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第33章金箔の地獄

「ヴァーニ。」


その言葉が、冷たい空気の中に漂う。一瞬、誰も動かなかった。


アロリオンの贅沢な環境で育ち、ヴァーニで生まれ、実の母親に殺されかけた──メリサの語った物語は、到底信じがたいパズルのピースのようだった。 彼女が口にしたデルヴィという名にも聞き覚えがあった。怜悧で抜け目ない女という評判が公然の秘密となっている、あの美しい女性だ。


森は静まり返り、声にならない思考だけが満ちていた。 ズルヴィアンの部下たちの間で、困惑した視線が交錯する。 メリサに同情を向ける者もいれば、不信感を抱く者もいた。


(なんで、あんな恵まれた生活を捨てて逃げ出すんだ?) (俺だったら、大人しく留まって医者の治療を受けるがな。)


メリサには、彼らの考えが手に取るように分かった。 彼らのどこか虚ろな目は、自分たちが『天国』だと信じて疑わない孤児院の壮麗さを思い描いている。 メリサにとって、サンディにとって、そしてミラにとって、そこは金箔で覆われた地獄だというのに。


それまで黙って様子を伺っていたエッセが、仲間たちの沈黙を破った。


「先ほど、俺の質問に答えてもらえなかったな、嬢ちゃん。」エッセは柔らかな口調で言い、その視線を再びミラへと落とす。「その抱えている娘御に、一体何があったんだ? 体中に包帯が巻かれ、黄色い液体まで塗られている。何か酷い目にでも遭ったのか?」


メリサはすぐには答えなかった。腕の中で安らかに、しかし傷つきながら眠るミラの寝顔を見つめる。 深呼吸を一つして、彼女は口を開いた。


「この子は、罰を──」


その言葉は、背後から聞こえた重い枝の軋む音によって遮られた。 闇の中から、がっしりとした影が現れる。ズルヴィアンだ。


「こんな場所で何をしている?」


部下たちに向けられた声は鋭い。まだメリサの存在には気づいていない。 合流しようと一歩踏み出したところで、ようやく見知らぬ人影を捉えた。包帯を巻かれた子供を抱く少女と、その隣で庇うように立つ少年。


「なぜ、ここで足を止めてい……る。」


最後の言葉は弱々しく、ほとんど聞き取れなかった。 ミラに視線が釘付けになった瞬間、その厳格な声は喉に詰まったかのようだ。 仕事用の仮面が一瞬だけひび割れ、驚きか、怒りか、あるいは憐れみか──読み取れない感情の閃きが走る。 だが、すぐに元の無表情へと戻った。


ズルヴィアンがまだ立ち尽くしていると、エッセが彼の方を向いた。 「例の『身綺麗な坊主』は一緒じゃないんですね、ボス?」


(身綺麗な坊主?) その言葉が、メリサの耳に鋭く響いた。


「行かせるわけにはいかん。」ズルヴィアンはエッセから視線を逸らし、再びミラを見据えて答えた。「まだ体力が戻っておらん。これ以上、容態を悪化させたくない。」


「そうですか。」エッセは静かに応じた。


ズルヴィアンはエッセを無視した。彼は振り返り、部下たち一人一人を刃のような鋭い視線で射抜く。


「さっさと行くぞ。」冷ややかに命じた。「任務を中途半端に終わらせるわけにはいかん。貴重な時間を無駄にしないよう、可及的速やかに目的地へ向かう。」


間髪入れず、八人の部下たちは一斉に動き出す。士気は再び燃え上がっていた。 彼らは森の奥深くへと進み、ズルヴィアンもメリサには一言もかけず、その後に続いた。


だが、その姿が闇に飲まれようとした瞬間、一つの声が彼を引き止めた。


「待ってください!」


メリサの、毅然とした予想外の声だった。 ズルヴィアンは立ち止まる。しかし、振り返ることはなく、その背中は頑強な壁のようだった。


「その『坊主』の特徴を、教えていただくことはできますか?」


しばしの沈黙。夜風が木々の間をさざめく。


「部下が言った通りだ。」ズルヴィアンの声は平坦だった。「埃こそついているが身なりは良く、黒髪は整えられ、瞳は空のような碧色だ……」


彼はそこで言葉を切った。 ゆっくりと、意図的な動作で振り返り、メリサを真っ直ぐに見据える。


その瞬間、メリサの世界が止まったようだった。説明された特徴の一つ一つが、脳裏にある一人の顔、一つの名前を結びつけていく。 (ジャミル様……)


「その坊主を知っているのか、嬢ちゃん!」 ズルヴィアンは目を細め、メリサの瞳の揺らぎを見逃さなかった。


メリサの心臓が激しく鼓動する。疑念と、間違っていたらという恐怖。彼女は必死に平静を装った。


「いえ。」声が震えないよう、細心の注意を払って答える。「人違いだったようです。教えていただき、ありがとうございました。」


ミラを抱えたまま、ぎこちなくも丁重に頭を下げた。


ズルヴィアンは数秒間、彼女の顔に嘘がないかを探るように見つめていたが、やがて何も言うことなく踵を返し、闇の中へと消えていった。


メリサはその背中が見えなくなるまで見送り、ようやく堪えていた息を吐き出した。 隣で黙って聞いていたサンディが、か細い声で囁く。


「もしかして、メリサ姉ちゃんも俺と同じこと考えてる?」


メリサは彼を一瞥し、森の闇の中で、一言だけはっきりと答えた。 「うん。」


「あの人が言ってたのって、もしかして……」


「ジャミル様。」


張り詰めた沈黙が二人を包む。 ズルヴィアン達は去った。だが、彼らは一つの手がかりを残していった。 恐ろしくも、胸を躍らせる希望の光だ。もし本当にジャミル様なら、彼らの目的はすぐそこにあるのかもしれない。


だが、もし違えば、振り出しに戻るだけだ。


もはや言葉は必要なかった。メリサはミラを抱きしめる腕に力を込める。 サンディを見つめ、決意のこもった小さ頷きを返した。 結局のところ、今できることは一つしかない。


彼らは再び歩き出した。 ヴァーニの国境を目指し、先ほどよりもずっと重くなった足取りで、闇の中へと進んでいった。

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