美少年剣士
400年前総人口の3分の1を失った人類。
生き残った人々は、辛苦に堪え再び国を作り上げた。
現在この大陸には7つの国があるが、覇権を求めてしのぎを削っている。
しかし、復活祭が営まれるこの1年に関しては国家間の争いはすべて禁止。
国と国の行き来は自由。
もし仮に、英雄オルテガが復活してきたなら、自国に取り込もうという思惑あってのことだった。
とんでもない時限爆弾であることをみんなは知らない。
オルテガを探せ。
その合言葉のもと色々な催し物が開催される。
武闘大会もその一環だ。
大会の優勝者にはオルテガの使っていた愛刀が授けられる。
この刀が発見されたのはオルテガが漆黒の魔人と戦い散華した海の波打ち際である。
つまりこの刀は海に浮いていたのである。
持てばずっしり重くとても浮くとは考えられないが、主を求めて戻ってきたのかと噂された。
塩水に浸かったので手入れをと思っても抜くこともできない。
なのでそのまま400年間厳重に保管されてきたのである。
エアリスに怒られ意気消沈……するはずもなく、どこかに行ってしまったオリヴィア。
「あ・に・う・え」
つかんだコップを床にたたきつけ、怒りに震えるエアリス。
そこにタイミング悪くオリヴィアが帰ってきた。
全身真っ黒のスーツにネクタイを締め、髪は後ろに束ねている。
「どう。これなら男に見えるでしょ」
そういうオリヴィアの姿は確かに男に見えなくはない。
そう主張すれば確かに男かな……?
怒っていたはずのエアリスも頬を軽く赤らめ魅入っている。
「姉さん」
アリソンに声をかけられ我に返る。
「こほん、それでまさかその恰好で武闘大会に参加するとでも」
「そのつもり、本当は盗み出そうかとも思ったんだけど、さすがに面白くないしね」
「かなり無理がありますよ兄さま。そもそもあの刀だって本物かどうか……」
実物を見ればわかるが、実物はこの国にはない。
一番南に位置するヴァルテル帝国が保管してあるのだ。
大会中は展示されるらしいがその警備は半端なく厳重らしい。
「やってやれないことはないさ。大丈夫うまくやるから」
「優勝した方から譲り受けたらどうですか」
「自分の刀だぞ。そんなみっともないことはできないよ」
ですよね。兄さまならそう言いますよね……。
やれるだけはやってみましょうか。
「ただし、ナンパ禁止ですから」
「ナンパって私、女なんですけど」
心も体も女になっている、そう信じたいそう信じたいのだが……。
言い寄られて何もしないはずがない。
そっちの方の信頼度のほうが高いのだから頭が痛い。
それに……まじで美少年剣士なのである。
絶対ほっとかれない。
「それより兄上、武器はどうするんですか。両刃の剣なんか使ったことないでしょ」
「一応鍛冶屋に頼んできたが作りが複雑だから時間がかかるらしい。なぁに大丈夫だ出来上がるまでは槍でも使うさ」
どうやらすべての準備はできているようだ。
武闘大会まであと1週間。
街のはずれに草原が広がっている。
そこにオリヴィアとアリソンが並んで座っていた。
街より少し高い位置にあるその草原から街が見下ろせる。
街のすべてを見渡せる程度の大きさの街である。
背後には昨日登った山がそびえる。
「アリソンは武闘大会にでないのか」
「兄上の状態が万全でなければでるつもりでした」
「そうだね、君は傷の1つでも付いちゃうとやばいからね……」
「400年経っても体を元に戻す方法は……」
「見つかりませんでした」
「そっか……やっぱりそんなに簡単ではないか」
「ごめんねアリソン。君一人を残して逝ってしまって」
「いえ、そのおかげで、俺たちの勝利が確定したのですから、こんなの全然へっちゃらです」
太陽の神と月の女神の争いは、それぞれが選んだ人同士の戦いによって決められる。
つまりどちらかの陣営に組みしたものの内、一人でも生き残った方の勝ちなのである。
戦いの終盤、アリソンを守ってエアリスは焼き殺された。
それもアリソンの目の前で。
復讐に燃えるアリソンをなんとか説得し、最終決戦の前の日、1人逃したのである。
以降、400年彼は一人で頑張ってきた。
半不死のバーサーカーは年を取らない。それも最後の一人として選んだ理由である。
「あいつらは、どうなったか知ってる?」
「それが上の兄様と下の兄様は、どこに転生してくるか書かれていたところが燃えてしまって分からなかったんです」
「そう……ほぼ私と同じタイミングで死んでるから、昨日のうちに転生しているでしょうね」
アリソンは皆とともに過ごした日々を思い出していた。
しっかり者の姉、エアリス。
剛毅で大らかな次兄、ガイア。
繊細で知恵者のマッシュ。
皆優しく、楽しい方々だった。
また皆とともにわずかでもいいので楽しい日々を過ごせたらと思う。
そして、ある事に気づき青ざめた。
ガイア兄とマッシュ兄……もしこのお二人が、知ってしまったら、どういう反応をするのか。
そう2人の敬愛してやまないオルテガ兄が……。
やばくないですか。
特にガイア兄。
「見損なったぞ兄者! よりにもよって女なんぞに生まれ変わるとは! たった今から兄弟の絆を断つ! 今日からは敵同士だ!」
などと言い出さないか。
敵同士のくだりは少々大げさかもしれないが……男とはこういうものだというのを体現したような方だから……。
その時背中をban!と叩かれ我に返る。
「どうしたのアリソン、そんなに心配いらないよきっとその内合流できるさ。そうなったらまた皆で飲もうね」
クスッ何故か笑いが込み上げてきた。
そうですね兄上。あなたがいたらなんの心配もいらない。
きっとお二人の懸念も笑い飛ばしてしまうんでしょうね。
「兄者にまかせておけば全てうまくいく、心配なんぞするだけ無駄ぞ」
そういっていつも笑っていたガイア兄。
そうきっとうまくいく。
「さて、そろそろやりますか」
「はい! よろしくお願いします」
この草原まで来たのはアリソンとの手合わせのためだ。
いつも持ち歩く大剣ではなく、身の丈に合った両刃の剣。
対してオリヴィアは、木の棒を持ってこの草原にやってきている。
互いに10m離れ向かい合う。
剣を抜き、両手で持ち青眼に構えるアリソン。
木の棒を左手に持ち、構えは取らないオリヴィア。
本来兄上に利き手はない。両手を利き手のように、自在に使えるのだ。
自分もこの400年そうできるよう励んできた。
励んできたのだが……。
「兄上」
「どうかした?」
「い・いえ」
アリソンは愕然とした。
前世の兄は対峙しただけで食い殺されるような覇気があった。
なのに今の兄上は……。
いや、なにも覇気がすべてではない。
きっと大丈夫だ。
「いきます」
「どうぞ」
「面白かった!」
「続きが気になる!」そう思っていただけたら、
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援よろしくお願いします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です。
ブックマークもいただけると本当にうれしいです。
何卒よろしくお願いいたします。