転生
イグニス・ゾリアッド。
400年前漆黒の魔神の先触れとして現れた体長4mの魔神。
「アリソン!」
「無理だ!俺はまだあれには届かない」
「そんな……」
「大丈夫最悪変化してでも……」
「それはダメ! 絶対ダメ! もういつ死んでもおかしくないのよ、お願いします。やめて!」
そう言われてもいざとなればこの身に替えても……。
そうしているうちに、神殿の結界が破られ、中に侵入されてしまう。
敵はもう目と鼻の先だ。
仕方がない。これも運命だ。400年待ったがここで彼女を死なせるわけにはいかない。
自分が転生の対象になっているかどうかはわからない、それでも。
イグニス・ゾリアッドの口が大きく開かれる。
もう暇はない、自身の剣を心臓に突き刺そうと構える。すると背後から声が聞こえる。
「私に任せておけ」
その声を聞いた瞬間涙がこぼれ落ちる。
兄上。
その瞬間全裸の少女にアリソンは剣を奪われ、そのままその少女はイグニス・ゾリアッドを真っ2つに切り裂いた。
断末魔の雄叫びを上げながら、黒い灰になるイグニス・ゾリアッド。
剣を片手にこちらを振り返る少女。
得意満面のその少女は……。
「誰?」
「やーアリソン、久しぶり……なのかな、エアリスも、髪切ったんだねすごく素敵になった」
なんなのこの超絶美少女は?
彼女がおそらく転生してきたのだとはわかる。
では兄上は?
「なんじゃこりゃ!」
叫び声が夜空に響き渡る。
少女は手で体を隠しながら「なんで女になってるの」
顔を青ざめて、話しかけてくるその少女は……。
「兄上! なのですか」
絶句する。
男であった英雄オルテガはあろうことか女の姿で転生してきたのだ。
「ど・どーするんですか! 冗談じゃないですよ! まだまだ戦いはこれからなんですよ! なんで女に転生してるんですか! ふざけてるんですか! もうむちゃくちゃしないでくださいよ……、女の身でどうやって戦うつもりなんですか……戦う前から終わっちゃてるじゃないですか……」
へたり込んで泣きじゃくるエアリス。
「心配するなよ、月側の代表は女だったじゃないか」
「彼女は魔法使いでしたよ。兄様魔法使えるんですか。使えるんでしたら見せてくださいよ! それなら取り敢えずは納得しますよ! 使えないですよね! どうなんですか!」
「えっと……水と雷」
「あれは今すぐ使えないですよね! ねぇ!権能を取り返さないとつかえませんよね!」
「姉さんもうそれぐらいで」
「アリソン……もう私無理……兄様……転生するのを心待ちにしておりました。でも流石にこれはないです。平時ならともかく戦争になるんですよ、誘惑して勝つつもりですか! 相手女なんですよ! わかってますか!」
そう言ってまた泣き出すエアリス。
『アリソン何とかして』
身振り手振りでアリソンにサインを送る。
『無理です・無理です、自分で何とかしてください』
腕で×マークを送る。
「今回はあきらめましょう。前回はかろうじて勝っているので、今は1勝0敗。3回勝負らしいので次にかけましょう」
エアリスから受け取った白のワンピースを上から羽織、てくてく後ろをついていくオルテガ。
「姉さん、気が早いです。もしかしたら前世と同じぐらい強いかもしれないじゃないですか」
「あれをみてもそんなことが言える。あんな華奢で、可憐で胸もそこそこ大きくて、……本当に美人ですよね……」
「本筋から離れてますよ姉さん」
そういわれ我に返るエアリス。
「とにかく、あんな細腕じゃ剣だって振れない……アリソンの剣って軽かったっけ」
「大人の男でも持ち上げるのがやっとだよ」
「さっき軽々と振ってましたよね」
「ですね、俺でもあそこまでは操れない」
……。
「少し様子を見ましょうか」
「その方がいいですね、ただ、例の武闘大会、男しか参加できませんよ」
「別に参加しなくてもいいんじゃない、どうせあの景品もまがい物よ」
全く話が見えない。
聞いてもいいのかな。
エアリスもう怒ってないかな。
そう思っていると。
「ねえ兄さま、さすがにオルテガと名乗るわけにはいきませんよね」
よかった機嫌治ってる。
「そうだね、なんかいい名前ないかな」
「う~ん、オリヴィアってどうかな、可憐な感じがして今の兄さまにぴったりだと思うのだけど」
「いいよ、エアリスがそういうなら、それで」
「はい、じゃ改めましてオリヴィア兄さま」
「兄さまは変じゃないか」そういうアリソンだが。
「そうはいっても兄さまは兄さまですから、そこはいいんじゃないですか」
「じゃ俺も兄上と呼ばせてもらおうかな」
「それでいいよ、私もその方が呼ばれ慣れてる」
前世のオルテガの一人称は俺だったはずなのに、私になってる、おそらく心も女として転生してきたんだ。そう思うエアリスだった。
もと来た道を下りながら、周りの気配をうかがう。
魔物が取り囲むように近づいてきている。
「そういえば武闘大会ってなに?」
「兄さまの復活を記念して催されることになった大会です」
「おそらく復活した英雄オルテガを見極めるための大会だと思います」
「ふ~ん」
「景品は、兄上の愛刀らしいですよ」
「まじで、でもあれは私でないと抜けないはずなんだけど」
その瞬間横合いからダイノウルフが飛び出してくる。
身構えるエアリスとアリソン。
しかし、一定の距離をとって襲ってこない。
「その大会って私も参加できるのかな」
気の抜けたような質問をしてくるオリヴィア。
「兄さま周り見てください、そんなこと……」
言い終える前に驚愕する。
オリヴィアがダイノウルフに近づくとダイノウルフは伏せて頭を撫でられている。
「ただいま……お前たちも元気そうでなにより」
微笑むオリヴィアに甘えるような声を発する狼。
そういわれてダイノウルフたちはオリヴィアの帰還を祝うかのように一斉に遠吠えを発し森の中に消えて行った。
? 何事が起ったのか分からずその場にへたり込むエアリス。
? 大剣を構えたまま固まってしまうアリソン。
「あの子たちが周りの魔物を遠ざけてくれてるから、今のうちに山を降りよ」そう言って微笑むオリヴィア。
その姿はかっての英雄の姿そのものであった。