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魔法の才能がなかった少年、実はフィジカルで世界最強でした。  作者: 冬自慢


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不揃いな仲間

一人、また一人。


俺たちの前を、無関心な足音が通り過ぎて行く。


声をかけてくる者など、誰一人としていない。


当然だ。ここはピクニック会場じゃない。死と隣り合わせの試験場だ。


自分の背中を預ける相手は、少しでも生存確率を上げてくれる強者であるべきだ。


そんな殺伐とした空気の中、灰色のローブを纏い、幽霊のように俯いている華奢な少女――ラティナを選ぶ物好きなど、いるはずもなかった。


彼女は、ただ深く、深く俯いていた。


三人一組。そのルールが、彼女にとっては死の宣告と同じ重さでのしかかっているのだろう。


ローブの裾を握りしめる両手は、血の気が引いて白くなっている。


どうせ自分は余り物として、同じような落ちこぼれと組まされるか、あるいは失格になるか。そんな絶望が、彼女の周囲におりのように溜まっていた。


「ねえ君、一人?」


不意に投げかけられた、場違いなほど明るい声。


地面を見つめていたラティナが、あられもなく仰け反った。


視線を上げた先には、満面の笑みを浮かべた白髪の少女――シャノンがいた。


彼女はしゃがみ込み、まるで珍しい小動物でも見つけたかのように、下からラティナの顔を覗き込んでいた。


「君って……、ボクのこと?」


ラティナが困惑したように聞き返す。


「あなたに決まってるでしょ。何回呼んでも返事が無いから、下から覗きこんじゃった。ビックリさせたならごめんね」


シャノンがケラケラと笑う。


俺はその後ろから、場を冷ますようにゆっくりと歩み寄った。


「三人組、組まないか? どうせ俺たちみたいな子供と組んでくれる奴なんて、他にはいないだろ」


俺の提案に、ラティナは信じられないといった様子で俺たちを見た。


「いいの……? ボク、強くもないし、何もできない……」


自虐的な台詞。だが、俺はこの場にいる連中の「強さ」なんて、不確かなものだと思っている。


「目がついて、手がついて、脚がついてるなら大丈夫だよ。俺もこの子も、似たようなもんだからな」


「私は多少、腕に覚えはあるけど?」


シャノンが不服そうに唇を尖らせるが、俺は苦笑して続けた。


「……みたいだな。まあ、俺は一応魔法使いだが、実戦じゃほとんど何もできん。君と似たようなものだ。……もちろん、無理にとは言わないよ。俺たちと組みたくないなら――」


「お……い……」


「?」


「お願いします……!」


絞り出すような、切実な声。


俺は小さく目を細めた。これで、最低限の「駒」は揃ったわけだ。


「ああ。こちらこそ」


「よろしくね!」


「じゃあ、改めて挨拶を。俺はリヒト。んで、この子は――」


「私はシャノン。ただのシャノンよ。あなたは?」

「……ラティナと言います」


「ラティね。よろしく。見たところ戦闘職って感じじゃないけど、あなたの職業は――」


その時だった。


「よし!! あらかた組み終わったな! 三人一組できてない奴はいるか!?」


野太い声が会話を切り裂いた。


黒いローブを纏った、見るからに性格の悪そうな試験官が声を張り上げる。


「今から詳細なルールを説明する! 耳の穴をかっぽじってよく聞け!」


ルールは至極単純。


目の前の『荘厳なる大森林』へ入り、最深部の『花嫁の可雫』を持ち帰ること。


だが、次に放たれた一言が、周囲の熱気を一瞬で凍りつかせた。


「――三人一組のうち、たった一人でもゴールすれば、その班は全員『合格』とする。以上だ!」


……たった一人でも、だと?

その言葉の意味を理解した瞬間、俺の背筋に嫌な汗が流れた。


それは協力の推奨などではない。むしろ、その逆だ。


「……リヒト、どうしたの?」


シャノンが俺の顔を覗き込む。


俺は黙ったまま、二人の横顔を見つめ返した。


事前情報では、三人の生還が絶対条件だったはずだ。だが、違う。


「一人でも戻ればいい」ということは、極論、邪魔な仲間を囮にして自分だけが生き残る道も肯定されるということだ。


この変更が意味する「どろりとした悪意」に、どれほどの受験者が気づいているだろうか。


「水と食料を支給する! 確実に、そして賢く運用するように!」


一グループにつき、一週間分の食料が詰まった麻袋が一つ。


受け取ったシャノンが、その重みに引かれてヨロヨロと身体を揺らす。


「重っ……。これ、三人で一袋だけ?」


「……『賢く運用しろ』、か。嫌な言い方だな」


俺は試験官の言葉を脳内で反芻する。


三人分の食料。一人でも戻れば合格。そして、食料は一袋にまとめられている。


これは、グループ内での奪い合いや、脱落者を見捨てて食料を独占することを誘発させている。


大学側は、最初から「技術」ではなく「エゴイズム」と「非情さ」を選別するつもりなのだ。


「では、ちょうど今より開始とする。各人、準備ができたグループより出発されよ!」


号令と共に、受験者たちが雪崩のように森の深淵へと吸い込まれていく。


ある者は吠え、ある者は隣を歩く仲間をすでに獲物を見るような目で牽制しながら。


「……行こう。ここにいても、腹が減るだけだ」


俺はまだ震えているラティナの背に手を置き、静かに歩き出した。


平穏な人生を手に入れるための道。


そのスタート地点は、想像を絶する飢えと、いつ背中を刺されてもおかしくない疑心の森だった。

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