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第25話:フェイントの先に

「10分経過……」


 リングアナ田辺の声が会場を包む。響いた瞬間、観客のざわめきが一層熱を帯びた。


 タイムキーパーのすぐ横には実況席。アナウンサーが声を張り上げ、息を切らせながら技の応酬を追いかけている。


 普段はリングアナリストやスポーツ評論家が並んで座る解説席だが、この日は古田が一人。言葉の端々に滲む興奮は抑えきれず、やがてその熱はリングへと伝わり、さらに観客席を揺さぶっていった。


 Queen Bee専属実況アナウンサー古田。


 耳に装着したヘッドセットから自分の荒い息づかいが返ってきて、胸の鼓動さえ拾われそうだった。目の前で繰り広げられる攻防に、台本など存在しない。


 ただ瞬間を切り取り、魂を声に変えて届ける――それが実況の使命だった。


「起死回生のトペ・コン・ヒーロォォ!全身を投げ出しての突撃だぁぁ!」


 宙を舞う如月。その影は一瞬、スポットライトに照らされて翼のように広がり、観客席からは悲鳴にも似た歓声が上がった。


 だが受け止めたのはカナレだ。


「おおっと!しかしカナレ選手、両腕を広げて如月選手を受け止めたぁ!」


 場外の攻防に息を呑む観客の声と、古田の実況が重なる。


 その言葉は、会場に来られなかった視聴者の胸を直撃する。画面越しに見守るファンにとって、実況は命綱であり、魂をリングへ直結させる導線だった。古田の言葉ひとつで、視聴者の心拍が上下する。


 両者の仕掛けは、互いの読みと反応によって打ち消し合った。一瞬の爆発を期待して息を殺していた観客は、「ああっ」とどよめき、そして大きく吐息を漏らす。


 不発――だが、その緊張の解放は、逆に次の瞬間への渇望を倍加させていた。


 リングサイドでは、手に汗を握っていたファンが思わず頭を抱え、別の観客は椅子から立ち上がったまま固まっている。場外カメラは、わずかに乱れた呼吸と額に光る汗を捉えていた。二人の胸の上下動が、そのまま会場全体の鼓動にリンクしているように見える。


 ――この攻防は終わらない。


 誰もがそう確信していた。


「両者、今……場外からリングへ戻ります!」


 実況席の古田が声を張り上げると、観客は再び沸き立つ。静寂と落胆の空気は一瞬で吹き飛び、スタジアムには「次こそは」という期待の熱が渦を巻いた。


 二人がリングへ足をかける。


 その背には、何万人もの視線と想いが乗せられていた。


 カメラが追う。スクリーンに映し出されたのは、対峙する二人の姿。先ほどまでの目まぐるしい空中戦、スピード感あふれる攻防とは打って変わって、ただ互いを睨み合い、一挙手一投足を探る緊迫の時間。


 会場の空気が変わった。歓声は静まり、観客席のあちこちで息を飲む音すら響くようだ。緊張の糸が張りつめ、まるでスタジアム全体が「次の一手」を固唾を呑んで見守っている。


 スクリーンに映る二人の呼吸が観客の呼吸と重なる。誰もが知らぬ間に、深く、深く息を吸い、肺の奥に熱をため込んでいた。


 その視線の中心で――如月とカナレは動かない。


 如月はじわじわとカナレの間合いへと踏み込む。


 だがカナレは一歩も引かない。腰を深く落とし、両腕を広げるようなオーソドックスな構え。まるで飛びかかる寸前の獣が地を這うように、微動だにせず気配を膨らませていた。


 先に動いた方が負ける――。


 リングそのものが告げているかのような、重苦しい空気。


 如月が軽やかにステップを刻み始める。靴底がマットを擦る音が、場内に小さくリズムを刻む。すぐさまカナレも正面を外さぬよう、すり足で追尾する。二人が円を描くように歩を進めるたび、観客は息を飲み、数万人のざわめきがすっと凍りついていく。


 ――静寂。


 これまで天井を揺らしていた怒号も、波のように押し寄せていた歓声も、すべて幻だったかのように掻き消えた。


 場内を満たすのは、リングに立つ二人の呼吸――荒いわけではなく、しかし胸の奥を焼くように熱い呼吸音と、マットの繊維がわずかに軋むきしみだけ。


 斎藤レフェリーが腰を深く落とし、両膝に緊張を込めて二人の間を注視する。まぶたは開き切り、視線は一瞬の動きも見逃すまいと研ぎ澄まされていた。だが、指先がわずかに震えていた。


 それは冷えた汗のせいではない。リングに張り詰めた殺気の奔流に、経験豊富なレフェリーすら呑み込まれていたのだ。


 観客も同じだった。数万人の人間が、まるで1つの身体になったかのように声を失っていた。


 椅子がきしむ音すら聞こえない。耳に届くのは自分の心臓の鼓動と、リング上の二人が刻むわずかな足音だけ。


 誰もが悟っていた――「先に動いたほうが終わる」。この静寂は前触れ。次の瞬間、必ず何かが起こる。


 そして――如月が突如、右足を振り下ろした。


 バァンッ!。


 乾いた爆音が空間を切り裂いた。 マットを踏み抜くような衝撃音が炸裂し、観客の鼓膜を震わせ、心臓を鷲掴みにする。


 客席の一部から思わず悲鳴が漏れ、子供を抱く母親が反射的に目を覆った。音だけで場内の空気が一変したのだ。


 ――フェイント。


 ただの音。ほんの一瞬の虚を突く一手。


 だが、爆ぜた音は観客だけでなく、カナレの肉体にも深く入り込んでいた。


 リングに立つ者にとっては致命的な合図。観客がごくりと息を飲む。刹那、時間すら止まったかのように、全員がカナレの反応を凝視していた。


 その音に反応して、カナレの上体がわずかに前へ出る。如月の狙いは、まさにそこだった。


 鋭い軌道で身体を反らす――とんぼ返り!光の残像を残すほどの速さでマットを蹴り、宙へ跳ね上がる。如月の脚が弧を描いた瞬間、観客席から「来るぞ!」と歓声とも悲鳴ともつかぬ声が漏れた。


「浴びせ蹴りか!?」


 古田アナの叫びに呼応するかのように、カナレの両腕が反射的に上がる。胸元から顔面を庇うようにガードを固め、全身を鎧のように固めた。


(……如月っち。打撃は私には通じない。足を使ったところで、この剛腕の壁は越えられない……!)


 カナレの思考は揺るがなかった。これまでの攻防で培った確信――如月は飛び技主体。必ず蹴りで揺さぶり、そこから華やかな大技に繋げてくる。その呼び水となるフェイント、そして観客を煽る派手な展開。すべてはパターン化されている。


(次は必ず仕留める。ガードを固めて受け止め、その瞬間、返す!)


 そう信じて疑わなかった。だが――如月の身体は、予想の軌道を外れていく。


 ――来ない。


 視界に映るのはロープ越しに見る――リング下の観客。目の前から如月の姿が、忽然と消えていた。


 背筋に冷たい電流が走る。嫌な予感に駆られ、視線を下げた瞬間――。


「……ッ!?」


 低空姿勢から跳躍する如月、地を這うような角度で滑り込み、両脚を撃ち出す。狙いは一点――カナレの左膝!


 ドガッ!


 衝撃が直撃し、カナレの膝が悲鳴を上げた。


 硬質な音がマット越しに響き、観客席の誰もが自分の膝を押さえたくなるような錯覚に陥る。カナレの体がわずかに傾ぎ、支配者のように揺るぎなかった軸が、初めて揺れる。


 反射的に上げていた両腕。その防御の意識が一瞬で霧散し、無意識に下へ下がった。それはまさに隙。相手の体に走る“わずかな乱れ”を、如月は血眼で待っていた。


 尻もち気味にマットへと着地した如月の背中がわずかに沈む――。


 だが次の瞬間、バネ仕掛けの人形のように弾き飛ばされる。全身に張り巡らされた筋肉と神経が、精密機械のように爆発的なエネルギーを放った結果だった。


 跳ね起き。観客が息を吸い込む間すら与えない、閃光の復帰。そのまま助走なしで、空気を蹴り裂くように飛び上がった。


 標的はただ一つ。カナレの頭部。


 宙を舞う如月の両脚が、獲物の首に蛇のように絡みつく。ぎゅうっと締め上げる感覚が、観客の錯覚として伝わるほどだった。


 そして、如月の身体がしなやかに反転する。


 空中で描かれる軌道は、まるで闇夜を切り裂く流星が放物線を描くかのごとく美しい。破壊と芸術が同居する、瞬間の舞。


 ――コルバタ!


 回転の慣性が爆発し、カナレの体が引きずられるように宙を舞う。リング上に響くのは観客の悲鳴とも歓声ともつかぬ轟音。数万の喉が一斉に震え、アリーナそのものが共鳴した。


 カナレが宙を舞い、リングへ叩きつけられる。


「フェイントからの低空ドロップキック!さらに間髪入れずに助走なしのコルバタぁぁぁ!これは新人の動きじゃないッ!」


 古田アナの絶叫がマイクを突き破る。観客席からは割れんばかりの大歓声!


 リングが震え、足踏みのリズムが地鳴りとなってアリーナを揺らす。歓声と悲鳴が入り混じり、観客の熱はもはや爆発を通り越し、巨大な火山の噴火のように荒れ狂っていた。


 カナレは視界が揺れる中で、何が起こったのかを理解する暇すらなかった。気が付けば体が宙を舞い、背中からマットに叩きつけられていた。


 ダンッ!


 受け身を取る衝撃音が稲妻のように走り、リング全体がどよめく。床下の鉄骨が悲鳴を上げるかのように軋み、その震動は客席の床板へと伝わり――観客の心臓にまで突き刺さった。


 その震えに呼応するように、観客が一斉に立ち上がる。


 ズンッ!ズンッ!ズンッ!


 数万人の足踏みが重低音となり、アリーナを包み込む。音ではない――衝撃だ。地響きが空気を揺さぶり、肺を振るわせ、観客一人ひとりの血を沸かせる。


「観客のストンピングがアリーナを揺らすッ!止まらない!この熱狂は止まらないぞぉぉぉッ!」


 古田アナの叫びは、すでに実況を超えていた。観客と一体となり、魂を剥き出しにして声を張り上げている。


 リング中央に転がったカナレは、荒い呼吸の合間に、ぼそりと呟いた。


「……山勘が、外れた……」


 その言葉は敗北の吐息ではない。むしろ自分を奮い立たせる苦笑のようだった。


 そして次の瞬間――カナレの瞳が再び燃え上がる。


 観客の熱が、リングの震えが、その闘志を呼び覚ましていた。黒曜石のように深い瞳に、赤い焔が宿る。


(……次は必ず来る。必ず、得意の締め技で私を仕留めに来る……!)


 読み違えた悔しさは消えた。今やその失敗すら、次の狩りへの燃料になっている。カナレの闘志は消えない――むしろここからが本番だった。


 カナレは立ち上がりゆっくりと腕を下げ、わざと首筋をがら空きにした。挑発だ。観客席からも「おおっ」とどよめきが広がる。


 ――来い。締め技で仕留めに来い。そう言わんばかりの気迫。


 だが、その瞬間――予想が裏切られる。


 如月の身体が閃光のように跳ねた。次の瞬間には、カナレの逞しい腕に飛びつき、両脚をがっちりと絡めていた。


「……ッ!?」


 上腕部を両脚で挟み込み、手首を掴む。全身を密着させたまま、背筋をしならせ反り上げる!


 ――飛びつき十字固め!


 スタジアムが一瞬静まり返り、直後に爆発した。


「おおおっとォォッ!ここで腕だぁぁぁッ!?如月選手、まさかまさかの選択だぁぁッ!」


 古田アナの声は裏返り、会場に響き渡る。実況というより悲鳴に近い。


 観客も息を呑んだ。カナレ相手に腕十字?それは常識外れの無謀。誰もがそう思った。


 だが、実際にリング上ではそれが決まっている。


 リング際で拳を振り上げていた観客が頭を抱える。控室でモニターを見ていた望月は、思わず立ち上がって叫んだ。


「バカッ!なんでカナレ相手に腕なんか取るの!」


 横の島村も目を見開き、言葉を失っている。


 一方、SAKEBIの表情は強張っていた。


 彼女は知っている。海外遠征で幾度となく見せつけられた――《剛腕》の本当の恐ろしさを。


(……カナレ相手に腕十字なんて……普通なら、あり得ないッス……!むしろ自殺行為ッスよ……!)


 控室で見ている彼女の背筋に冷たい汗がつたう。隣で望月は叫び、島村は息を止めるように画面に釘付けになっていた。


 リング中央。カナレの顔は苦痛に歪んでいる。前腕を極められ、肘が悲鳴を上げる角度だ。普通のレスラーならすでにタップしていてもおかしくない。


 だが――その唇の端が吊り上がっていた。


 苦悶と笑みが同居する異様な表情。観客席からも「なんだ……?」「笑ってる……?」とざわめきが起こる。


 その姿は、猛獣が罠にかかった獲物ではない。むしろ――自ら罠を噛み砕き、牙を剥こうとする捕食者の顔だった。


「ぐぐ……ぅ……如月っち……!私相手に……それはないだろ……!」


 低く唸るような声が、マットに染み込むように響いた。


 それは敗北を嘆く呻きではない。観客の耳には、むしろ不気味な咆哮の前触れとして届いた。背筋に氷を落とされたかのような悪寒が走る。


「……見損なったぜッ!」


 吐き捨てるような言葉が飛び出した瞬間、観客は一斉に息を呑んだ。会場の空気が一瞬で張り詰め、何万もの視線がリング中央へ釘付けになる。


 直後、カナレの全身が震えた。隆起する筋肉が音を立てるかのように盛り上がり、血管が浮き上がって脈打つ。まるで皮膚の下で獣が暴れ出したようだった。


「ぐぅぅぅ……!」


 低い唸りが場内を満たす。観客席の最上段に座る者ですら、その声の震動を感じた。空気の密度が変わる――そう錯覚するほどの圧。


 控室でモニターを見つめていた望月が思わず声を失い、島村は両拳を握りしめる。SAKEBIはただ一言、震える声で呟いた。


「……ヤバいッス……」


 野性を解き放つ前触れのようなその唸り。スタジアム全体を覆う圧迫感に、誰もが悟った。


 ――ここからが本当の地獄だ、と。


 苦痛に歪んでいたはずの顔に、不意に笑みが戻る。


 だがそれは余裕の笑みではない。獲物を仕留める寸前の猛獣が牙を剥く時の、不敵で凶暴な笑みだった。


「如月っち……私の勝ちだ!」


 その声は低く震え、リング全体を震撼させるほどの圧を孕んでいた。観客席が一瞬、静まり返る。次に何が来るのか――全員が本能的に悟ってしまったからだ。


 直後、カナレの全身が爆ぜた。


 血管が浮かび上がり、隆起する筋肉が皮膚の下で脈打つ。まるで鋼鉄の鎖が幾重にも巻き付いたかのように腕が肥大し、肩が盛り上がる。


 ――フルブースト。


 ギフト《剛腕》、完全解放。


 リングに立つだけで、場の空気がねじ曲がる。圧力で押し潰されるような錯覚に、観客やレフェリーも息を呑んだ。


 瞬く間に両腕の筋肉が盛り上がり、皮膚の下で隆起する筋繊維が生き物のように蠢いた。まるで黒鉄の鎖を幾重にも巻き付けたかのような腕。その一本で――如月の体を豪快にリフトアップする!


 軽々と、という表現では足りない。細身の如月を、羽毛のように宙へ舞い上げてみせた。その瞬間、観客の喉から息が漏れる。歓声や悲鳴でもない、驚愕のため息。


 片腕に如月を絡め取ったまま、カナレはゆっくりと腰を伸ばし――リングの中央に、圧倒的な存在感を取り戻した。


「カナレーッ!」


 ――控室のモニターを見つめる島村・望月・SAKEBIの顔色が曇る。


 先ほどまで大歓声に煽られていた熱気は消え失せ、代わりに冷たい汗が背中を伝っていた。映し出されるのはリング中央でカナレに捕らえられた如月の姿――。


「何してるのよ如月!」


 望月が思わず声を荒げる。胸の奥から溢れ出した苛立ちは、焦りの裏返しでもあった。拳をぎゅっと握りしめ、モニターを食い入るように見つめる。


「で、でも……如月さんのことですから、きっと何か作戦があるんじゃ……」


 島村が震える声で言葉を重ねた。


 だがその声には自信がなく、最後は尻すぼみに消えた。彼女の額には玉のような汗が浮かび、吐き出す息も浅い。理屈ではそう信じたい。けれど、画面の光景は愚策にしか見えなかった。


 ただ一人、SAKEBIだけが違っていた。


 モニターから目を逸らさず、唇を強く噛み、血が滲むほど力を込める。その視線は鋭く、まるで映像の奥に潜む真実を見抜こうとするかのようだった。


 ――思い出すのは如月とのスパーリング。


 体格や力も、自分より細身の如月。けれど、組んだ瞬間に全身を絡め取られるような感覚に息を奪われた。真正面から力比べを挑んだつもりでも、気が付けば崩され、体勢を奪われ、何度も無防備な姿をさらした。


 如月の動きには「力」ではなく「間合い」と「呼吸」が宿っていた。ほんの半歩、ほんの一拍のズレを見逃さず、そこに自分の体を滑り込ませる。視線と視線を合わせた刹那に、もう次の一手を織り込んでいる――。


 まるで未来を先取りしているかのような読み。


 あの時、何度も悟らされた。力ずくでねじ伏せようとすればするほど、如月は蜘蛛の糸のように絡みつき、逆にこちらを封じ込める。だからこそ断言できる。


(如月さんが「腕を取った」。それは無謀なんかじゃない……必ず“意味”があるッス!)


 脳裏で散らばっていた点と点が、一本の線で結ばれていく。試合展開、フェイント、リズムの乱れ――。


 すべてが1つに重なった瞬間、稲妻のような閃光が頭の中を駆け抜けた。


「あっ……!そういうことッスか!」


 思わず声を上げると、望月と島村がビクリと振り返る モニターの光が二人の顔を照らし、不安と驚きの色を濃く浮かび上がらせた。


「な、なに?どうしたの、SAKEBI?」


 望月が震える声で問いかける。島村も無言で身を乗り出す。二人の視線が食い入るようにSAKEBIへ注がれる。


 SAKEBIは拳を握りしめ、全身の血が沸騰するような高鳴りを感じながら叫んだ。


「これ……全部、如月さんの想定通りッス!カナレは今、まんまと罠にハマってるッスよ!」


 その言葉は雷鳴のように控室を揺らした。


 望月と島村の顔に驚愕が広がり、同時に消えかけていた炎が再び灯る。冷たい緊張の空気に、確かな希望の光が差し込んだのだ。


 二人は無意識に呼吸を合わせ、再びモニターを凝視する。その瞳には、さっきまでの恐怖や迷いはない。ただ「次に起こる奇跡」を待ち望む熱が宿っていた。


 控室の空気が、一瞬で変わった。もはや観客席と同じ。彼女たちもまた、戦場に立つ仲間の一部になっていた――。

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