第32章沈黙の森
深夜十二時。 哨所の衛兵たちが、眠気と戦いながら欠伸を漏らし始める時間。 完璧なタイミングだ。
計画に、長い議論は必要なかった。 ズルヴィアンが話し終えると同時に、全員が頷く。その目に宿る熱がすべてを物語っていた。 このような危険度の高い任務こそ、彼らが久しく待ち望んでいたものだったのだ。
狭い部屋が、にわかに動きで満たされる。 全員が明確な目的を持って散っていく。ロープの束を確かめる者、細いワイヤーのしなりを試す者。それぞれが必要なものを準備していく。
彼らが去り、ジャミルは濃密な静寂の中に取り残された。 一人、また一人と消えていく背中を、ただ見送ることしかできない。 ズルヴィアンへの――そして今や、まるで自分自身に向けられているかのような忠誠心に、心が震える。唾を飲もうとしたが、喉は乾き、舌がうまく動かなかった。
部屋の隅で、ズルヴィアンが手際よく道具を鞄に詰めている。 ジャミルは身体を起こし、立とうと試みた。だが、足は震え、体重を支えることを拒否する。 ズルヴィアンは、振り返らずともその動きに気づいていた。
「無理はするな。」 ズルヴィアンは、鞄の中身を漁る手を止めずに言った。 「まだ立つのが辛いなら、ベッドでおとなしくしてろ。」
「で、でも、黙ってなんかいられません。」 ジャミルの声は、懇願のようだった。 「僕は……ハンを助けないと。」
ズルヴィアンの手が止まった。鋭い機械の歯車を鞄に入れようとしていたところだった。 カチャン、と軽い音を立ててそれを床に戻すと、重い溜息と共に立ち上がり、ジャミルの方へ歩み寄った。
「心配なのは分かる。」 そう言って、節くれだった右手をジャミルの肩に置いた。その眼差しは鋭いが、怒ってはいない。 「ここでおとなしく待ってろ。こっちは俺たちに任せろ。お前がこの任務に加わる必要はない。」
ズルヴィアンは返事を待たなかった。 踵を返し、鞄に最後の荷物を詰め込むと、それを背負う。
「すぐ戻る。」 そう言って戸口へ向かったが、敷居をまたぐところで足を止めた。振り返らないまま、付け加える。 「ここから一歩も出るな。外は密偵だらけだ。奴らに捕まれば、お前の人生はそこでお終いだぞ。」
その暗黙の脅しに、ジャミルはベッドの上でびくりと身を引いた。 思い出した。ここは孤児院の外で過ごす初めての夜。狡猾で、残酷な現実の世界。 ここでは、あらゆる影が敵になり得るのだ。
ズルヴィアンはもう何も言わなかった。 蝶番の音さえ立てず、静かに背後の扉を閉める。 埃と蜘蛛の巣が友となった、息苦しいほど狭い部屋に、ジャミルは一人取り残された。
静寂が、重くのしかかってくる。 押し殺していた思考が、再び鎌首をもたげた。孤児院のみんなの顔が、脳裏をよぎる。
(メリサ姉ちゃん……サンディ、ミラ……みんな、今ごろ何してるんだろう。無事なのかな。……母上は? 他の子たちは? ちゃんと、人間として扱われてるんだろうか。心配だ……みんなを、守ってあげてくれ……)
答えのない問いが、なけなしの体力を奪っていく。 力の抜けた身体はついに抵抗を諦め、汚れた古い寝台の上へと崩れ落ちた。 ゆっくりと、その瞼が再び閉じていく。
* * *
タウンゼンド郊外の森は、生きていると同時に、死んでいるかのようだった。 闇は深く、鬱蒼と茂る木々の隙間から、時折差し込む月光だけが頼りだ。 メリサは歩き続ける。一歩一歩が、鉛のように重い。 背負ったミラの重みと、後ろからついてくるサンディの警戒に満ちた視線が、メリサに集中を強いていた。
シルヴィから教えられた道は、確かに安全だった。治安警察の気配はない。 聞こえるのは、小枝の折れる音と、足元の雑草が擦れる音だけだ。
「まだ遠いの、メリサ姉ちゃん?」 サンディが、少し息を切らしながら囁いた。
メリサは答えなかった。暗闇の中で紙の指示を読み解こうと苦戦しながら、背中のミラの体勢を気遣っている。 「分からないわ。」 と、優しく答える。 「たぶん、もうすぐだと思――」
言葉が、途切れた。 メリサがあまりに突然立ち止まったので、サンディは危うくその背中にぶつかりそうになる。 森の静寂の中で、彼女は『音』を捉えた。 不自然な音。風の音でも、夜の獣の音でもない。意図的な、足音だ。
「待って、動かないで!」 メリサの声は、鋭く緊迫していた。音のした方角を、その目が素早く探る。 「足音が聞こえる。」
サンディは即座に凍り付いた。ゆっくりと体を回転させ、同じ闇を見通そうとする。 「どこ?」 かろうじて聞こえるほどの小声で、彼は問い返した。
「一時の方向。」 メリサは即答した。心臓は激しく高鳴っていたが、声は冷静だった。 「足音……四人ね。」
まさしく、その通りだった。 彼女が言い終わると同時に、四つの人影が木々の間から現れ、行く手を塞いだ。
メリサとサンディは、思わず一歩後ずさった。 向こうも二人を見て驚いた様子で、反射的に足を止めている。ゆっくりと、その四人の後ろからさらにいくつかの人影が現れ、威圧的な集団を形成した。
集団のうちの一人――警戒心の強そうな男が、一歩前に出た。 「嬢ちゃん。」 その声に、威嚇するような響きはなかった。男の視線は、すぐにミラの姿に注がれる。 「こんな夜更けに、森でどこへ行こうってんだ? その子はどうした? なんで身体中、包帯だらけで、黄色い液体までついてるんだ?」
その問いは、尋問のようには聞こえなかった。むしろ、純粋な心配の色が感じ取れる。 メリサは深く息を吸い、どうにか平静を装った。
「ヴァーニに行かなければなりません。」 メリサは、声が荒くならないよう努めた。 「この子は危険な状態なんです。一刻も早く、そこへ行かないと。」
別の男が口を開いた。一際体格が良く、いかつい顔をしている。その低い声は、周りの空気を震わせるかのようだ。 「こんな時間に行ったって無駄だぜ、嬢ちゃん。」 ボロが言った。 「中には入れてもらえねえ。あんたがそこの生まれじゃねえなら、尚更な。」
(そこの生まれじゃねえなら) その言葉が、チクリと胸を刺した。苛立ちが、全身を駆け巡る。 メリサは一瞬、奥歯を噛みしめたが、すぐに苦々しい笑みを顔に貼り付けた。
「あ……はい、私、そこの生まれじゃないんです。」 わざと、諦めたような声色を作る。すぐに悲しげな表情に変えて、うつむいた。 「不運なことに、私はアレリオンの街で育ちました。生後一週間で、ろくでもない両親に殺されかけたんです。」
アレリオン。 その街の名に、男たちが何人か顔を見合わせる。豪華絢爛な孤児院があることで有名な街だ。
「幸運なことに、私はデルヴィ奥様に助けていただきました。」 メリサは、涙をこらえるかのように声を震わせた。 「もし奥様に助けていただかなければ、私はとっくの昔に、あの街で死体になっていたでしょう。」
その話は、うまく彼らの同情を引いたようだった。 だが、まだ一つ、引っかかる疑問が残っている。三人目の男、リアンが探るような目で尋ねた。
「『あの街』。嬢ちゃん、あんたが言ってる街は、どこなんだ?」
メリサは、芝居をやめた。 顔を上げる。森の闇の中で、その瞳から悲哀の色が消え失せ、すべてを射抜くような、冷たい虚無の眼差しへと変わった。 その目が、妖しく光ったかのようだった。
「ヴァーニよ。」




