運命1
怪盗と鉢合わせしちまった少年のお話どえっす!!!!
「きみは誰?」
「・・・へぁ!?」
「ここには、何もないよ」
「は、はぁ?何言ってるの?こんな立派なお屋敷に何もないわけ、」
「本当だよ。ここには、何もない」
きみと出逢ったあの日。
僕の運命は、動き出した――。
【運命1】
「嘘を言わないで!ここには貴重な品があるって情報が出回っているのよ!」
「その貴重な品っていうのは、これのこと?」
音を立てたのは、足元に転がっているきらきらと輝く石達。
その横には、積み重ねられた分厚い本の山。
どれも僕の意思とは関係なく集められたガラクタにすぎないものばかりだ。
「・・・怖くないの?」
僕の足元を見つめていた彼女が静かに呟く。
その言葉をよく理解できずに首を傾げていると、痺れをきらしたように隠し持っていたナイフをこちらへと示した。
僕は驚かなかった。
窓から差し込む小さな光が彼女の姿を見え隠れさせて、行動とは裏腹に幼く映し出したからだ。
風が吹く。
表情はよく見えない。
ただ、絹のように細く、長い髪が揺らいでいる。
「普通、知らない人が突然侵入してきたらそう思うでしょ」
――普通。
いつ、何処にでもあるような、ありふれたもの。
「普通がどういうことなのか、僕にはわからないから」
紙の中の世界では、至極当然のように描かれていた。
僕を囲う牢獄の中には、ひとかけらも存在しないもの。
「ねえ。ちいさな怪盗ちゃん」
押し黙ってしまった彼女へと一歩近づき、懇願をするように見上げると、ふいに月明かりに照らされた表情が浮かび上がる。
狼狽える瞳が光を宿した瞬間、静かに燻っていた僕の願いは、輝きだした。
「僕を盗んでよ」