王国騎士団長、ノイエン・ヒューマン
武闘大会。
7つの国が一丸となって開催されるのはこれが初めてのことである。
最初は各国で半年かけて行われる。
途中参加もあり。
ルールは統一してある。
勝利の条件は、相手が死亡する・敗北を認める・戦う意思が感じられなくなると勝ちである。
参加資格は特に問わないが、男限定で武器も剣のみである。
なぜなら、この大会は転生したかもしれない英雄オルテガを迎え入れる為に開催されるからである。
各国で優勝した7人と準優勝者(生きていれば)も含めた14人で最後の一人が決まる。
その最後の一人が晴れてオルテガであると仮認定される。
あくまで仮認定である。
最後の決め手はやはり、オルテガの愛刀を抜くことができるか。
それならば、最初から刀を抜かせればいいのだが、名乗り出ない可能性もある。
それ故、誘い出すための意味もあった。
「なんで剣だけなんだよ。私は武器なら全般扱えるんですけど」
大会ルールを読みぐちってるオリヴィア。
「落ち着いてください兄さま、それでしたら刀ができてから途中参加したらどうですか。それとも両刃剣でもいいじゃないですか」
「両刃剣はな……扱いずらいんだよな……それに途中参加は卑怯そうで嫌だ」
オリヴィアの注文したものは片刃のいわゆる刀と呼ばれるもので、大陸全土を通してもこれに類する武器を使っている国はない。
その為作り方から研究せねばならず、製作期間は結構かかるかもしれないといわれている。
「そういえば、私たちのお城に残ってないでしょうか?」
そういうエアリス。
「無理ですよ姉さん。ここからでは遠すぎます」
飛んでいこうと思ったが、それでも1月はかかる距離である。
仮に見つけられても、それを背負って飛ぶのは無理だ。
「それに城はもう盗賊に荒らされて、何も残ってませんよ」
「そうなんだ……」複雑な面持ちでそうつぶやくエアリス。
「こればっかりは仕方がないよエアリス」
そうなんだけども、自分の家が他人に荒らされた。
そう思うと腹が立つ。
「でも兄さま両刃の剣使ってたことありませんでしたっけ?」
「戦で少し、でもあれを使えば相手の強さによってはうっかり傷付けてしまうかもしれないから」
やっぱりそういうことなんだ……。
「あの……兄上と姉さんに相談したいことがあるのですが、いいでしょうか」
突然アリスンがそう言ってくる。
「相談するまでもない。構わないよアリソン」
「? まだ何も言ってませんが」
「大会に出場したいんでしょ。今のアリソンなら大丈夫。ただし国は変えてね。アリソンとは万全の状態でやりなおしたい」
兄に認められた。涙が出そうなほど嬉しかった。
「上の兄さまや下の兄さまも出てきますかね」
「だとしたら面白いかも。決勝は兄弟4人で戦うことになるかもね」
翌日、アリソンは隣の国に向かって旅立った。
肩には一羽の鷹が止まっている。
エアリスはオリヴィアの所に残ると言って聞かなかったが。
「あいつをこれ以上一人にしないで上げて欲しい」
その一言で渋々承諾した。
心配そうにこちらをちらちら見てくる鷹。
心配はいらないよエアリス。
それに君がいれば私は甘えてしまうから。
それから3日後、対戦相手の発表があった。
1回戦目は、王国騎士団長、ノイエン・ヒューマン。
戦に赴くこと数10回、そのことごとくを生き延びた百戦錬磨の強者である。
間違いなくこの国で最強の一角である。
その頃オリヴィアは山にこもっており、その事実を知らなかった。
ノイエン・ヒューマンは屋敷の庭で、日課である素振りをしていた。
初戦の対戦相手は、オリヴィアとあった。
女性のような名前。
聞いた覚えはない、会ったこともないが、兵たちの中に見知ったものがいたので聞いてみた。
聞けば女のような体つきで、これまた女のような顔つきらしい。声も女のような声だが間違いなく男だというのだ。
剣を持てるのかさえ疑わしい話だが、かなりの腕前らしくその兵士も4人がかりで勝てなかったという。
疑わしく思ったが、それほどの強者であると思って挑んだ方が油断しなくて済むか、とも考えた。
「いずれにしても、楽しみができたというものだ」
そうつぶやき、屋敷に入る。
入ったその部屋の壁には刀のようなものが飾られていた。
”弥生錦王切丸”そう書かれていた。
夜。
オリヴィアの止まっている宿屋に、先日オリヴィアにあっさり負けた四人組が飲みに来ていた。
一階の酒場で周りをきょろきょろ見渡すがお目当ての人物は見当たらない。
「オリヴィアさんならまだ帰ってきてないよ。最近朝早くに出て行って、夜遅くに帰ってくるんだ。何をしてるんだろうね」
そういう酒場のマスター。
「そうなのか……じゃーしばらく飲んで待つとするか」
「ここを離れる前に一言挨拶しときたいからな」
そう言ってカウンター席に座る4人。
「どこか旅行にでもいくの」
背後から声をかけられる。
あいかわらず澄んだきれいな声。
聞いただけで声の主がわかる。
「やーオリヴィア一杯付き合ってくれないか」
「いいね、私も飲みたかったんだ、付き合わせてもらうね」
そう言って、5人が座れるテーブルに移動する。
「そういえば自己紹介がまだだった」
そう言って4人は名乗り始める。
「ロドリゲスという、現在王国騎士団に所属している」
「俺はオストマルク、同じく王国騎士団に属している」
「私はロイブロイ、後は同じだ」
「俺はカクリコン、同じく」
「へーみんな騎士だったんだ、道理で基本がなっているわけだ、よく修練したね! えらいぞ」
みんな照れるように笑っている。
「そういえば最近朝早くからどこかに出かけてるそうですが、どちらに」
「山の掃除に、ちょっと」
それを聞き驚いて互いの目を見合わせる。
あの山は普通でない。
とんでもない魔物が多数確認されている。
その上、例の魔人まで確認されているのだ。
「その……やはり例の魔人がらみですか」
「そう。イグニス君。前世で打ち漏らしていたから、掃討しとこうと思って」
イグニス・ゾリアッド。400年前の遺物。
普通に戦えば20人ぐらいで何とか勝てるぐらいの強さがある。
アゾソ山に存在は確認されていたが、山から出てきたことはない。
それでも脅威であることに変わりはなく、一度軍隊が派遣されている。
「行ったの?」
そう聞いてくるオリヴィア。
全員駆り出されたという4人。
千人規模の軍隊で向かい、さんざんやられて這う這うの体で逃げ帰ってきたそうだ。
「よく逃げ切れたね、あいつしつこかったでしょ。狙った獲物は最後まで追いかける、”一途なゾリアッド”ってみんな言ってたもんだ」
「一途って……」
苦笑いしか出てこない。
「でもなんであいつら山から出てこないんだろう」
「奴だけじゃなく、他の魔物も出てこないでしょ」
「そういえば、そうですね……もしかして何か知ってます」
「前世でね……最終決戦の前に邪魔だったから、あの山へ誘き寄せ結界に閉じ込めた。まだ結界が生きてるのは驚いたけど、そのおかげで被害が出てないようでなにより」
「400年前の結界! 普通そんなに持つんですか」
「普通は持たないよ。でもあれは私の妹が張ったものだから」
なぜかものすごく自慢げに話すオリヴィアがほほえましかった。
「エアリスさんでしたっけ」
「あれ? 会ったことあったっけ」
「いえ、伝記に書かれてますから」
んぐ!
「そんなものがあるの!」
「は・はいそりゃ当然ありますよ、なんせ伝説の英雄ですからね」
「やだ 照れる……じゃない、どこにあるの」
不穏な目つき。
「どうなさるおつもりで」
「すべて燃やし尽くす!」
冗談とは思えない……。
「それで、掃討はお済で?」
「あらかた片づけた。あとは友達が何とかしてくれるよ」
「えらくあっさり言いますが、何体ぐらい片づけたんです?」
「50ぐらいかな」
「ごじゅうー!」
一斉に驚いたような声を上げる。
一体につき20人がかりの相手を50体も。
その事実に驚愕するが、それぐらいでなければ英雄とまでは呼ばれないか、そう納得する4人であった。
「それでしたら。武闘大会初戦の相手も楽勝ですね。ノイエン団長は1体も倒せなかったですから」
「私の初戦?」
「はい」
「へー決まったんだ。っで誰誰?」
「王国騎士団長、ノイエン・ヒューマン様です」
「ふーん。強いの?」
「間違いなくこの国で一二を争う実力者ですね」
「ほぅ。それは楽しみ……にしていいのかな?」
「オリヴィアの楽しみがどの辺にあるのか知りませんが、応援してますからね!」
「残念ながら闘技場には行けませんが」
「見たかったんですけど残念でなりません」
「そういえば、どこかに行くって言ってたね」
「急に仕事が入りまして、南の端の魔人の咢まで行かなければならなくなったんですよ」
「なんか特別な作戦があるってんで、駆り出されることになりやした」
「戦争?」
「まさか。今は復活祭の真っ最中ですからね、そんなことしたら、よその国から非難の嵐ですよ」
ふ~ん。
きな臭いものを感じたが、その場はそのまま流した。
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