ? あそこ、結構腕の良いのが揃ってるって噂のギルドだろ? 何でまた騎士団への入団を選らんだんだい? あ、詮索が嫌いだったら喋らなくても良いよ? ご覧の通り暇だからついつい、ね」

 そう悪びれずに笑いながら窓口担当が話しかけてくる。

「いや、構わんよ。ギルドだとちょっと限界を感じてね」

 窓口担当の気さくさに釣られたのか、元から砕けた性格なのか入団希望の男は笑いつつも躊躇いなく答えた。

「限界? えーっと、ベイザーさんね」

 窓口担当は男――ベイザーの書く書類から名前を覗き込み、自分が手がける書類の作成も同時に始めていく。

「そう、限界。遺跡の最深部に入れる根性を持ってるヤツと巡り合えねぇし、それだけの腕を持っているヤツともなかなかね」

「あぁ、成る程。腕は良くても、無理はしないって人多いもんね。かと言って根性だけで最深部に行っても意味は無いしねぇ。それじゃ、ベイザーさんはチームを組める人を探しに入団しにきたって訳?」

 それまで互いに書類へ目を向けていたが、ベイザーが顔を上げると窓口担当がニヤリとした笑みを向けていた。

 思わずベイザーも笑い、書き終えた書類を窓口担当へと渡す。

「ま、そんなとこだ。それと、騎士団はエリートって言われるだけあって、モンスターの捌きがやはり別格だからなぁ。その辺の技術も頂きたいと思ってね」

 危険と隣り合わせではあるが、安定した高収入の職業として人気があるだけではなく、ベイザーの言う通りモンスター相手の対戦方法は冒険者でも流石と唸らせるだけのものがあるのだ。

 ララシャ国では見かけない巨人族の討伐は不慣れにも拘らず、隣国のよしみという事で依頼を受けて早々に片付けてしまった事は有名である。

 これを機に他国からモンスター討伐の依頼を受ける事になったのだ。

 そういった事情もあり、より己を磨きたいと思う冒険者がベイザーのように入団を希望してくるのである。

「まぁ、その辺ウチは自由だからね。……はい、漏れはなしと。一応、入団したら昇進するしないに拘らず五年は退団できないからね。後、細かい規則は配属先で聞く事になるけど、騎士団たる者その名に恥じる行為を行った者は国外退去で一般市民としてでも二度と立ち入りできませんから。それと勤務時間中の遺跡探索行為も禁止ね。配属地とそこの人を護る事が第一条件だから当然だけど。遺跡探検や素材採りは自由時間で存分にして下さい。素材採りは実習時に許可してくれる事が多いから問題は無いと思うけどね。但し、自由時間中の事故や死亡は騎士団では責任を負いかねますので自己責任でね。保障も半分、場合によっては無しって事もあるから気を付けて下さいねぇ。納得、了承できたら、こちらとこちらにサインしてもらえます? はい、受理しました。今、案内するからちょっと待って下さいね」

 窓口担当が作成した書類とベイザーが書き込んだ書類それぞれにサインをすると、窓口担当がその書類を受け取り続く手続きの為に然るべき場所へと置いた。

 それで一つの流れが終わった窓口担当は腰を上げて部屋から出てくる。

「お待たせしました。これが本日有効の身分証です。では、担当者の所へ案内しますね。ベイザーさんはヨリーシャのギルドに所属してましたし、簡単なテストを行って問題なければ騎士団見習いとして所属されると思います。当国所属の身柄となりましたら、改めて騎士団見習いとしての身分証が渡されます。その身分証で当詰所にあります施設は無料で使えます。但し、その身分証でも武防具に魔道具、アイテムなど中には無料で支給されない物もありますので頭の片隅にでも覚えておいて下さい」

 冒険者らしく長身でがっちりとした体躯のベイザーよりも頭一つ低い窓口担当は、慣れた調子でよどみなく説明を続けながら石造りの廊下を進んでいく。

「テストというのは?」

 薄茶の柔らかそうな癖のある巻き毛がヒョコヒョコと揺れるのを眺めつつ、ベイザーが切れた言葉の合間を狙って問い掛ける。

「何て事はありません。身体能力がどれ程あるのかを見る為のものです。騎士団へ所属されるには、魔術武術共に必要とされるのはご存知かと思います。このテストで簡単に魔術に長けているか武術に長けているかを見ます。良い所は思いっきり伸ばしましょうというのが、騎士団の方針なので。ベイザーさんはトレジャーハンターだったんですよね? 魔術の方が得意なのですか?」

 ベイザーは窓口担当の肺活量を気にしながら緩く頭を振った。

「いや、俺は最低限の魔術しか取得してない。どちらかと言えば力で押す方が好きなんでね」

「そうですか。でしたら、武術を更に伸ばしつつ魔術も扱かれると思いますが、いずれは身になるものですので頑張って下さい。あ、あちらが食堂です。お酒は用意しておりませんが、年中無休で空いておりますし、身分証を提示してもらえれば無料で利用できます。そして、こちらは武防具の貸し出しを行っております。隣にあるのはアイテムを扱ってます。武防具は見習いの間は基本貸し出しです。練習中や実習時に壊れた武防具もこちらに預けて貰えれば修理も致しますし、新しい武防具の貸出も行います。配属が決まりましたらサイズを計りますし、得意な獲物もその時に伝えて下さい。後で担当者が案内すると思うので従って下さいね。貸し出しの武防具の修理や消耗品アイテムは身分証の提示で無料で支給となっております。ちなみにアイテムの転売は恥ずべき行為に該当しますので気を付けて下さい。五日稼動で二日が休日となりますが、休日は交代制となっております。最初の内は割り当てられた休日を過ごす事になると思いますが、慣れたら休日の変更も可能ですし、希望があればその様に振り当てるよう考慮も致します。その辺りは様子を見ていれば分かると思います。テストを行った後、見習いとして入団が決まりましたら、本人の希望によって宿舎の提供も行っております。勿論、施設及び消耗品以外の備品は無料での貸し出しです。生活消耗品も先ほどの道具屋で扱っておりますので、身分証を提示すれば街で買うよりかは安く手に入ります。一先ず私からの説明は以上ですが、何か質問はありますか?」

 息もつかせぬ一先ずに圧倒されたベイザーはぎこちなく頭を振る。

「い、いや。今の所は……」

「了解です。私の肺活量を十分に関心して頂いた所で、引継ぎを紹介しましょう。ガディ!!」

 丁度、説明を終えた所で廊下を抜けて二人が中庭に出ると、そこには安い皮鎧を纏っただけの軽装な男達が木剣を打ち合い練習に勤しんでいた。

 窓口担当が片手を上げ、大きな声でベイザーを引き渡す者の名を呼ぶ。

 練習する男達から少し離れた場所で見ていた男が一人こちらを向き、笑みを浮かべて歩み寄ってきた。

 明るい銀髪に碧の目をしたガディはベイザーとそう背丈が変わらない。

「やぁ、テール。そちらは入団希望の方かな」

 無骨な雰囲気のあるベイザーとは比べ、柔和な風貌に浮かべるガディの笑みは女受けが良さそうである。

 窓口担当の名はテールと言うらしい。

 ガディの呼びかけに頷いたテールはベイザーを紹介しつつ、先ほど仕上げた書類を渡す。

「そうだよ。入団希望者。ヨリーシャに所属していたベイザーさん。トレハンメインで、魔術よりも武術が得意なんだって。判定済んだらこっちに寄越して。身分証とか渡すから。じゃ、後は頼んだよ?」

 テールはガディにそう告げると返事も聞かず、ベイザーにウィンク一つ送って去っていった。

 絶えず笑顔であったテールは、冒険者や騎士団の連中から比べると細身な体躯という事もあり、一見ひ弱なイメージなのだが、短い距離であったがまるっきり隙が無かった。

 主に言葉を挟むという点ではあるが。

「どこでサボってるのかと思ったら窓口にいたのか……盲点だったな」

 共に見送るガディの言葉に不思議そうな眼差しを向けたベイザーだったが、視線を受けたガディは笑っている。

「驚いたろ? アイツが一旦口を開くと閉じるのに時間掛かるから、質問する時はよくよく考えてからすると良いよ」

「……のようだな」

「さて……ベイザーさんだっけ。俺はガディ。ここの責任者で、新入りのテスト担当と諸々の面倒を見ているから、暫く顔をつき合わす事になるけど宜しく。早速だけど、まずは体力測定と持久力を計らせてもらうな。トレハンだったんだよなぁ。最高記録は?」

 テールから受け取った書類から顔を上げたガディが問い掛ける。

 気になる事はあったが、今はガディの問いに答える方が先決である。

「西北の寺院で上は三階の宝物庫、地下は二階の墓まで。海の神殿は大広間までが限界だったな」

「お。あそこの墓まで行ったのか。ここの宮殿は?」

「一階の大広間に、二階の王妃の間、地下は様子見だけで土産は無し。奥庭にある古代竜の巣までだな」

「上等、上等。魔術最低限で、そこまで良く行けたもんだ。地下はオフディアンの巣だから様子見だけでも大したモンだよ。海の神殿だって、凄腕の連中だってそうそう行けないしな。んじゃ、取り合えずは木剣で持久力見せてもらおうか。ただの打ち合いだからダルいかもしれんが辛抱してやってくれ」

 そしてベイザーは単調であるが、筋肉をかなり駆使させられるテストを受けたのである。

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