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1. 暫定首席掲示 - 焦燥の朝

 春の柔らかな陽光が学院の廊下を照らす朝、灯花は急ぎ足で中央掲示板へと向かっていた。その足取りには期待と不安が入り混じっていた。今日は冬学期の暫定首席発表の日だ。彼女が積み重ねてきた努力の成果が、ついに形となる瞬間。


 「頑張ってきたわ。きっと……」


 基礎から学び直し、父の「魂の共鳴」を習得するまでの道のりを思い返す。確かな手応えがあった。掲示板に到着すると、すでに天音が待っていた。


 「天音、おはよう」


 「灯花、おはよう。結果、見た?」


 灯花は首を振り、二人で掲示板に目を向けた。そこには大きな文字で順位が記されていた。


 1位・天音、2位・霧島遼、3位・春宮灯花。


 「天音、おめでとう!」灯花は笑顔で親友を抱きしめた。しかしその手はかすかに震え、喉の奥に苦いものが込み上げてくる。胃がキリキリと痛み、目の奥が熱くなる。これほど努力したのに、まだ首席になれない。しかも霧島にも届かず、3位。


 「ありがとう……」天音は少し困惑したように灯花を見た。「でも正直、私より灯花の方が成長してると思ってたわ。あなたがこんなに練習してるのを知ってるから」


 「そんなことないわ。天音の実力は本物よ」


 灯花はそう言いながらも、肩がズシリと重くなり、膝から力が抜けそうになるのを必死にこらえた。


 教室へ向かう途中、彼女は廊下の窓に映る自分の姿を見つめた。疲れた表情の少女が映っている。努力の痕跡は心身に刻まれていた。ふと、その映り込みが悲しげに首を横に振ったように見え、灯花は驚いて瞬きをした。


 「気のせいね……」


 窓から中庭を見下ろすと、霧島が貴族の学生たちと話していた。彼の表情は硬く、どうやら2位という結果に不満を感じているようだった。


 「霧島も納得していないのね」


 彼と視線が合った瞬間、灯花の心に「評価されたい」「力を証明したい」という衝動が芽生え始めた。これまでの「皆を守りたい」という思いとは少し違う、自分の価値を示したいという欲求だった。


 教室の扉に着くと、ガラスに映る自分を見た。そこには通常の自分とは違う、より悲しげに、より渇望に満ちた目をした灯花の姿が映っているような気がした。しかし扉を開けた途端、その幻影は消えた。


 教室に入ると、クラスメイトたちが成績発表について話していた。天音は周囲から祝福され、照れくさそうに笑っている。霧島は窓際の席で一人黙々と本を読んでいた。灯花は自分の席に着き、父の魔法書を広げた。


 「もっと力が必要」


 彼女はそう思いながら、魔法書の「魔法の本質的解放」の章を再読した。そこには「真の限界を超えるためには、自らの魂を解放する必要がある」と書かれていた。


 「解放……」


 授業が始まり、灯花は表面上は講義に集中しているように見せていたが、心の中では自分の立場を見つめ直していた。3位は決して悪くない。むしろ平民出身者としては驚異的な成績だった。それでも彼女の中には満たされない何かがあった。


 「自分の存在価値を示すには、もっと目に見える結果が必要」


 その思いは次第に強くなり、胸の奥で何かが黒く渦巻き始める。窓から差し込む春の光の中で、灯花の指先が魔法書のページをゆっくりとめくっていく。指の動きは機械的で、まるで何かに取り憑かれたようだった。「限界を超える」という言葉が、彼女の脳裏に焼き付いて離れない。

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