水掛け論
ロングが青ざめる。
「ツインテさん……それって、かなり不利なんじゃあ。ゲームに直接的に干渉できる大預言者も兵士もいないなんて……」
確かに、
大預言者はそもそも推理抜きで、人狼そのものをズバリ当てられる職業。
兵士は、人狼の夜襲という必殺スキルを無効にしてしまう強力な職業だ。
悔しいけど、正直、俺のただ村人二人が解る占い師よりも、ずっと使える職業だと俺は思う。
あと口ぶりから考えると、ロングはあまり強い職業じゃないんだろうなぁ。
「そうね、あとこれは兵士が生きている場合だけど、もしも兵士が生きている限り自分を守らせるという能力の職業があっても、兵士はキンパツを守れなかったでしょうね」
俺の能力で、ツインテが村人である事は確定している。
俺はツインテに同調する。
「確かに、他人の職業に干渉する職業の存在も否定できないか。わかった、じゃあ兵士が誰かっていうのは置いておこう」
「そうね」
ツインテが頷いてから、俺は昨日考えた作戦を実行する。
「じゃあ人狼が誰なのかの推理だけどさ。とりあえず人狼は最初にパンクを殺して、次にキンパツを殺したんだよな?」
俺は、ハゲ、オールバック、ミツアミ、ロングの表情に、可能な限り注目する。
「パンクと言い争っていたのはシャギーだ。シャギーに自分に反発してくるパンクを、そして大預言者を……」
素人判断だけど、今のところハゲ、オールバック、ミツアミ、ロングの表情に目立った変化は無い。
「って、メガネ、あんたあたしを疑っているの!?」
「逆だよ」
俺は意見を斬り返す。
「それじゃ単純すぎる。むしろこうやって、シャギーに罪をなすりつけるために、あえてシャギーと対立するパンクを殺したんじゃないか?」
くそっ。
やっぱりハゲ、オールバック、ミツアミ、ロングの表情に変化は無い。
こんな素人作戦じゃ駄目か。
ていうかゆさぶりが足りないのかな。
「そうよ! あたしは人狼じゃないわ! それよりも、あたしはハゲが怪しいわ!」
「なんで俺なんだよ!」
「だってあんたぎゃーぎゃー騒いでばかりで、なんか議論をかきみだしている感じがするじゃない!」
「そんなのお前の主観だろ!」
「昨日、シャンタにわざとらしく殴りかかったのも、自分は人狼じゃないってアピールするためだったんじゃないの?」
ハゲのハゲ頭に、青筋が浮かぶ。
「ちげーよ馬鹿! ありゃ本当に衝動的にだなぁ!」
「あんなトンデモない連中に勝てるわけないじゃない! それなのに殴りかかるなんて、何か思惑があると思うわ!」
「んだと! そうやって俺に罪をなすりつけて人狼にしたてあげようって腹か! やっぱりお前が人狼だ! さっきメガネが考えたのと逆で、自分と対立している奴を殺す、なんて単純なことをするはずがないっていう風に議論を持って行くつもりだったんだろう! そうに決まっている!」
オールバックが渋い顔をする。
「なんか水掛け論みたいになってきたな……おいメガネ。さっきのお前の意見だけど、範囲が広すぎないか?」
「範囲?」
「だってそうだろ? シャギーと言い争うパンクを殺す事でシャギーに罪を被せる。もしそうならそれで得をするのは他の全員。俺、ハゲ、ツインテ、ロング、ミツアミ、そんでメガネお前だ。もうちょい絞ってくれよ」
「解った、しぼるよ」
まぁ、俺の職業は言っても人狼に狙われるようなシロモノじゃないか。
「俺の職業は占い師。ゲーム開始と同時に確実に村人の人間が二人解るんだ」
みんなの目つきがちょっと変わる。
なんていうか、興味を持っている。
「マジかよ!?」
「マジだよ。俺の能力だと、キンパツとツインテ。この二人は確実に村人なんだ。まぁキンパツはもう死んじゃったんだけど、ツインテと、あと俺は人狼じゃないよ」
「あたしはそれに賛成する」
シャギーが俺を援護する。
「この中で、他に自称占い師はいる? いないなら、あたしはメガネが占い師って言う事で議論を進めたい」
「そうね、保身の為じゃないと言われたら嘘じゃないけれど、あたしもメガネを指示するわ。これで容疑者は、ハゲ、オールバック、ミツアミ、ロングの四人かしら?」
オールバックが肩を落とす。
「俺は容疑者のままかよ……」
「やっぱハゲ、あんたが怪しいわ、あたしはハゲに一票」
「だからシャギー! てめぇはそうやってすぐ俺を人狼にするな! マジで俺に票が集まっちまうだろ!」
議論の進展は、ここでストップしてしまった。
結局、それからはシャギーとハゲが言い争うだけ。
無情のタイプアップが告げられた。
『はいはーい♪ ではではそれまでで~す♪ じゃあ皆さん、投票タイムです♪』
「ぐあっ、おいちょっと待てよ!」
ハゲの反論も空しく、各人の席に、投票ボタンが現れた。




