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アクイレギアの楽園  作者: エノキスルメ
第一章 帝国の崩壊、動乱の始まり
46/73

第44話 会談③(帝国東部地図掲載)

挿絵(By みてみん)


物語の中心となるロベリア帝国東部の、より詳細な地図です。

各貴族領の境界線は大まかなものです。おおよその配置の参考資料としてご活用ください。


青字の貴族領はノルデンシア公爵家の一派、赤字の貴族領3つは手を組んだ連合です。

数字はおよその人口(万人)です。帝国東部全体で約300万の人口があります。

「両家の友好関係が成立したことで、我らにとって共通かつ最大の敵も定まる」

「ノルデンシア公爵家ですね」

「そうだ。かの家は周辺の貴族領の多くを以前から傘下に収めている。今後はさらに勢力を広げていくことだろう。共に南へ勢力を広げていく我々とは、いずれ必ず激突する。我がルーデンベルク家も大家ではあるが、ノルデンシア公爵家の一派はそれ以上の力を誇る。かの家との共存は見込めない以上、我々は協力して立ち向かうべきだろう」


 帝国東部の南西地域にはノルデンシア公爵家の影響下にある貴族領が多く、その北側には百以上の小貴族領が並ぶ地域がある。フルーネフェルト家もルーデンベルク家も、南に勢力を広げながら国として必要十分な領土と人口を確保するのであれば、それらの小貴族領群を全て手中に収めた上で、さらにノルデンシア公爵家の勢力圏までを切り取る必要がある。

 逆に言えば、ノルデンシア公爵家もこちらの勢力圏まで進出しようとする。公爵家の一派は現時点で帝国東部の人口の五分の一ほどを占め、この先どこまで肥大しようとするか分かったものではない。公爵家とこちらの二家、存続するのはどちらか一方のみになると覚悟すべき。


 四十万の人口を抱える上に、圧倒的な経済力を誇る公爵家の常備兵力は、領軍と傭兵を合わせて四千を超えるとも言われている。傘下の領主貴族たちの手勢も合わせればさらに数千が増える。その全てを一度の戦いに動員できるわけではないとはいえ、常備兵力だけでそれだけの大軍を抱える勢力が、恐ろしい強敵であることは間違いない。

 ノルデンシア公爵家がこれほどの力を持っているからこそ、いざルーデンベルク家と対立することになれば、後ろ盾としてあてになるとヴィルヘルムは考えていた。しかし敵対することが決まった以上、ジルヴィアの言う通り、ルーデンベルク家と力を合わせて戦わなければ勝ち目は薄い。


「こちらとしても同意見です……単に建国の障害になるというだけではありません。我がフルーネフェルト家にとっても、ノルデンシア公爵家は打ち倒すべき宿敵となりました」


 マルセルによる侵攻の背景に、ノルデンシア公爵家の助力があったこと、すなわち公爵家は自分にとって父や兄の仇となったことを、ヴィルヘルムは説明する。


「……なるほどな。では、我らは建国のために共闘するだけでなく、共に因縁深き宿敵を倒すという目的を抱く同志というわけだ」

「はい。必ずやノルデンシア公爵家を打倒し、この地の安寧を得た上で建国を果たしましょう」

「ああ、そうしよう……とはいえ、まずは私も周辺地域を傘下に加え、着実にルーデンベルク家の勢力を拡大しなければならない。貴家に至っては、躍進はまだ始まったばかりだ。ノルデンシア公爵家も、大規模な軍事行動を起こすには時間がかかるであろうし、かの家の敵は我々だけというわけではない。決戦は早くて数年後といったところか」


 ヴィルヘルムとしてもジルヴィアの言葉に異論はなく、首肯で応じる。


 ノルデンシア公爵家も、帝国東部の南西地域の全てを影響下に置いているわけではない。南西地域にも未だ中立を保っている貴族領がある。

 そして公爵家の勢力圏の西には帝国中央部や南部が、東にはガルシア侯爵家やラフマト伯爵家など南東地域の大貴族が、潜在的な敵として存在する。

 以上の状況から、公爵家は直ちに全力をもって北への勢力拡大に臨めるわけではない。


 そして公爵家が北に進撃し、ルーデンベルク家やフルーネフェルト家の勢力圏を脅かそうとしても、大軍を動かすには膨大な準備が要る。

 鉄道も自動車もないこの世界で、軍勢を支える物資を用意するのは容易ではない。先の戦いでマルセルが千の軍勢を比較的速やかに動かせたのは、侵攻先のユトレヒトが膝元のランツから比較的近く、補給拠点となる橋頭堡をあらかじめ確保していたからに他ならない――結果としてその補給は失敗したが。

 ルーデンベルク家や、将来勢力を増したフルーネフェルト家と真っ向から戦うとしたら、ノルデンシア公爵家は万単位の軍勢を北進させることになる。実務的な準備期間だけでも数か月。傘下の貴族たちと政治的な調整を為し、足並みを揃えて動くのであればさらに時間を要する。

 ヴィルヘルムたちとノルデンシア公爵家は、当面は近隣の貴族領を傘下に加えてじわじわと勢力圏を広げ、同時に大戦の準備を少しずつ進め、やがて互いの勢力圏が接した場所で決戦に臨むこととなる。それは近い将来の話ではない。


「それまでは互いに、力をつけることに集中するとしよう……それにしても、不思議なものだ」


 微苦笑を零すジルヴィアに、ヴィルヘルムは小首を傾げる。


「帝国の崩壊と動乱の時代。いずれ確実に来たることは分かっていたが、もっと先の話、場合によっては私が死ぬか隠居した後のことだと思っていた。それが、突如として新たな時代が始まり、私はステファン殿の次男と国作りの計画を話し合っている。未来は読めないな」

「……同感です。数週間前は、こんな運命が待っているとは想像もしていませんでした」


 皮肉と諦念を込めた笑みを浮かべ、ヴィルヘルムは答えた。


・・・・・・


 会談が終わり、使用人の案内でジルヴィアが客室へと引き上げていった後。ヴィルヘルムは補佐役として同席していたエルヴィンとハルカの方を向く。


「……決めたよ。今後も領都はユトレヒトに据える」


 勢力を拡大し、いずれ建国を果たす上で、中心都市をどこに置くか。これまでの領都であるユトレヒトを発展させていくのか、あるいはランツなど、より人口が多い都市に拠点を移すのか。ヴィルヘルムは前者を有力な選択肢としながら、最終的な決断については保留していた。

 そして、ルーデンベルク家との友好関係が成立した今、前者にすると明確に決めた。

 ユトレヒトはフルーネフェルト家の古くからの膝元であり、住民の有力者たち――商人も職人も地主たちも、皆に信用を置ける。

 今後は軍人やその家族を移住させ、商人や職人の移住も促し、市域を広げて農地も増やす。都市開発に伴って従来からの有力者たちをさらに富ませ、力をつけさせる。そうすることで、フルーネフェルト家を守る軍人たちと、フルーネフェルト家に好意的な富裕層、その下で経済的利益を享受する住民たちの暮らす首都として発展させる。


 帝国東部の北西地域、やや奥まった地点にあるユトレヒトは、いざというときに守りやすい。それでいて、東に何日か進めばルーデンベルク侯爵領の領都――将来的なルーデンベルク王国の王都にたどり着く上に、今後勢力を拡大すれば近い位置にいくつかの鉱山を抱えることもできるため、外交や経済の観点から見ても決して悪い立地ではない。

 ユトレヒト周辺には平原が広がり、都市を拡大するための土地には困らない。近隣に点在する森を伐採すれば木材も確保できる。石材は白龍山脈からいくらでも供給できる。都市の水源としてこれまでも利用されてきた川は、ユトレヒトの人口が数万まで増えても商工業や生活を支えてくれる程度の規模がある。

 元の人口が少ないため、発展まではある程度の時間がかかるが、一方で都市開発の経済効果もそれだけ大きくなる。元手となる資金は当面困らない額が手元にある。


 何より、ユトレヒトは今世のほとんどの時間を過ごし、今は亡き家族が眠る地。これまでの自分の生きがいであり、今後も重要な施設となるフルーネフェルト劇場もある。フルーネフェルト家の拠点として選ぶに足る利点がいくつもある以上、強い愛着のあるこの領都を離れる必要はない。


「冬までに都市開発計画をまとめて、初冬から市域の拡大に着手したい。ヴァーツラフたちはユトレヒトに定住させる方針で。軍に志願した新兵たちも移住させる。ランツの商人と職人の一部にも移住を促す。そうしてユトレヒトが規模を増せば、後は自然と移住者が増えていくだろう……そのつもりで、各方面の手配を進めてほしい」


 ヴィルヘルムの指示に、エルヴィンもハルカも了解の意を示した。


・・・・・・


「……使えそうな若者だったな」


 会談の翌日。ルーデンベルク侯爵領への帰路についたジルヴィアは、馬車内で呟いた。目の前に座る従士が、無言で頷いた。

 昨日の会談では政治の話。夜の会食では他愛もない雑談。二度の会話を経て、ジルヴィアはヴィルヘルム・フルーネフェルト伯爵の才覚を確信した。

 人口規模で遥かに勝るリシュリュー伯爵領を征服し、短期間で掌握する。その手腕から期待してはいたが、実際に会って話した結果、期待通りの人物だったと言える。


 手を結ぶ相手が馬鹿では困る。利害関係を共有し、その関係をしっかりと守れる相手でなければならない。

 ヴィルヘルムは手を結ぶに足る。あの若者であれば、おそらく今後もある程度のところまでは躍進を果たすだろう。実際に建国を果たし、友好的な隣人として共存してくれるのであれば文句はない。仮に途中で力尽きて家ごと消え去るとしても、少なくともそれまでは、ルーデンベルク家の西側を守ってくれる。こちらはしばらく西に兵力を割かずに済む。

 そして何より――個人的に、あの若者は嫌いではない。以前会ったときは聡明さ以外に注目すべき点もない少年だったが、今はその聡明さに磨きをかけ、おまけに尋常ならざる気配まで纏っている。傑物になり得る人物に見える。まさかあのように化けるとは。

 運命の数奇さを面白く感じながら、ジルヴィアは窓の外、今やあの若者の所有物となった風景を眺める。


 いよいよ動乱の時代が始まる。自分が貴族家当主として現役のうちに新時代を迎えることは、予想外ではあったが、楽しみでもある。

 貴族たちの思惑が入り乱れ、ぶつかり合う動乱の時代において、ルーデンベルク家は堅実な勝利を狙う。独立を果たしながら、同時に安全を確保する。

 友好国を周囲に据え、安寧の中で力を蓄え、そして周辺諸国よりも圧倒的に強くなる。将来のため――周辺諸国に対する優位を保ち続けるために。そして自分の子孫がさらなる領土拡大を望むのであれば、無謀な賭けに及ぶことなく望みを叶えられるようにするために。

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