第31章鉄の門の向こう
鉄の門は、大きく開かれていた。暗い洞窟の口のように、ぽっかりと。冷たい夜風が滑り込み、ポニーテールに結んだメリサの髪を揺らし、その普段着を、体の脇で踊らせた。だが、メリサ自身は、動かない。その足は、まるで地面に縫い付けられたかのように、荒れ狂うジレンマの真ん中で、石像と化していた。
ササという女の、本当の姿に、初めて、直面していた。これまでは、表面しか見ていなかった。だが、今、ランタンの薄明りの下、彼女は、その瞳の奥にある、狡猾な賢さを見た。自分と、そして、女主人とさえ、同等の、賢さを。
ササが出口を与えてくれたにもかかわらず、冷たい疑念が、まだ腹の底でとぐろを巻いていた。悪い考えが、頭の中を、めまぐるしく駆け巡る。
(もし、私が外へ出たら、あの子は、子供たちに何をする? 見張りを一人残しただけでは、あの子たちを守るには、足りない……)
まるで、その疑念の囁きが聞こえたかのように、ササは舌打ちをした。
「何をぐずぐずしているの!?」と、ササが怒鳴った。その確かな足取りが、静寂を破り、メリサへと近づいてくる。「あんた、まだ私を疑ってるの? 私が、奥様みたいに、平気で子供たちを始末したり、売り飛ばしたりする悪党だとでも?」
その問いは、突き刺さり、冷たい空気の中に、答えられないまま漂った。メリサは、唾を飲むしかなかった。ササの言葉の一つ一つが、罠のように感じられた。(もしかしたら、これは全部、ただの虚勢なのかも)と、メリサは、苦々しく思った。(私が去った後で、あの子が演じる、甘い芝居!)
再び、ササは、まるで彼女の心を読んだかのように、行動した。メリサの後ろに着くと、彼女はもう何も言わなかった。その両手のひらが、メリサの背中に、ぴったりと張り付く。そして、全力で、押し始めた。
「さっさと行きなさい!」と、ササは唸った。その声は、重く、努力に抑えられていた。動くことを拒むメリサの足は、まるで大きな岩を押しているかのようだった。「考えている時間なんてないのよ! この千載一遇の好機を、無駄にしないで。最大限に、利用しなさい!」
苦労しながら、一歩、また一歩と、ササは、メリサを門の敷居の向こうへと、押し出すことに成功した。メリサの体が、完全に外へ出ると、彼女は手を離した。二人の後ろで、鉄の門が、軋む音を立てて、ゆっくりと、閉まり始めた。
「言っておくけど、私はあんたの味方ってわけじゃないわ、メリサ」と、ササは言った。その声は、再び、毅然としていた。そして、影の合間から、にやりとした笑みが、その顔に浮かんだ。「奥様の味方でもない。私はただ、この戦いで、勝つ方に味方するだけ。」
門は、もう、ほとんど閉じていた。残された、狭い隙間を通して、ササの声が、最後に聞こえた。冷たく、期待に満ちて。
「私を、がっかりさせないでよね。あんたの次の手を、楽しみにしてるから!」
ガチャン!
固く閉ざされた門の音が、最終宣告のように響いた。メリサは、まだ、黙って立ち尽くし、ササの、野心に満ちた言葉の一つ一つを、消化していた。恐ろしい、一つの認識が、ついに、彼女を打ちのめした。ササは、誰の味方でもない。中立だ。彼女はただ、この戦いの、観客。最後に、誰が倒れ、誰が苦しむのかを見るのを、待っている。
濃密な夜の静寂の中、メリサは、ついに、その足を、無理やり、前に進ませた。目の前には、雑草の広がりと、薄暗い小道が、横たわっている。彼女は、あの地獄から、脱出することに成功したのだ。新たな、燃えるような決意と共に。――外から、あの場所を破壊する。小さな王子、ジャミルと、共に。
***
点滅する一本の蛍光灯の黄色い光が、蒸し暑く、狭い部屋を満たしていた。空の段ボール箱の山が隅々にそびえ立ち、埃と、古びた紙の匂いを、あたりに撒き散らしている。
微かに、ジャミルは、聞き慣れない会話の声を聞いた。その中で、聞き覚えのある声は、一つだけ。ズルヴィアン。湿った空気が、服を汗で濡らし、不快に肌に張り付いていた。タウンゼンドの市場で、あの屈強な男から、ハンの犠牲によって逃げ延びて以来、その意識は、途絶えていた。
非常に、ゆっくりと、彼は、目を開けた。最初に見たのは、蜘蛛の巣だらけの、部屋の天井だった。電球の傘には、厚い埃がこびりつき、壁のペンキは、もはや元の色が分からないほど、剥がれ落ちている。
「ズルヴィアンさん」と、興奮したような声がした。「目が覚めましたよ。」
それは、自分を抱きかかえていた、男の声だった。それを聞くや否や、椅子が、耳障りな音を立てて、乱暴に引かれ、近づいてくる足音が続いた。
「リアン……鞄から、水を頼む。」
リアンと呼ばれた男は、すぐに、机の下に置かれていたズルヴィアンの鞄を取りに急いだ。その中身を漁りながら、ズルヴィアン特有の、いくつかの道具が見えた。ギザギザの折りたたみナイフ、鋭く改造された機械の歯車、そして、その先端が毒で濡れて光る、数本の小さな矢。リアンは、それら全てを無視し、一本の水筒を取り出すと、ズルヴィアンに手渡した。
一方、ズルヴィアンは、慎重に、ジャミルが体を起こして、寄りかかるのを手伝っていた。
「具合はどうだ?」と、ズルヴィアンは、優しく尋ねた。「まだ、体のどこか、だるかったり、痛かったりするか?」
ジャミルは、答えなかった。その目は、野性的に動き、狭い部屋の隅々までを見渡している。そして、その時、彼は気づいた。ハンが、ここにいない。
「ハンは、どこだ?」と、ジャミルは尋ねた。その声は一オクターブ上がり、パニックに満ちていた。「なんで、ここにいないんだ?」
ちょうど、リアンが水筒を差し出した、その時。ズルヴィアンが、震える声で、答えた。
「……すまない。」
その一言だけで、十分だった。ジャミルは、振り返り、虚ろな目で、ズルヴィアンを見つめた。その大人の男は今、深く、頭を垂れていた。
「お前の兄弟を、助けることが、できなかった」と、ズルヴィアンは続けた。「タウンゼンドの街の警備隊が、お前の兄弟と、あの男を、署へ連行してしまった。……重ねて、すまない。」
最初は、ジャミルの思考は、混乱を極めた。だが、「警察に捕まった」という言葉を聞いて、そのパニックは少し和らぎ、代わりに、奇妙な一筋の希望が生まれた。捕まったということは、生きているということだ。ということは、まだ、見つけられる。
「ズルヴィアンおじさん」と、彼は呼びかけた。その口調は、今や、より丁寧で、切迫していた。「そこから、ハンを助け出す方法は、何かありますか?」
ズルヴィアンは、ためらうように、顔を上げた。
「ない」と、彼は、正直に答えた。
ジャミルの顔が、途端に、落ちた。その口は、あんぐりと開かれ、言葉を失っていた。
「だが」と、ズルヴィアンは続けた。「一つだけ、試さなければならない方法がある。ハイリスクだが、やる価値はある。」
消えかけた希望が、今や、再び、燃え上がった。部屋の周りでは、先ほどまでだらりと座っていたズルヴィアンの仲間たちが、途端に姿勢を変えた。彼らは、より深く、腰掛け直し、中には、胸の前で腕を組む者もいる。にやりとした笑みが、その顔に浮かぶ。まるで、「ハイリスク」という言葉が、楽しいパーティーへの招待状であるかのように。
ジャミルの同意を待たずに、ズルヴィアンは、続けた。
「今夜、ちょうど十二時。換気口から、潜入する。」彼は一旦言葉を止め、その鋭い目を、二人の部下に向けた。「ボロ。お前が先導しろ。お前は、そこの元囚人だ。そして、お前……エッセ。遠くから奴らの動きを監視しろ。もし、警備隊が俺たちの存在に気づいたら、赤い旗で合図だ。」
二人は、一斉に頷いた。その顔は、硬く、準備万端だった。
「残りは、安全な場所で待機。連絡は、密に。」
「応!」と、彼らは、一斉に答えた。一人、また一人と、立ち上がり、部屋を出ていく。狭い部屋に、静寂が訪れ、生まれたばかりの、無謀な計画の真ん中に、ジャミルとズルヴィアンが、残された。




