フォースステージ三日目
「ポニテ。この状況を利用しよう」
俺は俺の腹の上に座るポニテを見上げながら、真剣に伝える。
「ポニテには、自分の為に人を殺すなんてできないし、して欲しくない。だから夜は誰も死なない。死ぬのは、投票だけだ。だから俺らがするべきなのは、議論をかきみだして、最後の四人になるまでポニテ以外のプレイヤーに疑惑が向くよう仕向けることだ」
「そんな、それじゃあ結局わたしの為にみんなを」
「一番大事なのはポニテ、お前自身だ。それはツインテだって言っていたじゃないか、忘れたのか?」
「……それは」
ポニテは悲しそうにうつむいてしまう。
「こんな事を言うのは残酷かもしれない。でもポニテ、俺は、俺は仲間のポニテの命が大事だ。それにこれは誰かが死なないといけないデスゲーム。なら俺は、縁もゆかりもない連中の命よりも、お前の命を優先する」
「でも」
俺は手を伸ばして、ポニテを抱きよせた。
「ぁ…………」
吊り橋効果とか、極限状態を利用してとか、そういうやましい気持ちは無い。
ただ純粋に、ポニテに否が応でも納得してもらうための行動だった。
ポニテを少し強引に抱きしめたまま、語りかける。
「ポニテ。俺はポニテに生きてて欲しい。だからさ、もしも自分の為に誰かを犠牲にするのが抵抗あるなら。俺の為に生き残ってくれよ。俺はポニテが大事だから、ポニテが死んだら泣いちゃうからな」
俺がそう言うと、ポニテが俺の腕の中で脱力してくれた。
そのまま俺に体重を預けて、耳元で言ってくれる。
「はい……」
その日も、俺らは抱き合って寝た。
◆
『昨晩の犠牲者もゼロでーす♪ ではみなさん議論をどうぞ♪』
ゲーム三日目の会場。
タコヤキが意地悪に笑った。
「二日連続で兵士に邪魔されるとか緑シャツ。あんたも運ないなぁ」
「だから私は人狼ではありません! それに今朝、新しい情報を得たんです!」
「うっさいわボケ! あんたが人狼が決まりや!」
緑シャツは必死に、
「人狼はポニテさんです」
ポニテは絶句して、両肩を跳ね上げた。
青ざめて、がくがくと震えながら縮こまる。
まずいぞ、なんとかしないと。
「私が朝起きると、そういう情報が頭に流れ込んできました。きっと包帯さんは、大預言者に人狼だと思われる、という能力を持っていたんです。それでまず偽物を殺したから今度は本物が」
「見苦し過ぎるだろ」
俺だ。
「お前さ、そうやって何日ねばる気だ? ポニテを殺した後はメラメラか? タコヤキか? 毎日毎日次こそ次こそって、第一お前が大預言者だって証拠が何もないじゃないか! いつまでもお前の妄言で人を死なせるわけないだろ!」
俺の強い言葉に、緑シャツは一瞬怯む。
「で、ですが他に大預言者を名乗る人が」
「おいニャル!」
『なんですかメガネボーイ♪』
「このゲーム。毎回参加人数が違うよな? ていうことは、ステージによっては存在する職業としない職業が当然あるんじゃないか?」
ニャルはこころよく頷いた。
『ええもちろんですよ♪ 職業は数多くの種類があって、特に今回は一〇人だけですから、全ての職業がそろっているわけではありません』
俺は、わざとらしいキメ顔とキメ声でキメてやる。
「だとよ。つまり、今回は大預言者じたいがいない! そういうステージなんだよ!」
「ぐぅっ!」
「何も俺は、お前が人狼だなんて言わない。証拠が無いからな。でも、妄言で包帯を殺したお前の言う事なんて、俺は絶対に信じない。俺が言いたいのはそれだけだ!」
緑シャツが人狼だとは言わない。
あまり言い過ぎると、緑シャツが死んだ時、俺に容疑がかかるからだ。
俺はあくまでも、一般論を喋ったプレイヤー、という立ち位置でいる必要がある。
「違います皆さん、私は」
今回の議論は、必死になって緑シャツが自分は人狼ではないをアピール。
でも、聞く人は誰もいない。
みんな誰もが、最初から緑シャツが人狼だと頭から決めつけている。
結局そのままゲームは終了。
投票の時間になった。
『はい皆さん、それでは投票結果をどうぞー♪』
緑シャツ 五票
「違う……違う違う違う、私は人狼じゃ」
落とし穴。
緑シャツの体が床に吸い込まれる。
けれど当然。
『ざんねんでしたー♪ 緑シャツさんは人狼じゃありませーん♪ 村人はこれからも眠れない夜を過ごす事でしょうねぇ♪ うふふふふ♪』
助かった。
俺は安堵する。
ポニテは、自分のせいで緑シャツを殺してしまった。
そう考えているのかもしれない。
彼女の目からは、一粒の涙が零れ落ちた。
ごめんなポニテ。
でも、俺はお前を守る。
絶対にだ。




