迫る
「全員?」
ミュールの視線が、ゆっくりと俺に映った。
「そう、メガネ、アナタも私を疑っているのね?」
俺はひるまず、ミュールとしっかり向きあう。
「悪いけどミュール、俺は条件を付けたはずだ。お前が人狼だったら、投票させてもらうって。ツインテの推理は聞いてもらった通りだ。ミュール、人狼はお前だ! だから茶髪、俺らと一緒にミュールに投票をしてくれ!」
「えっ、えっ、えっ!?」
俺は茶髪に向き直った。
「あの、えと、あたしは……」
茶髪の様子がおかしい。
妙におどおどしている。
まるでポニテみたいだ。
「茶髪?」
すると茶髪は、突然、
「あたしわかんないよぉおおおおおおおおおおお!」
頭を抱えて、両目からボロボロ涙をこぼした。
「ど、どうしたんだよ茶髪。お前変だぞ。お前とはセカンドステージから一緒だけどさ、お前自己紹介の時、ファーストステージじゃ目立てなかったから活躍したいとか、明るくウィンクしてさ。お前はもっと」
「もう無理だよぉおおおおお!」
茶髪は頭を抱えたまま、円卓に肘を突いて、うつむいてしまう。
「こんな、わけわかんないゲーム巻き込まれて……大丈夫だって自分に言い聞かせて、明るく振る舞ったけど……どんどん目の前で人が死んでいって……無理だよ、わけわかんないよ……なんであたしらこんな事になってんのさぁ! もうやだ……あたし、おうちに帰りたいよぉ……」
そこにいるのは、砂の城のように頼りない、儚げな少女だった。
それで思い知らされた。
茶髪の言う通りだ。
異常なのは俺のほうだ。
俺達は、ついこの前まで普通の学生だったんだ。
平成日本の、恵まれた平和ボケした平成キッズ。
それがいきなりこんな、負けた奴は死刑とかいう、非現実的な世界に放り込まれて、次々人が死んでいく様を見せつけられたら、普通は冷静じゃいられない。
人によっては慣れたのもあるだろう。
でもみんながみんな、すぐに慣れるわけじゃない。
普段からホラーやスプラッタ映画を見ている人なら多少は耐性はついていたり、まるでアトラクションを見ているようで、現実味が湧かないままゲームを進めているかもしれない。
でも、そんな作品に全く触れず、平和で楽しい日々だけを過ごして、それこそ血を見た事もないような生活の子だったら、こんな生活に耐えられるわけがない。
「はうぅ……あの、メガネさん、わたしは、茶髪さんの気持ちわかります」
ポニテが、悲しそうな声で俺に語りかける。
「わたしだって、きっと茶髪さんみたいになっていたと思います。でも、わたしにはメガネさんとツインテさんがいました。わたし一人ならきっと怖くて頭が変になっちゃったと思います」
その声には、強い気持ちがこめられている。
「でも、いつもメガネさんとツインテさんがわたしをはげましてくれて、凄い推理を披露してくれて、それでわたしいつも思っていたんです。この人達とならだいじょうぶだって、でも、茶髪さんはずっと一人で……それに、わたしにはシャンナちゃんもいました。シャンナちゃんは、夜一人でいると、いつも頑張ってクリアしようねって、わたしに話しかけてくれるんです」
そうか。
俺がエーコを受け入れた理由。
それは、神様だから人間でゲームをやっても仕方ない、じゃなくて、きっと俺も求めていたんだろう。癒しを。
例えニャルの眷属だって解っても、ぬくもりがほしかったんだと思う。
だから俺は、泣きじゃくる茶髪に語りかけた。
「なぁ茶髪、俺らの仲間にならないか?」
「え?」
茶髪が、可愛い顔を上げる。




