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決勝戦

深夜。

 暗くなり人通りが少なくなった大通りを抜け、横の狭い路地に入っていく人物がいる。

 オーギュスタン・ノバルである。

 顔が見えないようにしているのか、フードを目深にかぶり周りを警戒するように歩く。

 建物と建物の間のさらに細い路地に入り、壁が黒ずんだ古い建物の中に入る。

 中は人の手が入ってないのか、荒れ果てている。

 板張りの廊下を歩くと、今にも底が抜けそうな大きな木のしなる音が響く。

 廊下の突き当りは壁である。

 隠し扉になっている壁を押し開け、階段を下りていくと、教会のような場所にでる。


 奥に一人の女性が座っている。

 その女性に向かって、恭しく傅くオーギュスタン。

 女性の名前はマリアン。

 月の女神側の代表者である。

 背は165cmほど。

 オリヴィアより少し高い。足が隠れるほどの真っ白いドレスを着、胸元がはだけているとうてい教会にはそぐわないような恰好をし、痩せているが健康的な肉体をしていた。

 カールした赤い髪を腰まで伸ばし、その手に魔法使いのような杖を携えている。

 「決勝戦の相手、ノイエンではなくなったようね」

 「はっ! まさかにもあのような貧弱なものが相手になるとは思いもよらず」

 「折角の仕込みも役に立たなくなるかしら」

 「どうやらそうでもないようです、オリヴィアとかいう女ノイエンの妹も仲が良いようで」

 「女? 参加できなかったのではなくって」

 「どうやら規約にそのことはしるされていなかったそうで」

 「あー暗黙の了解とかいうやつね。ホントくだらない」

 呆れた顔でそう言ってのけるマリアン。

 「それでも決勝まで進んできたのでしょ、強いの?」

 「それがどうも前半戦の参加者はすべて食中毒により失格となったみたいで」

 はぁ?

 「何それ、あなた何かした?」

 「いえ私はなにも。おそらくはオリヴィアというもの、見た目と違って相当な悪女かもしれません」

 「つまりその女が何か仕込んだと」

 「というよりは、脅したのかもしれません」

 オリヴィア以外の選手が棄権した旨の説明を審判が告げた時、大ブーイングが起こった。

 それをいさめる為、ノイマンが出て来てオリヴィアの勝ちを宣言したのだ。

 それも元気いっぱいの様子で。

 「ふ~ん。まーいいわオリヴィアとかいうものが何者か知らないけど、オルテガでないのなら捨て置いても構わないでしょう」

 「では、生かしておくということでしょうか」

 「いえ、そうね……赤を送っておくから、彼の指示に従いなさい」

 「承知いたしました」

 そういってマリアンの前から辞して立ち去っていくオーギュスタン。


 「聞いてた?」

 「はい」

 暗闇から真っ赤な鎧を着こんだ男が現れる。

 「万が一ということがある。仮にそのオリヴィアとかいう女がエアリスであったなら、殺しなさい」

 「あの魔法使い、人心を操ることもできたのでしょうか?」

 「いや。治癒と防御魔法しかできなかったと思うけど、念のためよ。」

 「もし仮に奴らとは関係ない人物で、役に立ちそうであったら、こちらにひきこんでも?」

 「そうねあなたの判断に任せるわ。でもオルテガやその兄弟たちが出てくるようなら戦ってはダメよ」

 「私では敵わないと?」

 「まだこちらの動きを知られたくはない。それだけよ」

 「承知しました」

 そういって赤の騎士はその場から姿を消した。

 後に残ったマリアンは。

 「あなたでは遠く及ばなかったでしょう」

 そうつぶやき、マリアンの姿もそこから消えるのであった。


 ついに決勝戦まであと1時間に迫る。

 オリヴィアは、その長い髪を後ろに束ね、道着のようなものを上にはおり、両腕に手の甲から肘までを覆う手甲を付け下はズボンをはき膝から下は甲冑で覆っている。

 腰に大小二本の刀を差し控室で呼び出されるのを待つ。

 「エアリス……間に合わないかな」

 最悪、自分は殺されないよう立ち回らなければならない。

 ローザは助けてあげたいが、自分が死ねば月側の勝利が確定したも同意なのだ。


 月側の勝利はイコール人類滅亡につながる。

 そういう勝負なのである。

 

 そうなると勝負は3回目にもつれ込む。

 更に何百年の時を待たなければならないのか……。

 

 開始と同時に棄権するという事も考えたが。

 粘るだけ粘って時間を稼ぐことに決めていた。


 係の人が呼びに来た。

 いよいよ始まる。

 控室には選手以外は近づけない。

 通路の奥から声が聞こえる。

 「どうか、わが妹のことはお気にせづに!」

 そういう声が聞こえてくる。

 ノイマン……わかっているよ。

 私が死ねば、あなたたちは責任を感じてしまう。

 適度なところで負けておこう。

 なに最悪アリソンに任せておけばいいか。


 通路を抜け試合会場にでる。

 大歓声に包まれる闘技場。

 自分に対する罵声も聞こえてくる。

 「今日は、毒は仕込まないのか!」

 「卑怯者!」

 等々。

 でも自分を応援してくれているものもいる。

 ノイマンやあの時戦った人たちは私を応援してくれているようだ。

 ローザの声も聞こえてくる。

 闘技場の一番高いところに王族や貴族の観覧する席があるがもぬけの殻だ。

 見るに能わないと判断されたか、もしくは。

 ロドリゲスたちの顔が浮かぶ。

 妙なことになっていなければいいのだが。

 


 「両者中央へ」

 互いに中央に歩み寄り、互いの目を見てにらみ合う。

 横で審判が説明を始める。

 だが聞いてはいない。

 「あなたがローザに呪いをかけたの」

 「だとすると、どうする」

 「どうもする気はないよ。因みにどうすれば呪いを解いてくれる」

 「この試合が終わったら、解いてやるよ」

 「そう。それは助かる。っで私は負ければいいのかしら」

 「図に乗るなよ小娘が。貴様程度に加減してもらうほど落ちぶれてはいない」

 「そう。負けてほしかったらいつでも言ってね」

 審判の説明が終わり、両者離れて開始戦まで下がる。

 互いに向き合い、審判の合図を待つ。

 「オリヴィア様どうか判断をお間違えないように」

 祈るようにつぶやくノイマン。

 それを心配そうに見つめるローザ。


 「はじめ!」

 審判の開始の合図とともにオーギュスタンが突っ込んでくる。

 右手に持つ剣の刀身は細く、手首の動きでしならせながら連続の突きで攻撃してくる。

 対するオリビアは、刀は抜かず、そのすべてを躱し手甲ではじきながら凌ぐ。

 なぜこうも躱すことができるのだ!

 オーギュスタン有利に見えるが、ことごとく交わされている為当の本人は焦る。

 「ほう」

 観客席にいる赤の騎士が感嘆する。

 鎧は脱ぎ、黒いフード付きのマントをまとい、フードを目深にかぶり試合を観戦しているのだ。

 しなる刀剣の動きをよけるのはかなりの技量を要する。

 まだまだ甘いところもあるため、手甲をつかって交わす場面もあるが、一切傷を負っていないのだ。

 「女だてらにやるな……しかしあの程度であるならば……必要ないか」


 オーギュスタンは一旦後ろに下がり呼吸を整える。

 オリヴィアの驚異的な身体能力に舌を巻く。だが本気で攻撃したわけではない。

 観客席の赤の騎士を見る。

 親指で首を掻っ切る赤の騎士。

 それにうなずき、剣を構えオリヴィアに近づく。


 当のオリヴィアの言えば。

 やばいな……赤がいるじゃないか。

 手は抜いてるからばれてはいないだろうけど。


 オリヴィアの手前4mにまで近づき、話しかけてくるオーギュスタン。

 「最後のチャンスをやる。俺の女になるつもりはないか」

 はぁ~?

 何を言ってるんだこいつは、さっき赤が殺すようなしぐさしただろうが、命令無視してもいいのかよ。

 「どうだ」

 更に聞いてくる。

 「あははは……間に合ってます」

 「おしいな」

 そういってさっきより数段速いスピードで突いてくる。

 今度は手甲すら使わずすべてよけるオリヴィア。

 多少大げさなよけ方をする。

 まだ赤が見ているのだ。


 どうなっている。

 なぜそうもよけることができる。

 連続した攻撃を全て躱され、焦りだすオーギュスタン。

 そしてある事実に驚愕する。

 観客の中にもそれに気づくものがで始める。

 「あいつ1歩も動いてないんじゃないか」

 観客席がざわめき始める。


 攻撃の手をいったん止め、呼吸を整える。

 「えらく舐めたマネをしてくれるじゃないか」

 「そう……かな。気のせいでしょ」

 天使のような笑みで微笑むオリヴィア。

 それが却って、オーギュスタンのプライドを傷つける。

 「いいだろう、ならばそこから1歩も動くなよ動けばローザを殺す」

 「了解」

 まずった。まさかあれで本気だったとは思いもしなかった。

 そうとわかっていれば、もっとみっともなく避けたのに。

 しかし避けるなとは言われてないから、避けていいのかな。

 再度攻撃を繰り出してくるオーギュスタン。それをことごとく避けるオリヴィア。

 なぜだ。

 なぜかすりもしない。

 どうなっている。

 赤の騎士様もご覧になっているのだ、これ以上の無様は晒せない。

 かと言って負けてくれとは、口が裂けても言えない。

 そうして、剣をオリヴィアの足の甲に突き立てる。

 そのまま剣を抜き後ろに飛び下がり距離をとる。


 にやりと笑うオーギュスタン。


 軽いめまいと、嘔吐感がせりあがってくるオリヴィア。

 毒か。

 やばいそれも即効性のある、おそらく蛇毒。

 もう無理か。

 ここは負けを宣言して。

 そう考えたと同時にオーギュスタンが攻撃してきた。

 なんなくそれを躱すが、徐々に視界がかすんでくる。

 オーギュスタンの攻撃が体をかすめ始めた。

 かすり傷程度の傷口からも毒が侵入してくる。

 胃の中に血がたまり吐き出すのをこらえるが、口の端から血が滴り落ちる。


 毒か!


 観客席のノイマンにもはっきりわかるオリヴィアの異常。

 やばい、殺す気だ。

 たとえ失格となろうとも、ここは自分が飛び出して。

 背後から肩をたたく者がいた。

 振り返るとそこには……。


 オーギュスタンは再度後ろに下がり必殺の突きの構えをとる。

 「残念だよ。貴様のような美女をこの手にかけなくてはならないとはな」

 私も残念だよ。毒のせいで声も出せない。

 かといってローザを。

 あの可憐な少女を見捨てるという選択もできない。

 決めていたはずなのに……できないのだ。


 さらばだ皆。

 ふがいない兄を許せ。

 そう思った瞬間、オーギュスタンは地面をけり必殺の一撃を心臓めがけて放ってくる。

 「にいさまー!」

 オーギュスタンの剣が砕け、首が跳ねとぶ。

 声の聞こえた瞬間、右手で刀を抜きはらったのだ。

 そしてたったまま気を失うオリヴィア。

 「勝者、オリヴィア!」

 その声だけが聞こえたような気がする。


 「なかなか面白い見世物だった」

 そう言って、その場を立ち去る赤の騎士。

 たいした腕ではない。

 だが底を見せてはいないので判断しかねる。

 そう結論づけ、大歓声に包まれる闘技場を後にした。


 「兄さまのばか! そんなに死にたければどうぞご勝手になさってください。私を悲しませるのがそんなにお好きなのですか」

 そう言われた気がして目を覚ますオリヴィア。

 横にはローザが座っており、目を合わすと突如泣き始める。

 「エアリスが間に合ったんだね」

 「はい」

 「そうか。 よかった」

 「はい」

 泣きじゃくりながらはっきりした声でそういうローザの頭を撫でてやる。


 「どうして私などをお助け下さったのですか。オルテガ様にはやるべきことがあるはずなのでしょう。 それに比べれば私の命なぞ……お見捨てになってくださればよかったのに」

 そう言って両手で顔を隠し、さらに泣き出すローザ。

 おいノイマン、秘密にしてくれるんじゃなかったのかよ。

 大勢の足音が聞こえてくる。

 ローザの泣き声でみんな集まってきた。


 先頭を切って入ってくるノイマン。

 明らかに怒っている様子。

 すぐ横までやってきてひざまずくノイマン。

 「わが妹の命をお助け下さり、まずはお礼を申し上げますオリヴィア様」

 「しかし」

 あーやっぱり説教だわこれ。

 やらかしたもんな……。

 結果よければすべて良しとはならないかな……。

 「全部声に出てますぞオリヴィア様」

 あわわわわ。

 「あ・あのさノイマン……言いたいことはわかっているつもりなんですけど、私はさ……」

 「全部わかっています。私なぞがオリヴィア様に意見するなどもってのほか」

 「い・いやそんなつもりは……」

 「ただ私が言いたいのは。ローザに何故自害させなかったのか。それが悔やまれてなりません」

 はぁ?

 「お兄様、心配には及びません。オリヴィア様の無事を確認いたしましたので、今より私は責任を取って自害いたしますので」

 は?

 「よくぞ申したローザ、この兄が見届けてやろうぞ」

 おや?なにかしらこの茶番は……?

 ベッドの上で正座をして、みなに土下座するオリヴィア。

 「まことにこの度のことは申し訳ございませんでした」

 深々と頭を下げるオリヴィア。

 そして頭を上げ「よっくわかってます。なのでこれ以上は責めないで! でないと泣きそうですよ」

 一同やれやれといった風で互いの顔を見合わせるのだった。


 「それでエアリスは?」

 「早々にお帰りになりました。その……」

 「遠慮せずに言ってください。なんか言ってました」

 「はッ……ただ一言……」

 「なに?」

 「死ね……とだけ……」

 ずーんと重いものがのしかかってくる感触。

 「なんで?もうちょっと優しくしてくれてもいいじゃないか。なんであの子は私にはきついの?ねぇ」

 そういわれても、困ってしまうノイマンたちであった。


 武闘大会の優勝者はオリヴィアに決まったが、ひと悶着あったそうだ。

 女が優勝者では対面が悪いとか、最後に殺す必要があったのかとか、英雄オルテガを探すための大会で女が優勝とはこれいかに、それはもういちゃもんつけ放題だった様子。

 最後はノイマンに一喝されて収まったそうである。

 それほどみんなの信頼を得ていたノイマンをあのような形で敗北させたことが悔やまれるが。

 「いやいや、あのような形で私のメンツを守ってくださったのです。感謝しております。それに、かの英雄様とこれほど懇意にしていただけるようになるとは、光栄の極み」

 などと言ってくれる。

 そこまでいってもらえると逆に恐縮してしまう。

 優勝の授賞式は後日改めて執り行うそうだ。

 その時にホルス王国の優勝者であることを証明する紋章をくれるそうだ。


 「さて」

 そういってベッドから降り立ち、立てかけてあった刀を取る。

 「オリヴィア様、まだ動かれては」

 そう気を使ってくれるローザ。

 周りのみんなも心配そうにみてくるが。

 「エアリスが解毒の魔法使ってくれたんでしょ」

 「それはそうですが」

 「足の怪我も体中の切り傷も全部なくなっているし、我が妹ながら恐るべき腕前だ」

 しきりに感心するオリヴィア。

 それでも。そういって無理にでも休ませようとするが。

 「毒を食らった状態で、戦をしたこともある。心配は必要ありませんよ」

 そういって、部屋のバルコニーへ向かう。

 まさか飛び降りるとは思っていなかったノイマン。

 ここは4階。

 さすがに……。

 「またなノイマン」

 そういって飛び降りるオリヴィア。

 一同びっくりして窓辺に駆け寄るが、もうずっと先を飛び跳ねていくオリヴィアを見てあっけにとられる。

 「なんでもありですね」

 「伝説の通りなら、1対1であの漆黒の魔人にも勝てるそうですから」

 

 再び鍛冶屋にやってくるオリヴィア。

 先の戦いの一振りで、刀身にひびが入ったということで、オベリスクに会いに来たのだ。

 「貴様は毎度毎度刀の扱いが雑すぎる」

 「仕方ないじゃないか、普通に一振りしただけだよ」

 「その刀の強度に合わせた力加減で振りぬかんか! 貴様前世よりへったぴになってないか?」

 「ちょっとぐらい褒めてくれてもいいじゃんか! エアリスといいオベリスクといい、これでも頑張ってるんですけど!」

 そう言ってすねるオリヴィア。

 対応に困るオベリスク。

 「貴様、女であることを最大限利用しようとしてないか?」

 「さすが! ばれた?」

 「まったく貴様というやつは、しかしよいと思うぞ。自分の腹の内を見せている所がな」

 男あるあるで自分のことは話さなかったオルテガ。

 弱気なところも仲間への愚痴もすべて話してさらけ出すオリヴィア。

 これは今回も勝ちじゃな。

 そう思うオベリスクであった。


 刀を抜いてオベリスクの枝にひっかけると不思議な光が刀身を包み込む。

 「たいしたヒビではないな。30分もあれば元に戻る」

 「じゃ待たしてもらっていいかな」

 「貴様を邪魔に思ったことなぞ一度もないぞ」

 そう言ってくれるオベリスクに感謝する。

「面白かった!」

「続きが気になる!」そう思っていただけたら、

下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援よろしくお願いします。

面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です。


ブックマークもいただけると本当にうれしいです。

何卒よろしくお願いいたします。

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