ファンタジーはどこにいった?
俺は席について、息をつく。
「慣れたくなんてないけど、この雰囲気には少し慣れたかもな」
「そうね」
ツインテも頷いて、自分のネームプレートがある席についた。
会場の内装は同じだが、円卓の席が一二個になっていて、またネームプレートが置いてある。
全員席に着くと、裁判長席のニャルが口元をにんまり歪める。
『それでは皆様、今度はファンタジー成分たっぷり濃厚♪ もう能力を使うのに、シャンタ達へ報告しなくていいですよ♪ ほいさ♪』
ニャルが指を鳴らした途端、急に俺の中に情報が流れ込んで来た。
解る。
一瞬で理解する。
俺の職業は。
職業名:記者。
能力:今までの議論の録画映像を見ることができる。
おっ、これって結構よくないか?
ツインテの推理力を加えれば、かなり強力になるぞ。
それにしても過去の映像を見られるってことは、時関係の魔法も使えるのか。
神様だけあってニャルは万能――
『メガネ君は撮れてるー?』
『やん、かわいい♪』
『へー、あの子勝ち上がったんだー』
『こっちからのほうが円卓を映しやすいわねぇ』
会場中にいるシャンタ達の中で、数人のシャンタがハンディカム片手に盛り上がっていた。
物凄く普通に文明の利器で撮影していた……ファンタジーはどこいった……
ちなみにこれも頭で理解したことだが、能力はシャンタに言わなくても、心の中で強く念じればいいらしい。
『では皆さん、一時間の議論をどうぞー♪』
どうぞ、と言われても、議論は始まらなかった。
一応、セカンドステージにいる以上、ここにいる連中は全員、数回の議論と投票、処刑と夜襲を経験しているはずだ。
今までの経験から、慎重になっているんだろう。
議論開始から三分、最初に口を開いたのは、首からドクロのネックレスを下げた女子だった。
「ちょっと大預言者の奴、なんで黙っているのよ……あんたが言えばみんな助かるんだからね、わかっているのっ?」
やや凄身を含んだ声。
いや、でも初日から言うのはまずいだろう。
この子はちょっと冷静な判断が出来なくなっているな。
オールバックが、頭をかきながら言う。
「いや、初日はまずいだろ」
「なんでよ?」
「だってよ、初日は人狼を処刑できないんだぜ? 初日に大預言者だって暴露したら、今夜確実に殺されちまうだろ? 今日はおとなしくして、明日の議論中に名乗り出てもらわないと」
「で、でも兵士に守ってもらえば、そうよ、兵士よ。運悪く今夜いきなり大預言者が死んじゃうかもしれないんだから、大預言者は正体を明かして兵士に守ってもらうべきよ!」
「兵士が守ってくれる保証がないだろ。実は俺のグループな、一回その作戦で失敗してんだよ」
シャギーががっくりと肩を落とした。
「キンパツを守ってくれていたら、あたしらは四人まで減らずに済んだのにね」
「う~」
ドクロネックレスは、恨めしそうに爪を噛んだ。
赤髪が呟く。
「やっぱ、初日って困るよな……」
みんなは顔を見合わせた。
シャギーが騒ぐ。
「ああもう、とりあえずさ、今の時点で自分の職業を暴露できる奴いないの? ちなみにあたしは諸事情で無理よ!」
場が白けた。
そして、誰も自分の職業については喋らなかった。
俺も喋らない方が無難かな。
記者の能力は、過去の議論の録画映像を見る事。
人狼が自分の失言に気付いたら、俺が失言を掘り起こさないよう、殺しにくるかもしれない。
問題は、ツインテの職業が何かって事だよなぁ……
そのまま議論はこう着。
初日の議論は、特に発展も進展もせずに終わった。




