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我楽多  作者: 市太郎
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【Snatch】 舞台は大陸の極東

 大陸の最も東に位置するララシャという国は、世界で最小の国と言われている。

 実際に有する領土は大きいが、四方の内の東は海、残る三方は砂漠に囲まれ、その先には岩ばかりの山脈が聳え立つ。

 天然の要塞に護られた国と言えば聞こえは良いが、資源の乏しい岩肌の山に、裾野に広がる砂漠も交易には邪魔な存在である。

 まともに諸外国と行き来が出来るのは南に面した比較的低い山に作られた街道と、東南の海に設けられた港くらいだ。

 挙句、耕作する土地も少ないともなれば、わざわざ領土を狙うほど旨みがあるとも思えない。

 事実、ララシャは諸外国から輸入に頼っている国である。

 辛うじて国庫に納める程度には自国での収穫はあるが、輸出するほどのゆとりもなく、また輸出に掛かるコストも厳しい立地で積極的には行えない。

 領土の広さに対し、その半分以下の土地でしか人が住めない為に最小の国と呼ばれている。

 そんな資源に乏しいララシャ国だが、大陸の中では群を抜いて金を持っている国である。

 不思議な事に、ララシャ国の領土には文献にも残っていない遺跡がいくつも存在する。

 東の海の中、北側の海底には海竜の巣窟になっている神殿が一つ。

 北の砂漠には亜人種のモンスターが跋扈する宮殿が一つ。

 西の砂漠には爬虫類のモンスターが溢れている宮殿が一つ。

 連なる山間の中にも、西北に悪魔族が往来する寺院が一つ。

 西南には鋏角類がひしめく王の墳墓がある。

 これらの遺跡はどのような有力者の下に作られたのか、未だまともな文献が見つかってはいない。

 しかし、確かなのは一攫千金を狙える宝の宝庫であるという事だ。

 ララシャ国が大国と言われる理由、それはこの数々の遺跡を元とした観光資源に他ならない。

 物資の資源には乏しい国であるが、数多とある宝が眠る遺跡を見過ごすのは惜しい。

 過去に幾度かそう思った諸国の王が侵略を繰り返した事もあった。

 だが、王都へ辿り着く前にモンスターから執拗に襲われ、壊滅するという散々な結果から、今は侵略を考える国も無いようである。

 また、これらの遺跡はララシャ国の領地にある為、当然ララシャ国の財産となる訳だが全てを開放している。

 遺跡に眠る宝を狙うも自由であれば、遺跡に残る文献を探すのも自由である。

 遺跡目当てに訪れる者たちに唯一条件付けているのは、極端な遺跡破壊行為の禁止のみである。

 宝物庫の扉を開いたままとは、随分と呑気な国であると思われるかもしれないが理由がある。

 他者を除外する為には遺跡に見張りを必要とする訳だが、まずモンスターが蔓延っている為におちおちと他者を見張っている余裕など、人材的にも金銭的にも無い。

 次いで、遺跡には幾つかのアーティファクトなる遺物が存在する。

 現在の技術よりも更に高度な技術によって作られた強力な武防具や魔道具であるのだが、持ち手の力が見合わない場合、持ち手の命を削り取って再び元の遺跡へと戻ってくるのである。

 アーティファクトの性質を考慮したララシャ国の幾代か前の王は、国で保管する事よりもトレジャーハンターのリピーターを狙った訳である。

 人々は()の王を、あこぎな守銭奴王と呼んだが、あながち間違ってはいなかった。

 実際、アーティファクトを目指して訪れるトレジャーハンターは後を絶たず、彼らの落とす金が国を潤しているのだから。

 他にも理由は幾つかあるのだが、ここでは割愛しよう。



 さて、ここ百年近くは対人による侵略の危惧は遠ざかっているが、時折流れてくるモンスターの被害は常に付きまとっている。

 と言っても月に一度、或いは二月(ふたつき)に一度の割合で二~三匹が流れてくる程度だ。

 だが、モンスター一匹でも村や街が襲われれば容易く全滅させられてしまう力を有している。

 そこで登場するのが騎士団である。

 ララシャ国の騎士団は対モンスターに関しては他の国の軍力を遥かに凌ぐ。

 時には要請を受けて他国へ赴く事もあるほどだ。

 ララシャ国では軍の上に位置するのが騎士団であり、武力魔力共に優れた寄り抜きの者だけが入れる騎士団は男女問わず憧れの職業である。

 深紅の色をした騎士団の制服を纏うのはより武力に優れた者達である。

 また、濃紺を纏うのはより魔力に優れた者達である。

 騎士団と軍の者は交代制で遺跡に近い村や街へと配属される。

 各配属場所のトップは騎士団のリーダーが勤める。

 普段は遺跡に向かいモンスター相手に鍛錬する日々であり、時折流れてきたモンスターから村や街を、そして無力な人々を護るのだ。

 こうして順番に遺跡を巡るように交代で配属され、モンスターの習性を学びながら鍛錬していくのである。

 基本、派遣された騎士団と軍の者は、鍛錬で倒したモンスターから素材を採るのは自由であり、また余暇の日に遺跡へ向かいトレジャーハンターと化すのも自由である。

 モンスター相手の戦闘方法を徹底的に叩き込まれる為、万が一モンスターへ一人で立ち向かう事となっても生存率は他の冒険者に比べて格段に上がる。

 且つ、危険手当なども破格なので給料も良い。

 騎士団所属となると死亡率も少なく、安定した高収入、万が一の保障も充実しているので、ララシャ国の女性にとっては大変お買い得な物件――もとい、結婚したい男性の職業ナンバーワンである。

 男性にとっても、女性にモテる――もとい、国が総力挙げて鍛えてくれる上、危険度も冒険者に比べれば少なく、しかも勤務中に倒したモンスターから得る素材で小遣いも稼げ、余暇を利用したアルバイトも自由とくれば、腕に覚えがあるなら挑戦してみようという気にもなる。

 但し、勤務中に遺跡の中へと入るのは、救命活動以外では禁止されているが当然の事といえよう。



 そんなララシャ国の騎士団は年中無休で人材を募集している。

 勿論、希望者全員が騎士団に所属される訳はなく、騎士団に所属されるとも限らない。

 初心者や未熟者が入るとまずは軍がその身柄を預かり、適正を測った後に然るべき部署へと配属をさせる。

 基礎が出来上がり、多少の応用もこなせると判断されると所属は軍部のまま騎士団見習いとして各遺跡巡りと揶揄されてる地方出張コースが組み込まれるのだ。

 一方、トレジャーハンターやモンスターハンターと呼ばれる冒険者が希望してきた場合、実力が伴っていれば直ぐに騎士団見習いに回されて遺跡巡りを行う。

 ちなみに、トレジャーハンターは遺跡に眠る宝物を取る事を専門にする者たちであり、モンスターハンターは遺跡の内外にいるモンスターを倒し素材を採る事を主にしている者たちである。

 ララシャ国軍、騎士団所属以外の者たちを総じて冒険者と呼び区別をしているのだ。

 モンスターとて全てが丸裸で挑んでくる訳ではない。

 例えば、亜人種のモンスターであれば強弱は様々だが案外良い武防具を纏っている。

 また、少ないながらも宝石や金、マジックアイテムの類を持ち歩いているので、倒した後はそれらを回収して街で売りさばく事も可能であるし、武防具の強化を行う事も可能なのである。

 武防具を纏わない獣種、竜種の類であれば、その身から鱗、牙、爪を剥いで武防具を作る素材とする事もできる。

 遺跡から得た宝を売りさばく者もいれば、モンスターから得た素材を売りさばく事を生業にしている者もいるし、更には自ら武防具を鍛える為にモンスターを狩る鍛冶職人などもいる。

 生死の境は限りなく際どくあるが、それでも夢を追う者は絶えずララシャ国へと集まるのである。

 定期的に派遣される遺跡巡りの一つに西の遺跡があり、一番近いシシーの街に騎士団の詰所がある。

 西の砂漠にいるモンスターは足の速い爬虫類型が多く、その為に派出所呼ばわりされている騎士団の詰所が他所に比べて大きい事でも有名だ。

 砂漠には巨漢と言われるような男でさえも丸のみにしてしまう大きな蛇や、遺跡の近くには知能を有した腕を持つ蛇一族、下半身は蛇でありながら上半身は人間のようでいて牛の頭を持つモンスターなどが徘徊している。

 大きな蛇だけであればシシーの街人だけでも応戦は可能なのだが、知能を持つ蛇族や牛の頭を持つ蛇は対抗しきれない。

 その蛇の姿をした下半身は、四足の馬を疾走させても振り切れるかどうかという足の速さである。

 しかも、知能を持つ蛇はその腕に武器を持ち、狩りを行う戦士や、補助をする呪術士と役割を持って人間を襲う。

 一匹一匹を相手にするだけであれば苦労せずに倒せるのだが、彼らは集団で狩りを行うのだ。

 三~四〇匹で一つの群れとなり行動をしている為、対抗する人間の数が少ない場合は絶滅する確立が非常に高い。

 仮に、一つの群れを辛うじて討伐できたとしても、仲間を呼んだのか危機を察知したのか、モンスターの素材を採る暇もなく、更に複数の群れが大挙として巣からやってくる有様である。

 他、牛の頭を持つ蛇は毒魔法の扱いに優れ、それなりの装備や道具を持っていないと、毒を放たれた次の瞬間には死んでしまうという猛毒さだ。

 この西の遺跡は、とにかく面倒なモンスターが多い上に素材を回収しづらいという部分もあって、騎士団の者たちには不人気な詰所である。

 その詰所へ、トレジャーハンターであった一人の男が騎士団に入るべくやってきた。

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