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我輩は座敷童子である。名前は、おせん、およし、お藤、お雪、およね、おとみ、たつ、などなど選り取り見取りである。
先日、百五十年ほど居座っていた家の当主が息子に対し、ニートニートと喧しいので我輩も自立をしなければならない気分となり家を出た。
次の住処となる蔵を探すも昨今では蔵を持つ家がない。実に嘆かわしい。憂いたところで、自立するために家を出たのだと思い出す。
気を引き締めなおし、当てどもなく歩き続けるうちに山中で迷子とあいなった。誠にもって遺憾である。
日はとうに落ち、辺りは暗闇に覆われている。獣に襲われる心配はあらねど、我輩は永遠の五歳児である。おねむの時間なのだ。寝ろと言われれば抗いたさゆえの夜更かしであり、いい加減山中を歩き回るにもほとほと飽きた。
我輩がおねむと言えばおねむなのである。
その日は程よい古木の洞を見つけたので仮宿とすることにした。
翌朝、目覚めたが飯は無い。遺憾の意である。
よくよく考えてみれば我輩は座敷童子なのだ。この数百年、自分で飯を用意したこともなければ自立などしたこともないのだ。
我輩は生まれながらにしてのニートなのだ。これからの人生もニートであり続けて何が悪い。当主にそそのかされ自立を思い立ってはみたが、一朝一夕でできるはずがないのだ。
そうだ。家に帰ろう。
しかし、以前の家に戻ればまた当主の小言が待っているやもしれぬ。新たな家を探すことにしよう。
我輩は決意も新たに山を下りることとした。
そこまで問題はなかった。
村に辿り着いたまでは良かったのだが、いつからここは異人の村になったのであろうか。
童子と遊ぶのは好きであるが、大人はさほど好きではない。
姿を見せぬようにしながら村を歩いていると、なぜか童子だけではなく大人からも声をかけられる始末だ。しかも異人だらけである。
我輩は、我輩の育った村に戻りたいのだ。
自立せぬ我輩に氏神様がお怒りになられたのかっ。
今度こそ自立する。自立するので我輩の村に戻してほしい。生まれてこの方、これほど悲しい思いをしたことはない。
昨夜仮宿とした古木まで戻れば何とかなるのではなかろうかと山へ向かいかけたところ、大きな馬を駆る紅毛碧眼な巨人に捕まってしまった。
以降、我輩は紅毛碧眼である巨人のハイカラな館に住み着くこととなる。
新たな名もこの巨人から与えられた。くりすちーななんとかかんとかごぼうのすりきれと異様に長いので、おくりと覚えた。
あいにく、我輩の生まれた村へ戻る機会はいまだ巡ってはこないが、紅毛碧眼の館は案外住み心地が良いので百年くらいは居座ってやってても良い気分でいる。