二日目に吊るされる人
ハゲの反論も空しく、各人の席に、投票ボタンが現れた。
俺は誰にいれればいいんだろうか?
シャギーの言う通り、ハゲに入れるか?
でもそれで、もしもハゲが処刑されて、ハゲが村人だったら?
俺は、俺の手で人殺しをする事に……
どのみちアフロを一度殺している。
でもあの時は、本物のデスゲームだなんて知らなかった。
…………
駄目だ。
自分の投票で人が死ぬ。
それが解っていて、無責任に誰かに入れるなんてできない。
甘いのは解っている。
でも、誰かにいれようとすると、それだけで心臓がバクバクと高鳴って止まらない。
ニャル達の力は思い知らされている。
警察は期待できない。
一人でも多くの人を救う為には、人狼を殺すしか無い。
でも、人狼かどうか解らない人に、ただなんとなくで投票していいのか?
俺は悩んでから、うしろほうに立っていたシャンタAへ振り返る。
「なぁシャンタ」
『あ、はい、なんでしょうかメガネ様?』
「投票ってさ、誰にも投票しないっていうのはいいのか?」
『可能ですよ? でも、自分以外の誰かを殺す為にも、てきとうでもよいので他人に投票するのがおすすめです』
「……そうか、ありがとう」
俺は前に向き直って、投票ボタンを見下ろした。
『おやおやメガネ君は誰にも投票しないつもりですかぁ? まぁそれでもいいんですけれどねぇ。じゃあそろそろ締め切りますよ♪』
言われてから、ロングとオールバックが慌てて手元を操作した。
そして、会場の大画面に結果が表示される。
『それでは結果票! じゃじゃん♪』
結果は、
ハゲ三票
シャギー二票
ハゲの表情が凍りついた。
「おい……うそだろ……ゴルァ! シャギー! 全部てめぇのせいだ! てめぇが! てめぇがあんなに俺が人狼だって騒ぐから!」
「あ、あんただってあたしを人狼呼ばわりしたじゃない!」
「てめぇ! 人を殺しておいてよくもそんな」
『はいはい、見苦しいですよ、ぽちっとな』
会場の構造のおさらいだ。
中央には円卓があって、一〇の席のそれぞれの背後には、出入り口がある。
俺の背後にも、ツインテの背後にも、そして、ハゲの背後にも、先が暗くなっていて、何も見えない穴が開いている。
そして、ハゲの背後のその穴から、巨大なマジックハンドが飛び出してきた。
「うわああああああああああああああああああ!」
巨大な、おもちゃのようなデザインのマジックハンドがハゲの胴体をわしづかんだ。
重機のような力強さで、ハゲをイスから引きはがす。
出入り口の奥へとハゲが引きずり込まれると、奥からチェーンソーが回るような音がいくつも響いてくる。
「なんだ! なんなんだこの音は! やめろ、やめろ……ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ! ――――」
悲鳴が途絶えた。
ニャルがテンションを上げる。
『はいざんねーん♪ 村人はハゲさんを処刑しましたが、ハゲさんは人狼ではありませんでしたー♪』
俺は全身が脱力して、口を半開きにしてしまった。
また、無駄な犠牲者が出てしまった。
それどころか、今夜もまた、新しい犠牲者が生まれる。
オールバックが舌打ちをする。
「くそっ、キンパツが人狼の正体を教えてくれればこんな事には……兵士の奴、もしもまだ生きてて意図的にキンパツを守らなかったんだとしたら許せねぇな」
シャギーとロングも続いた。
「あたしも同感だわ」
「確かに、もしもそうなら酷い話だと思います」
そういえば、結局のところ兵士の事については触れられていなかったな。
ツインテとかの話を総合すると、
もう死んでいる説。
他の職業の力に操られている説。
があったけど、実際はどうだったんだろ?
オールバックが言うように、もしもキンパツが生きていて、投票前の議論中にちゃんと人狼の正体を教えてくれていたらこんなことにはならなかったのに……
『では皆さん、ホテルへお帰り下さい♪』
俺は一度ニャル子を睨みつけてから、後ろの出口へと向かった。




