推理ショー
「待てよツインテ、違うんだ! ミツアミは人狼なんかじゃない! ミツアミは」
「兵士だって言いたいんでしょ?」
「!?」
俺は言葉を失った。
なんで?
どうしてツインテがソレを知っているんだ?
ミツアミは、ツインテにも正体を言っていたのか?
でも、ならどうしてツインテはミツアミを疑うんだ?
「まんまと騙されて彼女の肩を持つなんて、メガネはランドセルじゃなくて黄色帽を被ったほうがいいじゃないかしら?」
シャギーが言う。
「ツインテ、じゃああんたもしかして、人狼の証拠を」
「ええ、教えてあげるわ、私の職業、それは『探偵』よ!」
名前の響きだけで、俺の心臓が跳ね上がった。
もしかしてその職業で、みんなの情報を知っているのか?
「悪いけどミツアミ、私の推理ショーの始まりよ」
ツインテの強気の瞳と、ミツアミの弱気の瞳が交差する。
「探偵の能力は、ゲーム中に一度だけ、指定した人物の職業を知る事が出来る事。指定した人物の職業を知る事で、その人の発言を援護したり、指定した人が人狼なら、みんながその人を疑うように議論を誘導する。でも悩んだわ、効果は一度きり、一体誰を調べれば最大の効果を発揮できるのか……そんな時よ、メガネとミツアミを見たのは」
「み、見ていたのツインテ?」
俺は思わず動揺してしまう。
「何を話していたのかは知らないわ、でも、私が食堂から戻ると、廊下の奥の談話スペースから声が聞こえて来たの。だからホールの壁越しに様子をうかがっていたら、メガネがミツアミを部屋に送り届けていたのが見えた。そして私と会ったメガネは、唐突に兵士を弁護し始めたわ。兵士が意図的にキンパツを守らなかったのだとしても、何か事情があったのかもしれないって」
俺は察して、恥ずかしくなる。
俺ってバレバレじゃん……
「すぐに解ったわ、あー、これはメガネの奴、ミツアミに何か言われたわねって、考えられるのは、人の良さそうなメガネの事だもの、ミツアミに自分が兵士でキンパツを守れなかったって言われて同情したんでしょうね。今の議論で、私の推理に横入りしてまでミツアミを守ろうとしたのが証拠よ」
穴があったら入りたい。
俺は人生で初めて神にそう祈った。
「だから私は思ったの、ミツアミは兵士で、つまり村人、容疑者はオールバックとロング、それにシャギーの三人だって。でも、何かひっかかったのよね」
ミツアミが震える。
「ひ、ひっかかるって、なにに?」
「貴方達、どうして談話スペースで喋っていたのかしら?」
「それは、だってミツアミが談話スペースで泣いていたから……」
ツインテが溜息を吐く。
『なんでこの生き物はこんなにも馬鹿なのかしら』
パート2だ。
「おかしいと思わないの? 私が思ったのはこうよ。メガネとミツアミが一緒にいるなら、二人はどうやって会ったんだろう、なんで部屋じゃなくて談話スペースで話しているんだろう。メガネが二階にいるから、メガネがミツアミの部屋を訪ねたのかと思ったけど、それならミツアミの部屋で話をするはず。ミツアミがメガネを二階に呼び出したなら、やっぱりミツアミの部屋で話すはず。ならどうして談話スペースで? 答えは単純、ミツアミは最初から談話スペースにいた。そして別の用事でわざわざ二階の客室廊下に来たメガネが、談話スペースのミツアミを発見して、その場で話をしたから。大方、泣き声が聞こえて行ってみたら、泣いているミツアミさんがいた、といったところかしら?」
何こいつ?
エスパーなの?
「女が誰もいない部屋じゃなくて、わざわざ外で泣く理由は、誰かに発見して欲しいから。なんで発見して欲しいか、自分が兵士だと伝えたかったから。どうしてみんなに言わないでメガネにだけ伝えるか、全員に知られるのは危険だから。どうして全員に知られては危険なのか、答えは単純、本物の兵士が名乗りあげたら困るからよ!」
ツインテは語気を強める。
「みんなの前で兵士だと言えば、本物の兵士が出てきて疑惑が生まれてしまう。でもメガネにだけは言える。だってメガネだけは、自分が占い師だと暴露しているのだから!」
「あっ!?」
俺は思わず声を出してしまった。
「誰が本物の兵士か、そもそも兵士は生きているのか解らないこの状況で、兵士と偽るのは危険すぎる。でもメガネだけは職業名も能力内容も暴露済み。メガネだけなら確実に騙せる。自分に投票しないのはもちろん、議論も自分を弁護したものにしてくれるはず。残り五人しかいないこの状況で、それは大きなメリットよ。だから私は探偵の力を使った!」
ミツアミが息を飲む。
「ミツアミ、貴方が本当に兵士なのかどうか。もしも本当に兵士なら、私はそれをみんなに暴露して、今日の議論は私、メガネ、貴方の三人を容疑者から除いた状態で進めるつもりだった。でも結果は」
ミツアミを指で指す。




