第16話犠牲と逃走
デルヴィの笑い声が止むと、千倍も息苦しい静寂が訪れた。――メリサの乳首を吸え――その命令はもはや言葉ではなく、サンディの血管を這い回り、自尊心の欠片を一つ残らず焼き尽くす毒と化していた。
メリサの顔が見れない。ミラの顔も見れない。視線は冷たいタイルに、目の前に跪くメリサの影に――最後の侮辱のシルエットに、縫い付けられていた。もはや選択肢はない。喉にガラスの破片が詰まったような息をしながら、彼は硬直した体を無理やり動かした。
更なる命令を待つ必要はなかった。サンディはしゃがみ込み、メリサと目線を合わせる。顔を近づける一ミリ一ミリが、空気をより濃密にしていく。ミルクを注ぎ始めたミラの小さな手が激しく震え、その顔が固く目を閉じて背けられているのが見えた。
唇が、メリサの肌に触れた。
ズズッ…!
冷たいミルクの流れが、彼の唇と目の前の乳首を濡らす。その行為は、命令通り、完璧に、機械的に、そして一点の曇りもなく遂行された。
デルヴィは立っている場所から、甲高い笑い声を上げた。ミルクが注がれる音の合間に、彼女は別の音を捉えていた。メリサから漏れる、か細く、抑えられた吐息。デルヴィの耳には、それが快感の声に聞こえた。笑みが広がる。だが、そのロボットのようなサンディの服従は、次第にデルヴィを退屈させ始めていた。
表情が、再び冷え切ったものへと戻る。「サンディ、メリサのパンツに手を入れろ。」
新たな命令が、サンディを打ちのめした。その手は人形の糸に引かれるように硬直したまま、激しく震えながら持ち上げられる。これが過ちであることは分かっている。メリサの優しさに対する裏切りであることも。だが、彼の体はもはや彼のものではなかった。
メリサの隣で、ミラはもう耐えられなかった。固く閉じていた目が、カッと見開かれる。震えるサンディの手が下へと這い、メリサの下腹部に触れ、最後の境界線を越えようとしているのが見えた。
もう、それで十分だった。
バシャッ!
デルヴィは避ける暇もなかった。残っていたミルクが自分のドレスにぶちまけられ、甲高い悲鳴を上げるのが精一杯だった。濡れた染みに目を見開き、信じられないというように口をあんぐりと開けている。
「……ッ、この無礼者ッ!!」
感情が爆発し、その美しい顔が怒りの仮面へと変わった。
強制された儀式から我に返ったサンディは、後ろをちらりと見た。その視線は、激怒するデルヴィから、胸を上下させ荒い息を吐くミラへと飛んだ。
「ミラ、何してるんだ!? なんで奥様にミルクをかけたんだ!」
サンディの声は厳しかったが、その中に含まれる心配の震えは隠しきれない。ミラが、油を撒いた上に火をつけたことを、彼は理解していた。
ミラは答えない。その視線はデルヴィに、鋭く、挑戦的に固定されていた。
デルヴィが歩き出す。床を叩く靴音の一つ一つが、まるで死の鐘のようだ。その殺気を感じ取り、サンディは飛び起きるとデルヴィとミラの間に立ち、盾のように両腕を広げた。
「奥様、どうかミラには何も。この責任は、代わりに私が――」
言葉は途切れた。デルヴィは止まりさえしない。乱暴な動きでサンディの腕を掴むと、脇へと投げ飛ばした。サンディは床に激しく叩きつけられる。衝撃を受け止めた手首に、鋭い痛みが走った。
パァン!
乾いた平手打ちの音が、ミラの頬に炸裂した。続いて、デルヴィは彼女の顔に唾を吐きかけた。
ペッ!
残忍な力で、少女の頬を鷲掴みにする。痛みで唇が歪んだ。
「このクソガキが! 私はただメリサの胸にミルクを注げと命じただけだろう! なぜ私の服にぶちまけた!」
ミラはただ顔をしかめることしかできず、その瞳に涙が浮かび始めた。デルヴィは顔をさらに近づけ、毒を含んだ囁き声で言った。
「これが何を意味するか、分かっているな? お前は今、私の命令に真っ向から逆らった。……それに、この孤児院の第一のルールについて、ジャミルが話していたことを覚えているか?」
ミラの目が、恐怖に見開かれた。ジャミルの言葉が、数時間前の同じこの部屋で言われた言葉が、耳の奥で蘇る。彼女は、自分を待ち受ける罰が何であるかを知っていた。
『……もし拒否すれば、その罰を受ける覚悟をしろ』と。
その緊張の中、一つの動きがサンディの注意を引いた。打ちのめされた床の上から、彼はメリサがゆっくりと立ち上がるのを見た。裸の胸も、タイルに音もなく滴り落ちるミルクの残りも、一切無視して。
(メリサ姉さんは、何を……?)
その恐ろしいほどに落ち着いた表情を見て、サンディは内心で問うた。
メリサが動いた。パニックではなく、死のような静けさと共に。冷たいタイルの上を、音もなく歩き、サンディの横を通り過ぎる。
彼女はデルヴィの後ろで止まらなかった。嵐の中心へと真っ直ぐ進み、ためらうことなく、デルヴィとミラの間に跪いた。
ミラの頬を掴んでいたデルヴィの力が、わずかに緩む。瞳の怒りは後退し、代わりに新たなドラマへの残忍な好奇心が煌めいた。
メリサは頭を垂れていた。再び静まり返った部屋に、その声ははっきりと、そして凛と響いた。「私のせいです、デルヴィ奥様。」
デルヴィは完全にミラを解放した。新しい玩具に、心を奪われていた。「ほう?」
「私が、この子に反抗するように唆しました。この孤児院のルールは破ってもいいのだと、そう教えたのです。罰するならば、この私を。」
サンディは息を呑んだ。心の中で絶叫する。それは真っ赤な嘘だ。ミラを待ち受ける地獄から救うための、あまりにも無謀な自己犠牲……!
デルヴィの笑みは、ゆっくりと、歪に、そして愉悦に満ちて形作られた。こちらの方が、ずっと面白い。「そうか。その正直さは褒めてやろう、メリサ。」
彼女はサンディとミラに向かって、傲慢に手を振った。「お前たち二人は、出ていけ。」
サンディは凍り付いた。メリサを置いていくことを、ためらった。だが、デルヴィの一瞥――鋭く、無慈悲な――が、彼を立ち上がらせるには十分だった。全身を震わせるミラの腕を引き、部屋の外へと引きずり出す。
扉が、二人の目の前で閉められた。彼らが最後に見たのは、足元に跪くメリサを、支配者のように見下ろすデルヴィの姿だった。
ガチャリ。
内側から鍵が回る音が、最後の引導を渡すかのように、重く、耳障りに響いた。サンディとミラはただ冷たい廊下に立ち、閉ざされた扉の向こうで今しがた起きた犠牲のこだまに、釘付けにされていた。
***
太陽はまだ高く、タウンゼンドの小さな街路を焼き付けている。汗と、香辛料と、性急な足取りが巻き上げる土埃の匂いが空気に満ちていた。
避けきれなかった人々は、大柄な男が人混みをがむしゃらに突き進むのに、よろめいた。
男の息は荒く、こめかみからは汗が滝のように流れている。
「待て、クソガキども! ぶっ飛ばしてやる!」
その叫び声が市場の喧騒を切り裂き、買い物客たちは驚いて、まず男に、そしてその前を走る二つの影に視線を向けた。
ジャミルとハン。二人の肺はますます焼けるように痛み、顎から汗が滴り落ちる。地面を踏みしめるたびに、打ち付けたハンの背中に痺れるような痛みの波が走った。長くはもたないと分かっていたが、止まることは降伏を意味した。
痛みを堪えて走りながら、その目は野性的にあらゆる道の角、あらゆる商品の山をスキャンし、活路を探していた。
「ハン」ジャミルが、荒い息で途切れ途切れに呼びかけた。「交差点……前だ。おれたち……どこへ?」
その問いが、ハンを覚醒させた。残りの力を振り絞り、走る速度を上げてジャミルの隣に並ぶ。
「ジャミル、奴から逃れるための策がある。」
ジャミルは答えなかった。話すには疲れすぎていた。ただハンに視線を送り、荒い呼吸の合間に二人の視線が一瞬だけ交錯する。それで十分だった。
「お前は、アレリオン孤児院の子供としてのお前の役目を果たせ」ハンは、一言一言を絞り出すように続けた。「ここの住民は、困っている子供たちを愛し、守ろうとする。助けを呼べ――このクズは、俺が引き受ける。」
最後の言葉が発せられると同時に、ハンは急停止した。両手を膝について身をかがめ、遠ざかっていくジャミルの背中を見つめながら、激しく息を切らしていた。
ジャミルは走り続ける。だが、ハンにはその肩が強張るのが見えた。託された信頼が、重荷のようにのしかかっている。一瞬、ジャミルは固く目を閉じ、眉間に鋭い皺を刻んだ――もはや隠しきれない苦悶の仮面。やがて彼は、無理やり前方に意識を戻すと、さらに速度を上げた。