逆転の崖っぷち
「うそだぁああああああ!」
俺は絶叫して、円卓を拳で叩いた。
「そんな……指輪君が……」
ポニテは口に手を当てて絶句。
ツインテは何も言わず、ただうつむき、耐えるような顔をする。
だって、だって指輪は……指輪は俺の…………
気付かされる。
師は平等だ。
今まで、俺もツインテのポニテも、一度も人狼に殺されなかった。
だから、きっと心のどこかで思っていたんだ。
自分達は死なない。
子どもゆえの万能性に近い感覚。
自分は物語の主人公で、自分だけは死ななくて、死ぬのは他の誰か、自分と、そして自分の仲間は死なない。
でも、そんなことは有り得ない。
このゲームはいつだって俺やツインテ、ポニテが人狼に殺されるかもしれないし、投票で処刑されるかもしれない。
「ふむ、今回の犠牲者は指輪か」
耳ピアスが、冷静な顔で告げた。
こいつが、この素知らぬ顔でぬけぬけと指輪を……自分が助かりたいが為に……
俺は、歯を食いしばり、叫んだ。
「よくもやったな耳ピアス! みんな! こいつが人狼だ!」
皆が一様に驚いた顔をする。
だが耳ピアスだけは、
「何をバカなことを」
「どうせ最後だ! 俺とツインテ、ポニテ、指輪はチームだったんだよ! 当然、全員が村人だってことは証明済みだ! あと俺らの能力でシャギーが村人ってことも解っている! 残っているのは茶髪と耳ピアス、お前だけだ!」
「ふん、それが本当だとして、どうして茶髪ではなく私になる?」
「ちょっとメガネ君」
「ツインテは黙っててくれ! 茶髪が人狼じゃないって理由は単純だ。指輪の能力で大預言者が死んでいる事は証明済み! でもな、茶髪が疑がわれたのは昨日、青髪に疑がわれたのが最初だ! 死んだメンバーの中に大預言者がいたなら、どうしてもっと先に茶髪を疑わなかった!? 理由は単純、大預言者が知った人狼の正体は茶髪じゃないからだ!」
「そ、そうです! 耳ピアスさんが人狼さんです!」
ポニテも目に涙を溜めながら援護してくれた。
だが、ツインテだけが顔に手を当ててしまう。
「メガネ君……貴方」
「え?」
俺がツインテの様子に気付くと、耳ピアスは不敵に笑う。
「そうまでして私を人狼にしたてあげたいか、なら、君が人狼だろう!」
「はっ!? 何を言って」
「そうだろう! さっきから聞いていれば全部君の妄想で、何一つ証明ができていない! それに、さっきのチーム発言は問題だぞ! 気付いているか? このゲームは四人以下になったら終了。つまり、村人でもその四人の中に入っていれば最大三人までは生き残れるシステムだ。なら、村人が人狼に議論を援護するから自分は食べないでくれ、と頼むことも、人狼が村人に食べないから議論で自分を援護しろと要求し、四人チームを組む可能性がある」
茶髪とシャギーが『その手があったか』という顔になる。
「そして君はまさしく、君とツインテ、ポニテ、指輪の四人チームを組んでいるんだったな」
「待てよ、俺が人狼ならなんで仲間の指輪を襲うんだ!」
「カムフラージュのため、あえて一人殺したのだろう?」
「そんな、俺は」
「騙されるなよ茶髪、シャギー、この男は人狼だ!」
茶髪とシャギーが、俺を疑惑の目で見て来る。
しくじった。
俺はツインテの気持ちを察した。
指輪が死んでも、俺らは六人中三つの票を持っている。
俺とツインテ、ポニテが耳ピアスに投票すれば、耳ピアス処刑は確実だった。
でも、変に耳ピアスを刺激することで、耳ピアスはシャギーと茶髪を先導してしまった。
耳ピアス、茶髪、シャギーが俺に投票すれば三票対三票で、引き分けになってしまう。
黙って粛々と作戦を進めていればよかったのに、感情に任せて叫んだ結果がこれだ。
俺は自分の馬鹿さ加減に肩を落とした。
震えるポニテが発言したのは、その時だった。
「あ、あのう、耳ピアスさん」
「なんだ?」
耳ピアスの視線が、ポニテの突きささる。
「実は私の職業、探偵って言って、ゲーム中に一回だけ、指定した人の正体を見ることができるんです。それで昨日わたし、耳ピアスさんを調べたんです」
「っ、だ、だからなんだと言うんだ? まさか、それで私が人狼だったとでも? メガネの仲間の君の発言に証拠能力は無い」
耳ピアスは一瞬言葉に詰まってから、冷静に聞き返す。
「いえ、それがですね、探偵って、本来は依頼を受けて仕事をするものですよね? だから、セカンドステージからの追加ルールなんですけど、探偵だけは事務所の看板を見せる、つまり、探偵カードを渡されて、自分が探偵だと自分に証明できるんです」
「なっ……そんなバカな!?」
「はいウソです」
耳ピアスの両目がつり上がる。
「君は私をバカにしているのか!?」




