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1話 戦闘力史上最弱の主人公

 ここは冒険者ギルドの酒場。僕、ギルド所属のレンはここのテーブルでジュースを飲んでいた。

「今帝都周辺を騒がせる盗賊団……困ったことになったなぁ……」

 僕はさっきまで向こうのテーブルに座っていた女から手配の相談を受けていた。どうしよう見つからないし僕は弱いし……

 僕がそう考えこんでいると突然扉が開く。

「ここが帝都の冒険者ギルドか?俺の名はヴァン!世界最強の冒険者だ!」

 うわぁ何か来たよ……ヤバそうな人。

「どうだ、俺様が世界最強と聞いてびびったか!」

 いやいや別にビビってなんかないんだからね!

 ヴァンは僕の前に立ちふさがる。大人と子供の身長差だ。周囲からの鋭い視線が痛い。

「ああん?!とっとと退けよチビ」

 そう言ってヴァンが僕の肩をどかそうとする前に隣に座っていた大男がヴァンの肩を抱く。

「よぉ血気盛んな兄ちゃん。俺様はこのギルドで11番目に強いジョージだ」

「何だと、てめぇ!これからはこのギルドのナンバー1は俺なんだよ!」

「ハッハッハ!そりゃねぇな!このギルドにはとんでもねぇ怪物達がいるんだぜ?田舎もんじゃ勝てねぇって」

 ジョージはそう言って笑う。まぁ確かにそうだけど。このギルドには僕なんか霞んで見えるほどの怪物が両手に余るぐらい居る。

「例えば大鬼の狂戦士アーロン。エルフの姫騎士マリア……枚挙にいとまがねぇな」

「な…………なんだと。そんな伝説の連中が居んのかよ……」

 ヴァンは驚いてる……まぁそうだよ。だってそんな怪物だらけなんて僕でも驚くもの。今は皆あちこち出かけていて揃うことは少ないけどね。

「まぁ皆今出かけてんだけどな。後で会ってみると良いぜ」

 ジョージはそう言って肩を動かす。ヴァンはオロオロして

「ほ…………本当かよ…………」

「まぁ一番凄ぇのはそれらを束ねるマスターなんだけど……ってえ?ヴァンの野郎どこ行きやがった!受付嬢ちゃんよ見んかったか?」

「いえ私は見てません。あれは消失魔法の類ですね……トイレにでも行きたかったんじゃないですか?」

「ったく…………あんだけ騒ぎだけ起こして消えちまうんだからよ」

 あれどう考えてもトイレ行きたかったわけじゃないよね。トイレなら駆け込まなくてもこの建物にだってあるしさ。

「あ!ごめんね~レンちゃん♪」

 代わりに現れたのは金髪女子冒険者だ。さっきまで向かいの椅子に座っていた女の子。

「あ!サラさん!こんにちは」

 彼女はサラ・シーク。こんな服装だが冒険者だ。このギルドのムードメーカーでもある。

「いやさっきまでヴァンとか言う新米の冒険者が来ててさ……僕を無理やりどかした上に威張り散らしてたんだよ」

「は?レンちゃんを無理やりどかした?何ソイツ殺して良い?良いよねレンちゃん?」

 サラは…………若干キレてる。僕は慌てて止める。

「だ、ダメダメ!皆仲良く!」

「はぁ…………レンちゃんは優しいね~。まぁいいやそれでジョージのおっさんが止めたわけだね?」

 彼女はそう言ってジョージの方を見据える。

「あぁそうだな。サラの嬢ちゃんよ。でないと色々うるせぇだろ?」

「そうだね~特にあいつ等なんかは……」

 サラはそう考えてから僕の方に向き直った。

「それじゃ手配書の方確認していきましょー」

 そう言って手配書をペラペラとめくっていく。ジョージと数人の冒険者ものぞき込んだ。

「うっわ想像通り悪そうな顔~こんなのが帝都に来たん?」

「まぁ僕なんか襲われたらひとたまりもないし……」

「大丈夫だよ。きっとレンちゃんは襲われないよ。この帝都にいるなら皆知ってるってば」

 サラはそう言って笑ってくる。

「そうかな~」

 僕がそう不安そうに答えているととある手配書で手が止まった。

「これは……」


 帝都の端の路地裏。そこにヴァンはいた。手には先ほどギルドで取って来た帝都の簡略図があった。

「しかしまぁやべぇギルドだったな……化物がゴロゴロいやがるぜ」

「そうか……まぁお前が冒険者としての視点でそう見るんならそうなんだろうな」

「あぁ……だがあのガキは別だったな。何かギルドで飲み食いしてたが簡単に退かせたよ!ガハハ!」

 ヴァンはそう仲間に向かって高笑いを上げる。

「でだどうするよ。この帝都での大暴れはよ。地図は持ってきたんだろ?」

「まぁ変なおっさんに絡まれた以外はな。さすが帝都というだけあって建物も複雑だし貴族連中の屋敷は堅牢だ。すぐに行くのは面倒だろうな。こういう時は現地人の助けを借りるもんだが……」

「ガハハそんな都合がいい奴が居る訳……」

 ヴァンは冒険者ではない、その正体は残虐極まりない盗賊であった。先ほどまで周辺を荒らしまわりそして遂に帝都に食指を伸ばしてきた。

 ヴァンの視点は路地に居た少年で止まった。青い髪をしていて背は明らかに低い。それなのに冒険者ギルドに居たとんでもないもの好きだ。


 一瞬だった。僕は一瞬で路地裏に引きずりこまれた。引きずり込んだ主はヴァンだ……

「ヴァン?!一体何でこんなことを。うっ!」

 僕の小さな口がふさがれる。

「黙れクソチビ。テメェなんか怖くねぇんだよ!街の抜け穴を教えろ」

 僕は力がめっぽう弱いから抵抗できない。あまりにも力が強すぎる。

「ぐはぁ!」

「雑魚が!こんなのでも冒険者を名乗れるってことは案外冒険者のレベルが低いんじゃねぇのか。あのデカブツもどうせ弱いだろ?」

 その瞬間、僕の中で何かが切れた。

「仲間を……バカにするな~!」

 僕が叫ぶがその度、別の仲間に蹴られる。

「お前弱いんだよ。よくこんなんでギルドに居られたもんだ」

 そうだ……僕は弱い……剣術もできないし魔法もあまり使えない。身体能力は常人以下だ……

「でも僕だってギルドの一員なんだ」

「何を……」

 ヴァンが僕のお腹にトドメの蹴りを入れようとしたとき……

「ウチのレンちゃんに何してんの?」

 サラさんが現れた。目にハイライトが入っていない。

「何だァ?お前はよぉ!」

「何ってギルド所属の冒険者だけど?依頼で向こうのレンちゃん助けに来ました~」

 サラは可愛く敬礼する。

「舐めんなメスが!」

 ヴァンの刃がサラに届くが彼女は短刀で受け止める。

「ふ~ん。この程度なんだね~」

 サラは嘲笑して、背後に回り込み短刀で背中を刺した。

「ぐはぁ!」

「いっとくけどウチ強いよ?逃げるなんて選択しないでよね」

「なめんなよ?お前どの立場から話してやがんだ。バカそうな見た目だが流石に数ってものが見えねぇわけじゃあるまい。てめぇら出番だぞ!」

 ヴァンが叫ぶとゾロゾロと盗賊がやって来て僕たちを囲い込む。

「お前ひとりで?この数を?そこのガキを抱えたまま?どうやって処理しようってんですかねぇ?」

 ヴァンが嘲笑するがサラの口は止まらない。

「あ~バカらし……アンタらさぁ……」

 サラは衝撃の事実を伝える。

「一体いつから。レンちゃん助けに来たギルドメンバーがウチだけだと思ったん?」

「はぁっ!」

「おりゃぁ!」

 一瞬で盗賊団は華麗に吹き飛ばされた。

「何だよお前等!って何でお前らが……」

 現れたのは二人だった。一人は白く美しい長髪に露出の多い服を着たエルフだった。もう一人は2メートルはあろうかという巨躯に赤い肌。そして太くたくましい腕には巨大な金棒が握られている……

「テメェらが帝都を荒らしまわってくれた盗賊団かァ……おいマリア姐さんよこいつらどうする?」

「よくもレンを虐めたわね……アーロン!とっととぶっ倒すわよ!」

「は?アーロンとマリア……う、嘘だろ‥‥何で伝説のエルフの剣士も大鬼の戦士も来んだよ。このガキの為だけに……」

「何ってそりゃ来るでしょう。自分の上司の命令なんですから」

「あぁそうだな!ギルドマスターの命令だかんな!仕方ねえな!」

「は?ギルドマスター?」

 驚くヴァンに僕が優しく告げる。

「マリア、アーロンそしてサラ……良く来てくれたね」


 そう……僕はギルドマスター決して強くはないし何なら冒険者にも負けるくらい。でも僕にはいくらでも仲間がいる。怪物揃いのギルドメンバーが僕の周囲にはいる。

「ヴァン……僕は弱いよ。戦闘力だけはね」

「レンちゃんは戦闘力以外知力、洞察力、統率力等々全てのステータスがカンスト。幼くしてギルドを束ねるアンタ等なんかじゃ足元にも及ばないとんでもないカリスマ様なんだよ?」

 サラはそう言ってもう一度短刀を構える。

「は?」

「そんでうち等の可愛いトップ傷つけた代償はデカいかんね?」

「ちょ、ちょ待ってこのクラスがまだゴロゴロいんのか……」

「いるよ?だってこれでもまだ氷山の一角なんだもんね。ウチ層厚いからさ」

「ちょ待て財宝ならいくらでも分けてやるから……」

「財宝?高潔なエルフがそんな俗物に興味を示すとでも?」

「財宝なんていらねぇよ!てめぇらの首とれりゃそれでよ」

「じゃぁね~♪」

 そしてヴァンの叫びもむなしく一方的な蹂躙により盗賊団はオーバーキルされてしまった。


 遅れて来たジョージが走って近づいて来る。

「レンの旦那!お怪我はないですかい?」

「う、うん……一応急所は避けてる。単純に運が良かったよ」

「嘘仰い。アンタは幸運値もカンストでしょうがよ」

「それ言われちゃうと……」

 するとマリアが近づいてきた。

「大丈夫か?マスター」

「うん、マリア……そんなに強く抱き着かないで」

「そうだぜ。ただでさえ姐さんの異名はメスゴリラなんだから」

「何か言ったかアーロン?」

「い、いや何でもないっす……」

 マリアににらまれてアーロンは口籠る。

「ハハハ、それよりどうするレンちゃん。思いっきり敵倒しちゃったけどさ」

「これは後で事後処理が大変だねサラ……」

 僕はこれからの処理に頭を抱えながらジョージの背中におぶさったのだった。

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