どーも、最強のオリジナルメニューを作る男です。
昼休み。平日のいつもと変わらない喧騒の中、彼は一人、得意げな表情で休憩室へと向かっていた。手には、コンビニの袋が二つ。その中身を知る者は、まだいない。
「おー、待たせ待たせ」
彼女が先に座っていたテーブルに、彼は袋をドンと置いた。その顔には、何か大きな成果を成し遂げた者特有の、満足げな笑みが浮かんでいる。
「……何それ。また変なもの買ってきたの?」
彼女は自分の弁当を広げながら、不安そうに尋ねた。彼が「すごいもの思いついた」と言い出す時は、大抵ろくなことにならない。過去に、焼きそばパンにコロッケを挟んで食べようとして失敗した前科もある。
「見てろよ。今日は本気だ。やけ食いだ。」
彼は袋から次々と商品を取り出した。レンジで温める冷凍炒飯、レトルトのカレー、そして冷凍食品のトンカツ。それらを電子レンジで順番に温め始める。
「まさか、それ全部混ぜるつもり?」
「混ぜるんじゃない。融合させるんだよ‼︎」
彼は真剣な表情で答えた。電子レンジの「チン」という音が、まるで勝利の鐘のように聞こえた。
温め終わった炒飯を容器に盛り、その上からカレーをたっぷりとかける。
「うまそー‼︎これはヤバイぜぇ。ヤベェ…、ウーワ、ウーワァァァ。ンンンン。ワァワァワァ。」
そして、クライマックスとばかりに、トンカツを炒飯の頂上に鎮座させた。
「完成‼︎」
彼は両手を広げ、まるでテレビの料理番組の司会者のように大げさなポーズを取る。
「カレーにぃ〜、チャーハンにぃ〜、トンカツ‼︎最強のオリジナルメニューが完成しちまったなぁ‼︎」
周囲の社員たちが、ちらりとこちらを見て小声で笑っていた。誰もが「また始まった」という表情だ。
彼女は、その光景を見て思わず吹き出した。
「ぷっ、はは、アハハ。」
笑いをこらえきれず、彼女は口元を手で押さえる。肩が小刻みに揺れていた。
「な、何だよ。笑うことないだろ」
「だって……」
彼女は涙目になりながら、ようやく笑いを収めた。
「複数のインスタント食品を組み合わせただけじゃん。わざわざ三つも買って、レンジで温めて、盛り付けただけでしょ」
「いやいや、これは単なる組み合わせじゃない。三大人気メニューの融合なんだよ。カレーの深いコク、炒飯のパラパラ食感、トンカツのサクサク感。これらが一つになることで生まれる、新たな味覚の境地……」
「はいはい、子ども舌。」
彼女は呆れたように手を振った。
「まず、炒飯は炒飯、カツカレーはカツカレーで食べた方が良いでしょ。それぞれ完成された料理なんだから。わざわざ一緒にする意味ある?」
「でも、美味いものと美味いものを組み合わせれば、もっと美味くなるだろ?」
「ならない場合もあるの。というか、大抵はならない!」
彼女は自分の手作り弁当に視線を戻し、淡々と箸を動かし始めた。彩り豊かな野菜、丁寧に焼かれた卵焼き、ふっくらとしたご飯。全てがバランスよく詰められている。
「それに、カレーの水分で炒飯がベチャベチャになってるじゃん。炒飯の魅力って、パラパラ感でしょ。それに、トンカツの衣も湿気でふやけるよ〜」
「う……」
彼は一瞬だけ言葉に詰まったが、すぐに開き直った表情でスプーンを手に取る。
「いいんだよ、これが俺のスタイルなんだから。味覚は人それぞれ。俺は破天荒な男なんだ。誰もやったことのない未知の組み合わせに挑戦する、それが俺の生き方。」
「生き方って、大げさな……」
そう宣言すると、彼は意を決したように一口、その謎の創作料理を口に運んだ。
カレーの辛味、炒飯の油っこさ、トンカツの重厚感。それぞれは確かに美味しいはずだが、口の中で主張し合い、まとまりのない味の混沌を生み出していた。カレーの水気を吸った炒飯は、予想通りベチャベチャで、本来の食感は完全に失われている。トンカツの衣も、カレーに浸かって柔らかくベチャベチャになり始めていた。
彼の表情が、微妙に曇った。咀嚼するたびに、自分の選択を後悔する気持ちが強くなっていく。
「……どう? 美味しい?」
彼女は意地悪そうな笑みを浮かべながら尋ねた。答えはもう、彼の表情に書いてある。
「う、うん。まあ、悪くはねぇな。うん、これはこれで……新しい味だな。」
彼は強がって言ったが、その声には明らかに迷いが含まれていた。それでも、一度言い出したからには引き下がれない。男のプライドというやつだ。
「そう。じゃあ、全部しっかり食べてね。もったいないから残さないでよ。」
彼女は小さく笑いながら、ひとこと呟いた。
「ね、言ったでしょ。」
その言葉が、彼の心に深く刺さった。でも、認めるわけにはいかない。
彼は黙って食べ続けた。一口ごとに、自分の選択を後悔しながら。それでも、プライドが今さら引き返すことを許さなかった。完食するまで、この戦いは終わらない。スプーンを動かす手が、だんだん重くなっていく。
「次からは、素直に普通のお弁当買ってきなよ。」
彼女は、そんな彼の様子を横目で見ながら、自分の弁当を美味しそうに平らげていた。シンプルな焼き鮭、ほっくりとした煮物、ふっくらと炊けた白米。何も足さない、何も引かない。それがやはり一番なのだと、彼女の満足そうな表情が物語っていた。
テーブルの上には、まだ半分以上残されたカツカレーチャーハンと、黙々と格闘する男の姿があった。休憩室の喧騒の中、小さなドラマは静かに、そして長く続いていた。
彼の昼休みは、まだ終わりそうになかった。




