タイトル未定2025/06/20 00:04
1・7・2016
あの寒く雪降りしきる十一月の朝、世界は一変した。北海岸の島都市がクラカノールによって壊滅させられた――それは宣戦布告の狼煙だった。漠然とした恐怖が人々を支配し、やがて徴兵令が発布されると、抗う余地はなくなった。僕自身、まだ召集令状は手にしていなかったが、遅かれ早かれやってくることは分かっていた。残る時間は、待つだけだった。
仕事の前に時間を潰そうと街を歩き、いつもの古びた教会へと足を踏み入れた。かつて牧師から預かった鍵を手に、静かな聖堂の奥にあるラウンジへ。ぽつんと置かれたテレビには、子どもの頃に見た古いアニメが映っていて、懐かしさが胸を温める。だが、あの穏やかなひとときは長くは続かなかった。呼び出しを告げる電話が鳴り、ついに僕の出撃命令が届いたのだ。
急ぎ職場へ戻ると、上官は「明朝、ヘリで迎えに行く」と告げ、日給はそのままに休暇を与えてくれた。だが興奮と緊張で、雪深い夜はまるで眠れなかった。
夜明けを待ちきれず屋上へ上がると、まもなく一機のヘリコプターが降り立った。僕を含む十名が機内に乗り込む。その中に、鋭い瞳をした少女──チームの戦術観測官、ゼスカがいた。彼女の双眼鏡越しの視界が、敵の動きを逐一僕らに教えてくれるのだ。機体が離陸し街を抜けるやいなや、ゼスカは操縦席の横に備え付けられた高精度ライフルを展開し、赤いボタンを一押し。上空を偵察中だったクラカノールの小型ドローンが、一瞬で粉砕された。冷静なその一撃に僕は深く感謝を告げ、彼女は小さく微笑んでくれた――これから長い時間を共にすると直感した瞬間だった。
基地に着くと、八週間にわたる地獄のような訓練が待っていた。僕とゼスカ、そして三人の仲間──五名の小隊は、夜ごとに隣り合う寮室で寝食を共にし、武器やメカ操作の基礎から実戦演習までを叩き込まれた。訓練の合間には互いの過去や夢を語り合い、時には拳を合わせて励まし合った。
ある真夜中、僕が目を覚ますと、ゼスカが窓辺に立ち、月明かりに照らされて静かに涙を流していた。どうしたのかと問えば、彼女は震える声で両親がクラカノールに殺された日のことを語り始めた。言葉を詰まらせながらも、痛ましい記憶を吐き出すその背中を、僕はそっとソファへと導き、寄り添った。やがて彼女の涙は止まり、二人してそのまままどろみの中へ沈んでいった。
翌朝は手作りの干し肉が朝食に並び、訓練食の不味さからは程遠い贅沢に小隊中が笑顔を見せた。二時間後、僕らはSKORNと呼ばれる二人乗りメカに搭乗し、無人となった農地へと空輸された。ミッションは前線を突破したクラカノール残党の掃討だ。
初日のうちは、味気ないレーションを齧りながら、襲来に備えて機体の整備と射撃演習を繰り返す。二日目には少しだけ改良された食糧が支給され、不平の声は消えた。午後、ゼスカから射撃練習の誘いを受け、僕は二つ返事で応じた。だが、うとうとしていた他の隊員たちを驚かせてしまい、軽く叱られて一旦中断。それでも笑い合いながら「また今度」と約束した。
帰還後は再び教会のラウンジでアニメ鑑賞。あの懐かしさに包まれ、僕らは並んで眠りについた。いつの間にか、僕の胸はゼスカへの想いでいっぱいになっていた。
三時の警報が、静寂を引き裂く。南のテラスに敵兵の影を捉えたとの報告だ。僕とゼスカはSKORNに飛び乗り、射撃ポジションへと移動する。ライフルの一撃が二、三の敵を同時に倒し、その手応えに鼓動が早まる。人を殺める重さは胸にずしりと響くが、彼女の視線は鋼のごとく揺るがない。僕は改めて誓った――どんな嵐の中でも、ゼスカを守り抜くと。