第17話背負わされた炎
ハンの自己犠牲は、ジャミルの両肩に重くのしかかる枷となった。息を吸うたびに、胸が締め付けられる。ハンが託した信頼は、まるで熱い炭のように脳内で燃え盛り、正常な思考を許してくれない。荒い呼吸の合間、その眉間には怒りと罪悪感が絡み合い、深い皺が刻まれていた。
走り続ける。振り返ることなど、許されない。だが、ハンの声の残響が、耳を離れてくれなかった。甲高い痛みの呻き声が幻聴のように這い寄り、背中を突き刺す。それは、彼が切り裂いて進む風よりも鋭かった。見るまでもない。後ろでは、ハンがあのクズ野郎に徹底的に痛めつけられている。
地面を蹴る一歩一歩が、声なき絶叫だ。肺は焼け、脇腹は刺すように痛むが、全てを無視した。ただ一つの目的だけが、痛み始めた瞼の裏で燃えている。――助けを呼ぶ。ハンを、あの地獄から救い出す。
古いヨーロッパ建築の石造りの建物が、小道の両脇に凍り付いたように立ち並び、彼の逃走の無言の証人となっている。ここは見知らぬ土地、初めて足を踏み入れた街。遠くから、住民たちのいくつかの視線が奇妙なものを見るように彼に向けられていた。乱れた足取りと焦りは、穏やかな午後の光景の中では明らかに異質だった。
道の向こう側で、中年の男が片手を上げた。もう片方の手は口元に添えられ、自然のメガホンを作っている。
「おい!」その声は大きく、重く、響き渡った。「何に追われてるんだ、悪魔にでも追われてるみてえな走り方しやがって!」
その呼びかけは、錨だった。ジャミルは走る方向を変え、絶望の海で唯一見つけた浮き輪であるかのように、その声の主へと向かった。
男の叫び声は、ジャミルの耳だけに届いたわけではなかった。喫茶店では、カップが宙で止まる。服屋から出てきたばかりの人々が一斉に振り返った。新聞に夢中だった男さえもそれを下ろし、騒ぎの中心を目で探している。
どうやらその中年の男は、辛抱強く待つタイプではないらしい。まだよろめきながら走ってくるジャミルを見て、自ら歩き出し、その屈強な足で二人の間の距離を縮めにかかった。
距離は縮まる。だが、ジャミルの体力も同じように尽きかけていた。足が言うことを聞かなくなり、無理やり引きずられる鉛の塊のようだ。あと、少し。男はもう目の前だ。
だが、彼の瞼の裏の世界が、ぐらりと回転を始めた。視界の端が黒く滲む。こめかみを伝う汗が、冷たく感じられた。男に辿り着く一歩手前で、足元の地面が消えたかのように、その体は横に傾き、重力に身を任せた。
頭が地面に叩きつけられる寸前、屈強な腕がその体を捕らえた。男の反射神経は、電光石火の速さだった。見知らぬ男の腕の中で崩れ落ちながらも、ジャミルの目はまだぼんやりと開いており、青く眩しい空を見上げていた。太陽の熱が肌を焼き、その呼吸は水から揚げられた魚のように、浅く、喘いでいる。
「坊主、大丈夫か?」
その声は深く響き、まるでトンネルの向こうから聞こえてくるようだった。ジャミルには聞こえていたが、口は固く閉ざされたまま。ただ眼球を上に動かし、今や自分の体を支えている男の顔を、ぼんやりと見上げることしかできなかった。
最後の力を振り絞り、震える腕が持ち上がる。人差し指が激しく揺れながら、今しがた自分が通ってきた道を――ハンのいる方向を、指し示した。
男の眉が寄せられた。多くを問わず、その目はジャミルが指差す方向を追う。目を細め、交差点の近く、遠くに見える小さな影に焦点を合わせた。そこには、何か不自然な動きがあった。
時を同じくして、ジャミルの声が、ついに乾いた喉から絞り出された。掠れて、途切れ途切れに。
「あ…そ…こ…に……きょ…うだい…が……あぶ…ない……た…すけ…て……」
その情報だけで十分だった。中年の男は力強く頷く。一つの淀みない動きで、ぐったりとしたジャミルの体を持ち上げ、まるで重さなどないかのように、胸の前に抱きかかえた。
ジャミルはなすすべもなく、どこへ連れて行かれるのかも分からずに身を任せる。男は踵を返し、喧騒の中心から静かに遠ざかっていった。
「心配するな。安全な場所へ連れて行ってやる。」
重々しくも落ち着いたその声は、脅威ではなく、盾としてジャミルを打った。彼の無力な体は、その言葉の中の約束にすがるしかなかった。だが、その視線はまだ後ろに、今も命の危機に瀕しているかもしれないハンの方向へと、釘付けになっていた。
「ありがとう――」
「まだ早い」男は素早く遮った。その口調は今や変わり、より鋭く、燃えるような情熱に満ちていた。「礼の言葉は取っておけ。お前の兄弟が危ないんだろう。今はまず、俺の家で体力を回復させろ。」
ほとんど力の入らない、微かな笑みがジャミルの唇に浮かんだ。胸の重荷が、少しだけ軽くなる。ゆっくりと目を閉じ、この見知らぬ男に全てを委ねた。
束の間の静寂が二人を包む。男の足音が土と擦れる音と、周囲の住民たちの活動のざわめきだけが聞こえる。時折、男が下を向いて自分の様子を確かめているのを、ジャミルは感じた。その静寂は、彼の落ち着いた深い声によって破られた。
「俺の名前はズルヴィアン・ペニソレリネだ。」
ジャミルは薄っすらと目を開け、男のたくましい顎を下から見上げた。「ジャミル」と、か細い声で答えた。「イラワン・ジャミルです。」
ズルヴィアンは薄く笑った。だが、その笑みは目には届いていない。
彼らがより賑やかなエリアに入ると、敬意のこもった囁き声や会釈がズルヴィアンを迎えた。住民たちの視線は、彼だけでなく、その腕に抱えられた華奢な姿にも注がれている。その歓迎の温かさは、ジャミルが経験した状況の冷たさとは対照的だった。
一人の若い男が、無造作な茶髪に黒のTシャツ姿で、彼らに追いつこうと歩を速めた。
「ズルヴィアンさん」と、彼は丁寧に、少し掠れた声で呼びかけた。「そいつは?」
ズルヴィアンは答えず、同じ確かな足取りで歩き続ける。まるでその問いなど、通り過ぎる風にすぎないかのように。
住民たちの会話の喧騒が、彼らの旅のBGMとなった。千もの疑問が頭の中で渦巻いていたが、ジャミルは黙っていることを選び、ズルヴィアンの腕の中に奇妙な安心感を感じていた。
ちょうど一つの交差点で、先ほどからついてきていた若い男が、今度はよりはっきりとした声で再び口を開いた。
「ズルヴィアンさん。」
その一言だけで、ズルヴィアンの足を止めるには十分だった。彼は立ち止まる。まるで、次に何が起こるか分かっていたかのように。
「詳しい話はもう聞きました。」
ゆっくりと、ズルヴィアンが振り返る。その視線は、目の前の若い男の茶色い瞳を捉えて離さない。二人の間の空気が、不意に重くなる。口には出されない何かが、その場に満ちていた。彼らの間でぐったりとしているジャミルも、その緊張が肌を這うのを感じることができた。
「この子を拠点へ運べ」ズルヴィアンの声はもはや温かくなく、鋼のように冷たく鋭かった。「皆に伝えろ。大きな任務が入った、と。」
その絶対的な命令を聞き、若い男はすぐに動き出した。手際良く、しかし慎重な動きで、ズルヴィアンの腕からジャミルを受け取る。彼はズルヴィアンの瞳に宿る危険な光を捉えたが、何も問わなかった。
ジャミルが若い男の腕の中にいるのを確認すると、ズルヴィアンはためらうことなく踵を返した。彼は歩き去る。ジャミルがたった今逃げてきた危険の方向へ――交差点へと、再び。緊張と混乱の中、自分が全く理解できない状況の渦に巻き込まれ、ジャミルは取り残された。