任せておけばいい
気がつくと周りをダイノウルフが取り囲んでいた。
いつの間に!
周りを見ても逃げ場はない。
そんな……私はまだ何もできてない。
兄様に恩返しすらできてないのにここで……。
「娘、また泣いているのか」
!
「しゃべった!」
「なんぞ。狼が喋って何が悪い」
「い・いいえ……えっと……その」
「オルテガと……いやいまはオリヴィアか、なんぞあったかい」
「あの……あなたは……私をご存知なのですか」
「よくしっているよ、可愛いしっかり者の妹ができった! しょちゅう自慢してたからね」
「兄がですか!」
そう言うと、狼は微笑んでいるように見えた。
「あの……オオカミさん……」
「エメラルダ」
「えっ?」
「私の名前だよ」
そう、このダイノウルフの目はきれいな緑色の宝石のよう。
「エメラルダさんは……兄とどういった関係でしょうか」
「親友だよ。昔、前世のオルテガに助けられたことがあってね。そのあとはよく一緒に酒を飲んだり、剣の練習に付き合わされたりしたもんだ」
ダイノウルフは決して弱い存在じゃない。知能が高い個体は、それこそイグニス・ゾリアッドすら圧倒すると聞いている。
「エメラルダさんは……」
「呼び捨てで構わないよ、私もそうしてるだろ」
「それはダメです。私にとってあなたはまだ敬意を払うべき存在なのですから、今はあきらめてください」
「そうかい……」
とても残念そうな顔の狼さん。クスッかわいいかも。
「あの、今の兄……どう思われますか。その……弱くなったと思われますか?」
「……? あーそうか。それで泣いていたのかい」
「全く心配いらないと思うけど、何かあったかい」
それが……。アリソンとの一件を話すべきか迷う。
「アリソン、いえ弟とさっき手合わせしたのですが……」
「あーさっきここでやってたね、あれは面白かった。あのオルテガが四苦八苦してるんだから。あんな面白い見世物はなかったよ」
見てたんだ。
「どう思われました」
「ん? どうって……面白かった?」
「そうではなくて、やはり兄は弱くなって……」
「アリソンが強くなったとは考えないのかい」
「ですが、弟はまだイグニス・ゾリアッドに勝てない」
そうなのだ、アリソンが勝てないと判断した相手を兄は瞬殺した。
だから尚のこと解せない。なんで逃げ回って挙句の果て泣き出すなんて醜態……兄らしくない。
「? 勝てるだろ? それほどの腕前に見えたけどね」
「一度きちんと戦ってみたらいいよ。瞬殺は無理でも勝てるはずだよ。いい動きしてたからね。プッ……クスクス」
「あの……」
「すまないね。思い出したらおかしくなって。多分オリヴィアもアリスンの強さを見誤っていたんだと思うよ。棒切れ1つでいなせるほど簡単な相手と思ったんだろ」
「棒切れで手合わせしたんですか!」
「そうだよ。あいつが手合わせの時、真剣持ったことあったかい」
「そういえば、見たことないですね」
「そういうことだ、少しは納得したかい」
「では……兄は……弱くなってはいないと?」
「んー優しくなった、そんな印象かね……それと…………」
「なんでしょう?」
「かわいくなった」
そう言われると、確かに。
「もともとそうだったのか、女に生まれ変わってそうなったのか分からないけど、どっちにしても今のあいつは、とても好ましく思えるよ」
「あんたには、できることなら、妹ではなく友人になってあげて欲しいもんだね」
そういってダイノウルフの群れは森に帰っていく。
「そうそう、1つだけ、あいつは弱くなってはいないよ。任せておけばいい……おっとこれはあいつの口癖だったね」
そう笑いながら去っていく。
「ありがとう! エメラルダ! 今度は私とも飲みましょうね!」
そういうとうれしそうな顔をして、今度こそ本当に森の中に去って行った。
以前、上の兄に聞いたことがある。
「最強にして最弱ってどういう意味なのでしょう」
「兄者の口癖か。笑わせようとしてるんじゃないのか。もしくは」
「もしくは?」
「戦えば最強、だが心は最弱ということなのかもな。兄者は優しすぎる」
そう言われたことを思い出す。
なんということもないのだ。
前世と一緒だ。
そう任せておけばいいのだ、オリヴィアに。
そうしてついに大会が始まる。
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