兵士ジョブ
最後の方は完全に力を失って、ミツアミは泣き崩れてしまった。
いや、今のは俺が悪い。
そうだよな。
六分の一の確率で自分が死ぬ。
それこそ弾を一発入れたロシアンルーレットだ。
みんなの無事を考えたら、兵士は自分じゃなくて他人、特に大預言者を守るべきだろう。
でもそれは、あくまで論理的な思考での話し。
ミツアミは機械じゃない。
ちゃんと五感を、感情を持った一人の人間だ。
人狼がキンパツを狙わなかったら六分の一の確率で死ぬロシアンルーレットだけど、チームの為に自身の安全を捨ててキンパツを守れ、なんて強制できない。
まして、ミツアミはこんなにも華奢で弱い女の子なんだ。
責められる筈がない。
「わかったよ、じゃあミツアミ、今夜もお前は自分を守ってくれ」
「え?」
「人狼をみつけるのは大事だけど、自分を守るのも大事な事だ。それにもしも人狼がミツアミを襲ったら、今夜の犠牲者はゼロになるわけだしな。ていうか、大預言者がもういないんじゃ、特に誰を守ってくれとも言えないし」
「メ、メガネくん……」
ミツアミは、うれしそうにはにかんで俺を見上げる。
「でも言ってくれてありがとうなミツアミ。これで人狼の容疑者はけっこう絞れたよ」
「だ、誰なの?」
ミツアミは、もう涙を止めていた。
「まず残っているのは、俺とお前、あとツインテ、オールバック、ロング、シャギーの六人。ここから俺とお前、それに俺の能力で村人だって解っているツインテを除くから、人狼はオールバック、ロング、シャギーの三人の内の誰かだ。個人的には、言動から考えてシャギーは違う気がするから、俺としてはロングかオールバックが怪しいかな」
「すごいねメガネくん、もうそこまで考えているんだ」
ミツアミの目が、羨望で輝いているような気がする。
こんな状況下でも、女の子に褒められると嬉しいのは、男の悲しいサガかな。
「じゃあ俺は、一階の一〇四号室に戻るよ」
「うん、明日の議論も頑張ろうね」
ミツアミが可愛らしい笑顔で、ちっちゃくガッツポーズをする。
うわぁ、やっぱ可愛い。
俺はミツアミを彼女の部屋、二〇三号室に送ると、二階のホールを抜けようとする。
そこへ、ちょうど食堂へ繋がる廊下からツインテが歩いて来た。
「あっ、ツインテ」
「メガネ君じゃない。どうしたの二階に?」
「いや、ちょっとね、それよりもツインテさんは晩御飯?」
「ええ、シャンタが妙にはりきりながらご飯を作っていて、少し奇妙だったわ」
俺がおいしいって言ったからかな……
「他の人は一緒じゃないのか聞かれたから、貴方も行ってあげたら?」
うん、俺のせいっぽいな。
「解ったよ、俺もそろそろお腹が減って来たしな……」
俺は、ミツアミとの会話を思い出した。
「ツインテ……さっきの処刑の後、もしも兵士が意図的にキンパツを守らなかったのだとしたら酷いっていう話が出たけどさ」
ミツアミの泣き顔を思い出す。
「もしかしたら、兵士にもどうしようもない事情があったのかもな……なんて、はは」
ツインテの目が、細められた。
「何が言いたいの?」
「いや、なんでもないよ。じゃあ俺、食堂に行くから」
俺は慌ててツインテの横を通り過ぎていく。
ミツアミが兵士だって言おうとも思ったけど、ミツアミにバラしてもいいか聞いていないし、必要があったらミツアミの方からみんなに言うだろう。
ミツアミが兵士っていうのは、俺の胸のうちにだけしまっておこう。
俺は明日の議論でツインテと、そしてミツアミの主張を援護することに決めた。




