8話 処理する書類が多すぎる!
ギルド経営は大変だ。その事は言うまでもなく分かっていたはず。しかし…カウンターの奥にある僕のデスクの目の前には書類の山が400枚くらい積まれている。
「何でこんなに書類が溜まっているのかなぁ?!」
「これでも内容は絞りましたけどね」
隣に控える受付嬢のエレーナさんがそう答える。
「何で1ヶ月も前の書類が白紙で積んであるのさ!賞味期限って知ってる?この手の書類は早く出さないと後々大変なことになるんだよ!?今まで書類仕事してたの誰さ!」
「そ、それは…」
エレーナさんが苦笑いをしながら目線をそらす。
「あのね。レンちゃん…今まで面接して来て気づいたと思うけどね」
ギルド酒場の椅子にドカっと座ったサラがこちらを見ながら言う。
「このギルドにその作業ができる人がいると思う?」
「だよね~。うちなんてもう四則計算すら怪しいしww」
「マジでバカなうち等に書類作業なんて…早く探索に行きたいよ~」
サラと親しい女冒険者たちも共にジュースを飲みながらそう語らう。笑い事ではない何でさっき来たばかりの僕が重労働で、あちらはのんびり談笑なのだ。カウンターを隔ててこの温度差は…
「見なよ。アーロンのオッサンなんてイビキかいて熟睡してるよ」
「ホントに信じらんない。強いから許してるけどさぁ…」
「大体ウチなんてレンちゃん入れて20人しかいない小ギルド支部だよ?」
書類の枚数を数えると丁度400枚だ。と言うか小ギルド支部なら書類の数も少ないだろうにここまで溜まるとは…僕はとうとう頭に来た。
僕は手元にあるベルを鳴らす。すると今いるギルド全体に集合がかかる仕組みになっているらしいとエレーナさんから教えてもらった。
途端、アーロンが重い眼を開く。
「マスターよ。仕事か?成功報酬は弾んでくれよ?」
そう言って腰を上げる。
「え?依頼招集?そんな様には見えなかったけど」
「知らないよ。でもレンちゃんが呼ぶんだから何かあるよね?」
「レンの旦那!何か御用ですか?」
「せっかく剣を鍛えたんだ。依頼は…」
ジョージとマリアもやって来る。
「うん。緊急の依頼だよ?」
そう言って僕は軍団に依頼を出した。
「この溜まった書類を処理してね」
ドン!と書類を置く。
「あれ?敵は?まさかこの書類なのか?」
アーロンは目を開いて言う。
「うんそうだよ?だってこの書類の山が片付かないと何も仕事できないもん。何?別にアーロン一人で400枚処理しようなんて夢にも考えてないからね?全員で分担すれば早く終わるよ!」
「え~メンド…」
「いいよね?」
「は、はい…」
僕は笑顔と言う名の圧で一同に微笑みかけ従えた。僕のヘンテコステータスの中で「威圧感」と「統率力」もMAXだったんだね…
「ねぇサラ…この字何て読むん?」
「こう言うときは『大賢者の本』!ってどこにあるんだっけ?」
「向こうの共用本棚に刺さってるよ」
「ありがと~!」
皆は黙々と作業を始めた。やっとこれで僕の仕事も楽になる…僕はそう安心しながら書類を爆速で埋めて行った。
まぁ念のため後で仕上がった書類を見るとあまりにも間違いが多すぎて3分の1くらい直す羽目になり、二度手間だということに気づかされたけど…
やっぱり書類作業は自分でやるしかないようだ。