憲兵団員レオネ
帝国暦845年、かつて魔王と呼ばれる存在が現れた。最初に現れたときは、ほぼ全ての国々が力を合わせ多くの犠牲を払い討伐したという。しかし、魔王出現という事実が緩々と確実に世界に混沌を齎し始めた。そして、2回目の魔王が現れた時、奇跡が起きた。
ーー突如、普段は輸出入に使う転移用魔法陣が燦々と輝きだし、私たちの基準で行くと変わった服装の人物が現れたのだった。これが当時の人々と『勇者』のファーストコンタクトだった。
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私はレナダ村の憲兵団で働いている、といっても大半が剣の修行だ。元帝都騎士団の団長だったらしいエクメアから剣の指導を受けている。エクメア殿は私に剣のいろはを教えてくれた剣の師匠になる。
「ありがとうございました!」
今日の修行を終え指導してくれたエクメア殿に感謝を告げ、彼は頷いて応える。そして私は修行を行っていた広場を後にした。
ある日、憲兵団の詰所に出勤するとエクメア殿と見知らぬ男性が親しげに話している様子だった。
「エクメア殿、そちらの方は?」
私がたずねると彼は答えた。
「あぁ、君が彼と会うのは初めてか 彼は...」
聞くところによると彼はかつての部下で現帝都騎士団長なのだとか。
現帝都騎士団長は、私を一瞥し、少し微笑んだ後、穏やかな口調で言った。
「君か、噂は聞いているよ。初めまして彼の言った通り私は帝都騎士団で団長をさせてもらってるアイオワだ。エクメアから何度か話を聞いたが、彼も君の腕前を大いに買っている。もしよかったら、一度帝都騎士団に来てみないか?新しい風を迎えるには、まさに君のような者が必要なんだ」
「お誘いいただけるのはうれしいのですがまだ少し考えさせていただけないでしょうか」
「いいよ。何も結論を急ぐ必要はないからね」
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その夜、私は彼に言われたことをで葛藤していた。すると、ドアのほうからノックの音が鳴り響く。私は突然の来訪者に驚きつつも、ドアを開ける。すると、そこには見慣れた村の人々が集まっていた。長老のエルバ、近所の鍛冶屋のガルム、さらには同じ憲兵団の仲間たちまでもが勢ぞろいしていた。驚きのあまり声が出ない私に、長老が温かい笑みを浮かべて言った。
「レオネ、もう聞いたんだろう?帝都からのお誘いを」
「え、どうして…」
「みんな知ってるさ。エクメア殿が君を鍛えたのは、ただ村の憲兵としてではなく、もっと大きな使命があると見込んだからだ。君はその力を持っている」
ガルムが鍛えた腕を見せながら陽気に笑った。
「でも、私がいなくなったら村の守りは…」
「バカ言え!君がどれだけ私たちを守ってきてくれたか、知っているんだぞ。君の働きで、この村は今まで平和でいられたんだ。それに、私たちはもう君に返す恩なんて残ってないさ」
エルバが静かに、しかし確信を持って言葉を続けた。
「君はもっと強くなれる。ここじゃなく、もっと大きな世界で。だから帝都に行っておいで。君ならきっと、どこへ行っても通用するさ」
村のみんなが一斉に頷き、温かい目で私を見つめてくる。その視線に包まれ、私の心に葛藤していた迷いが少しずつ消えていくのを感じた。
「みんな…ありがとう」
涙をこらえながら、私は頷いた。そして、決意を新たにした。