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第1話偽りの楽園

アレリオン孤児院は、陰鬱な建物ではなかった。

むしろ、完璧に手入れされた広大な草原の真ん中に、優雅に佇むヨーロッパ風の壮麗な洋館である。

その真っ白な壁は陽光を浴びて輝き、大きく均整の取れた窓々は、まるで常に優しく微笑みかけているかのようだ。

美しい森に囲まれ、それが突破不可能な天然の壁として機能しているこの建物は、まさに孤立した楽園そのものだった。


だが、その壮麗さは彼らの『家』だけのものだ。

長くて無機質なガラスの廊下で繋がれた先には、個性のない角張った建築の学校が建っている。

クリーム色の近代的なその建物は、まるで異物のように感じられた。細い時計塔が毎時ちょうどに鐘を鳴らし、住人たちの生活の一秒一秒を支配していた。

子供たちは毎日、『家』の温もりから『仕事場』の無機質さへと歩いていく。


彼らの笑い声は、定められた運命のための育成プロセスの一部だった。

その美しい見せかけの裏で、アレリオンは人間牧場であった。

ここでは、力を持たずに親に捨てられた子供たちが完璧な環境で育てられる。従順で質の高い奴隷となるべく、教育され、形成されるためだけに。


この偽りの楽園のただ中で、イラワン・ジャミルは生きていた。

施設の所有者の息子として、この欺瞞に満ちた宮殿の小さな王子だった。まだ十歳になったばかりだ。

二股に分かれた前髪を持つ、綺麗に整えられた黒髪が、空色の瞳を縁取っている。その瞳は、この楽園の『看守』である両親とは正反対の、物静かで威厳のあるオーラを放っていた。


その朝、手入れの行き届いた芝生の上で、七人の少年たちの笑い声が荘厳な静寂を破った。ジャミルは、他の六人の孤児たちと共に、革のボールを蹴っていた。

彼らの幸福は心からのものに見えた。自分たちの笑い声や遊びの一つ一つが、定められた運命への育成プロセスの一部であるとは知る由もない子供たちの、牧歌的な光景だった。


「ジャミル兄様! お母様がお呼びです。」


八歳ほどの小さな少女が、玄関先から叫んだ。使用人の娘であるミラ・マイストピアだ。愛らしくポニーテールに結われた白い髪と対照的に、大きなルビー色の瞳が輝いている。もう一つの対照は、彼女が身に着けているミニチュア版のメイド服――母親と全く同じ服だった。


ミラの叫び声は、ジャミルが相手のゴールにボールを蹴り込もうとした、まさにその瞬間を止めた。

遊びは即座に中断される。他の子供たちも静かになり、その視線は一斉に、まだ戸口に立つミラへと注がれた。


「ごめん、みんな。僕は先に戻るね。」

穏やかに微笑みながら、ジャミルは手を上げて友人たちに振った。彼が背を向けた時、赤毛の少年から不満そうな小さな声が漏れた。遊びが終わってしまうことへの落胆が、その口元に滲んでいる。


ジャミルがミラの前に着くと、少女はすぐに深く頭を下げ、小さな主への敬意を示すように両手を体の前で組んだ。

「お母様のもとへ、私めがご案内いたします。」


「ありがとう、ミラ。でも、その前に……顔を上げて。」

その落ち着いた声に、ミラははっと顔を上げた。やがて、二人は施設の中へと入っていく。


気まずい沈黙が、廊下を進む二人の足取りを包み込む。磨き上げられた床に、靴音だけが響いていた。その静寂を最初に破ったのは、ジャミルの予期せぬ頼みだった。


「ミラ。お母様の部屋に着いたら、僕のそばを離れないでくれ。一緒に中にいてほしい。」


彼の後ろを歩いていたミラは、途端に俯いた。ジャミルの背中に向けられていた視線が、床へと落ちる。

「で、でも……」


ジャミルの足が不意に止まったため、不意を突かれたミラは彼の背中にぶつかってしまった。ジャミルがゆっくりと振り返る。向かい合うと、彼の両手がそっと伸びて、ミラの小さな肩を掴んだ。その感触に、俯いていたミラは驚いて顔を上げる。視線が交差した。朱がミラの頬を走り、彼女は慌てて顔をそむけた。

「でも、なんてない。」

ジャミルには、かろうじて聞こえるミラの呟きが耳に入った。

「君に、そばにいてほしいんだ。」


ミラの顔がますます赤くなるのに気づき、ジャミルは慌てて手を離し、一歩後ずさった。

「あ……わ、悪い! な、何か、おかしなことを言っていたら、わ、忘れてくれ。」


その時、廊下の角から、穏やかな咳払いと近づいてくる足音が聞こえ、二人は同時にそちらを向いた。

「コホン!」


そこにいたのは、ミラの母親であるユンだった。髪の色から瞳の光まで、娘と驚くほどよく似ている。

「ジャミル様。このような場所で何を? お母様がお呼びのはずでは?」

ジャミルに問いかけた後、ユンの鋭い視線がミラへと移る。少女の顔にあった赤みは瞬時に消え去り、血の気を失った青白さに変わった。彼女は深く、深く頭を下げる。

「ミラ……あなた、どうして――」


「彼女を責めないでくれ、ユン。ミラは何も悪くない。自分の役目をきちんと果たしてくれた。」

ユンの言葉がミラへの詰問に変わる前に、ジャミルはそれを遮った。若き主からの庇護の言葉を聞き、ユンは即座に身を屈め、両手を組んだ。


「もしあの子がほんの些細な過ちでも犯しましたら、私にお知らせください、ジャミル様。」

ユンに顔を上げるよう促すことなく、ジャミルは静かだが、しかし断固とした声で尋ねた。

「もし彼女が過ちを犯したら、君はどうするつもりだ?」

ユンは同じ姿勢のままだ。

「この私めが、厳罰に処します、ジャミル様。」

施設の規則に絶対服従する者として、ユンは娘が『大旦那様』を失望させるような、どんな小さな過ちも犯してほしくなかった。


ジャミルはユンに歩み寄った。彼の背後で、ミラが凍り付いている。母親が口にした『罰』という言葉が、背筋に冷たい震えを走らせ、痛みの記憶を蘇らせた。

(……いや……)

記憶は、彼女がまだ三歳の頃に引き戻される。

大切な客の服に、盆の飲み物をこぼしてしまったのが引き金だった。彼女は施設裏の古い倉庫に引きずり込まれ、背中が血に染まり、永遠に残る傷跡ができるまで鞭打たれた。

それだけではない。飲まず食わずのまま数日間鎖に繋がれ、偶然遊びに来たジャミルが衰弱しきった彼女を見つけるまで、放置されたのだ。


ジャミルはユンの真正面で足を止め、その冷たい視線が、まだ頭を下げている女の背中を突き刺した。爆発しそうな怒りを抑え、彼の顎が硬く食いしばられる。


「もし、あの子を昔のように罰してみろ。僕がお前を、許さない!」


ジャミルの言葉は、落雷のようにミラを撃ち抜いた。全身の肌が粟立つ。履き古した自分の靴に縫い付けられていた視線が上がり、大きく見開かれた瞳で、若き主の背中を見つめた。

(……守って、くれてる……?)

信じられない、という感情が胸に込み上げる。最下層の子供である自分が、王子様のような人に守られている。一方、ユンは何も言い返せず、ただ黙り込むしかなかった。俯いたその顔には、隠しきれない悔しさが刻まれている。


「顔を上げて、仕事に戻れ。」

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