最初の吊られ人
俺は自分をクールダウンさせながら、席に座り直す。
「随分冷静だなミュール」
「今更でしょ? それに、もうみんな慣れたんじゃない? 人の死なんで結構慣れるものよ。みんな夜襲は議論に参加しないっていうだけで、あくまで退場、死んだって感じがいまいちしないし。処刑は目の前で殺されるけど、ファーストステージとセカンドステージで何度も見ているしでしょ? それにホラー映画やスプラッタ映画と変わらないし、特殊メイクやCG全盛の現代っ子に何見せ立って、ねぇ?」
糸目や狐目、コンタクトも、
「そうだな」
「確かに」
「グロ映像とか今更かも」
ちっ。
おっぱい星人共が!
俺は自分のことを棚上げにして、心の中で文句を言った。
「それでみんな、議論はどうするのよ? リーダーシップマンがいなくなっちゃったわよ?」
ミュールの問いに、一同は困る。
俺もサングラスに期待していただけに、そのサングラスはいなくなると、どうしていいか解らない。
今までの議論みたいに普通に進めるか。
でも今回の人狼は議論に積極的な奴を、ハッタリ無視で夜襲した。
あまり目立つと、それだけで危険になる。
ツインテはそれは理解しているんだろう。
鋭い視線で周囲をうかがっているが、特に発言は無かった。
誰も喋らないでいると、ニャルが大きく欠伸をする。
『みなさーん。議論しないんですかー? 言っておきますけど、議論が無くても投票はするんですからねぇ。自分は違うっていうことだけでもアピールしておかないと、困りますよー♪』
アイプチとツケマが反応しようとして、でも何も言わなかった。
自分は人狼じゃないアピールをすれば目立つ。
目につく。
一番いいのはステルスモード。
地味に、目だ立つ、人狼の目に止まらないこと。
そんなふうに考えているんだろう。
そうなると、サングラスが死んだ事で取り乱してしまった俺とシャギーはちょっと危ないな。
そんな風に考えながら、刻一刻と時間だけが過ぎて行く。
やがて、本当にそのまま、
「はい、時間切れでーす。つまらないセッションになりましたねぇ……これじゃ投票なんてほとんど運じゃないですか。じゃ、投票をどうぞ」
いつも通り円卓に投票ボタンが出現。
でも、俺は押さなかった。
結果。
「はい、では投票結果ですよー。ほい♪」
大画面に映ったのは……
ツケマ 四票
「え?」
ツケマの背後の出入り口から金属の手が伸びて、一瞬でツケマの体をさらった。
ポニテは慌てて耳を塞いで、顔を伏せる。
廊下の奥から銃声が聞こえる。
俺は人の死に動悸が止まらず、胸が苦しくなるのを感じながら目をつぶった。
ああ。
交友のない人間でも、死なれるのはいい気がしない。
俺はこのゲームで、ツインテとポニテっていう仲間を得た。
だから俺は、二人のどちらかが死ぬのを想像して、辛くなる。
俺は兵士だ。
二人を守ろう。
そして、絶対にこのゲームで勝ち残るんだ。
こうして、俺らの二日目の議論は終わった。




