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第8話ミュゼ

施設のどの角にも、目と耳があるように感じられた。安全な場所を求めて数分間歩き回った末、ジャミルの焦燥感はますます募っていく。壁が囁き、影が伸びてくるかのようだ。ついに、一つの記憶が蘇った。庭の端にある、古びて打ち捨てられ、忘れ去られた倉庫。そこならば、誰一人として近づく勇気はないと、彼は確信できた。


朽ちた木の扉は、押されると抗議の呻きを上げた。途端に、黴臭い空気が彼らの肺になだれ込み、古い埃と腐った木の濃密な香りを運んでくる。屋根の隙間から差し込む数条の陽光が、まるで金の剣のように、空気中で気怠げに舞う無数の塵の粒子を照らし出し、圧迫感のある静寂を創り出していた。


中に一歩足を踏み入れた途端、倉庫の空気の冷たさがジャミルを鷲掴みにし、彼が心の奥底に埋めようとしていた記憶へと、無理やり引きずり込んだ。彼は再び、それをはっきりと見ていた。縛られ、その体に鞭の跡が刻まれたミラの姿を。彼女の苦しみの、物言わぬ証人となった、痛ましい記憶を。彼の息が詰まり、虚ろな視線のまま、戸口で彫像のように立ち尽くした。


ジャミルの変化に気づいたハンは、素早く動いた。時間を無駄にすることなく、彼は氷のように冷たいジャミルの腕を掴み、戸口から中へと無理やり引きずり込む。そして、慎重な動きで扉を押し、古いかんぬきの微かなかちりという音が、彼らを静寂の中に閉じ込めた。


彼らは今、薄暗い部屋の中央で向かい合って立っていた。先に沈黙を破ったのはハンだった。その視線は鋭く、問題の核心を真っ直ぐに突いていた。


「ここは安全だ。さあ、さっさと言え。何の用で俺を呼び出した?」


腕を引かれた衝撃で、ジャミルは我に返った。彼は素早く首を振り、脳裏のミラの幻影を追い払おうとする。ハンを見返し、その声は真剣で重々しかった。


「明日の朝、僕は施設を出る。母上に、イグニスター学院で教育を続けるよう、命じられたんだ。」


「イグニスター学院」の名を聞き、ハンの表情が変わった。彼はジャミルから背を向け、床の朽ちた木の板をわざと蹴りつけて、短い鈍い音を立てた。古い錆びた椅子へと歩み寄り、そこにどさりと身を投げる。か細く、冷たい笑いがその唇から漏れた。それは苦く、空っぽで、一片のユーモアも含まれていない笑いだった。


「イグニスター学院……だと? 聞き間違いじゃねえよな?」


ジャミルの眉がひそめられ、ハンの見下すような反応に、その顎がわずかに硬くなった。彼は背筋を伸ばす。


「ああ。聞き間違いじゃない。母上に、イグニスター学院で教育を続けるよう、命じられた。」


ハンは再び笑った。今度はより深く、嘲笑に満ちている。彼は視線を左手の爪へと移し、わざとらしいほど平坦な表情でそれを掃除し始めた。


「ペットみたいだな。何を言われても、どう扱われても、いつだってお利口に従う。」


その揶揄は、火をつけたようだった。熱い感覚がジャミルの顔に広がり、一瞬、彼の全ての懸念を消し去った。素早い足取りで、彼はまだ気楽に座っているハンに近づき、その手は固く握りしめられ、くたびれたTシャツの襟を掴んだ。


「クソッ! お前をここに呼んだのは、侮辱されるためじゃ――」


彼の言葉は途切れた。ハンは、その掴まれた下で、一ミリも動かない。彼はただ顔を上げ、先ほどまで怠惰だったその眼差しは、今や短剣のように鋭く変わり、ジャミルの目を真っ直ぐに射抜いていた。


「今のイグニスター学院で、何が起きてるか、お前は知らない。」


それは質問ではなかった。ジャミルの怒りを一瞬にして蒸発させる、冷たい警告だった。ゆっくりと、ハンのTシャツを固く掴んでいた彼の握力が弱まり、やがて完全に解かれた。彼は一歩後ずさり、今やハンの前でただ、静かに立ち尽くしていた。


ハンは、ジャミルの瞳の炎がゆっくりと消え、困惑に取って代わられるのを見守っていた。彼は途切れた言葉を続ける。


「知ってるぜ、母上……いや――デルヴィ叔母様は、『お前の魔法の成績がいいから』って理由で、お前をそこに行かせるんだろ。覚えてるか、俺たちがまだ五歳だった頃、スティール兄さんが、親父に呼ばれた時のことを?」


ジャミルは小さく頷き、ハンが口にする一言一句を、懸命に処理しようと脳を働かせた。


彼は、あの日をまだ覚えていた。ハンの兄であるスティール兄さんの顔が、親父の執務室から出てきた時、誇りに満ちて輝いていたことを。その後、彼はあっさりと行ってしまった。ジャミルはハンを見つめ、その声はほとんど囁きのようだった。


「ああ……覚えているよ。」


その頷きを見て、ハンは続けた。その体は、ぐらつく椅子により深くもたれかかる。その声はかすれ、まるで過去の重荷を引きずるかのようだった。


「スティール兄さんは、親父に騙されて、イグニスター学院で教育を続けることになった。理由は? お前に与えられた理由と、同じだ。」


「スティール兄さんが屋敷を出てから、俺は疑い始めた。何かがおかしい、と。俺は真夜中に、他の連中が寝静まった後、無謀にも屋敷を抜け出した。ありったけの情報だけを頼りに、独りで兄さんを探そうとしたんだ。」


ジャミルは、ハンの瞳の中に、彼が滅多に誰にも見せない、怒りと古い傷の閃きを見た。


「何週間も過ぎた。月も変わった。ヴァーニの街の隅々まで探したが、結果はゼロ。そしてついに、最も予期せぬ場所で、一つの手がかりを見つけた。ゴミ捨て場だ。俺が今住んでる場所で、ずっと探していた答えを手に入れたんだ。」


ジャミルは無意識のうちに一歩近づき、その声は切迫していた。「どんな情報だ?」


「イグニスター学院と、スティール・ストリングという名の生徒は……記録されたことがない、と聞いた。あそこで教鞭をとっていた元教師たちでさえ、聞いたことがないと。」


ジャミルの世界が、回転を止めたかのようだった。彼は小さく首を振り、否定する。「馬鹿な……イグニスターほどの学院が、そんな杜撰なことをするはずがない。親父自身が、手配したんだぞ。」


ハンは歪んだ笑みを浮かべた。あまりにも苦く、痛々しくさえ見える笑みだった。「馬鹿はお前だ! 親父が手配したからこそ、全てが跡形もなく消せるんだろうが。」


「そして、もっと悪いことに」ハンは身を乗り出し、その声は、まるで壁にも耳があるのを恐れるかのように、恐ろしいほどかすれた囁き声に落ちた。「イグニスター学院には、闇のシステムがある。飢えた怪物よりも、もっと恐ろしいやつがな。」


倉庫の壁が、迫ってくるように感じられた。ハンが口にした言葉の一つ一つ――「闇のシステム」、スティールの失踪――が、重い重荷となり、ジャミルに、あの学院へ足を踏み出すことさえ、考えさせるのを躊躇わせた。


ハンは椅子から立ち上がり、その視線は今や部屋の隅で微かに光る物体に向けられていた。彼はそこへ歩いていき、身をかがめる。再び体を起こした時、その手には、ミラの古びた髪留めがあった。その埃を払いながら、彼はまだ後ろで立ち尽くすジャミルに、再び尋ねた。


「イグニスター学院の真実を知った上で、お前の計画はどうなる? それでもそこへ行くつもりか、それとも、何か別の計画があるのか?」


振り返ったばかりのジャミルは、ハンの手の中の髪留めを、虚ろに見つめた。彼は、疑念に満ちた、空っぽの声で答えた。


「僕には……わからない。まだ、別の計画はない。」


ジャミルが話し終えた直後、ハンは再び近づいてきた。そして、予期せぬ動きで、ハンはその髪留めを持ち上げ、優しくジャミルの左側の髪にそれを差し込んだ。


「計画がないなら、なぜ俺をここへ呼んだ?」


重い沈黙が、彼らの間に漂い、ハンの突き刺すような問いだけが、それを破った。髪留めを差し込んだ後、ハンは一歩下がり、片腕を胸で組み、もう一方の手で顎を支えた。その目は細められ、ジャミルを頭のてっぺんからつま先まで観察している。


「ふーん……悪くない。」


そのか細い呟きは、まだ立ち尽くすジャミルを動揺させなかった。ゆっくりとした動きで、ジャミルは髪からその髪留めを引き抜いた。彼は手のひらの上で一瞬それを見つめ、やがて床へと落とした。その視線は今や、以前よりも断固として、ハンへと戻っていた。


「実は、この施設を監視するのに、君の助けを借りたいんだ。僕は、母上に疑念を抱いて――」


「――それと、使用人たちにか?」

ハンは素早く割り込み、ジャミルの言葉を終わらせた。


ジャミルは少し驚いた。その眉が上がり、心の中で彼は問う。(なぜ、僕が言おうとしていたことが、彼にわかるんだ?)


ジャミルの顔の困惑を見て、ハンは会話の主導権を握った。彼は姿勢を正し、その怠惰なオーラは今や消え失せていた。


「悪いな。その手伝いはできねえ。だが、お前がイグニスター学院へ行かずに、この問題から抜け出す手助けなら、してやれる。」


「君に、別の計画があるのか?」


ジャミルの問いに、ハンは短い頷きで答えた。彼は続ける。


「俺は、ヴァーニの街に隠された組織を持っている。もしお前が加わる気があるなら、俺自身がそこへ案内してやる。」


「ヴァーニの街に隠された組織?」ジャミルは首をわずかに左に傾け、その困惑は明らかだった。「君が言う組織とは、一体何なんだ?」


ハンはジャミルの目を真っ直ぐに見つめ、その声は、揺るぎなく、明瞭だった。

「鳥籠を守るのにうんざりして、その飼育場を根こそぎ焼き払うと決めた連中の集まりだ。俺たちは、自らを『ミュゼ』と呼んでいる。」

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