耳かきは国家資格にするべきではないでしょうか?
僕の妻は、耳かきが大好きだ。
自分の耳をコリコリするのもさることながら、他人の耳をコリコリと、かき散らかすのが何よりお好き。
妻は、僕の耳が耳くそだらけだとしても、決して嫌がらない。むしろ大喜びだ。
「あーたーっす!」
と、人の耳の穴に向かって、大声で怒鳴ります。うるさい。
妻は、僕の耳の穴に、さあ、今まさに耳かき棒を入れるって瞬間、
「行ってきまーっす!」
と、声高らかに宣言する。……いったいどこへ行くというのか?
俗に、耳かきフェチって人たちがいるけど、うちの妻は、フェチなんて生易しいもんじゃねーから、あれ、「中毒」だから。
昔から「好きこそ物の上手なれ」と言うけれど、ありゃ嘘だ。僕の耳の穴は、かれこれ20年、妻に散々に弄ばれ続けている。妻の耳かきの腕前は一向に上達しない。むしろ、同情を禁じ得ないほど下手になっている。とにかく痛てえの何のって。なんつーか、終わったあと、しばらくメランコリックになる痛みっつーか。くう~、脳髄にくるぅー、って感じ?
だから、うちの子供たちも妻に耳かきされるの大嫌いだ。びーびー泣いて逃げ回る。
うちでは「耳かきするよー!」が、「悪い子はいねーがぁー!」と同義語だ。
妻の耳かきは、秋田のナマハゲだ。
そもそも「耳かき」=「癒し」って考えが、妻には全くない。僕の妻は、「耳くそハンター」だ。捕獲作業をしているとしか思えない。妻が耳かきしている時に、妻の近くにビーグル犬連れてきたら、きっとバウバウ吠えると思う。獲物が穴から出てくるのを、涎をダラダラ垂らして待ち構えると思う。ダックスフントだったら、耳の穴に飛び込んでくるぜ。怖えーよ。妻の耳かきは、「狩り」だ。だって血眼なんだもの。
でさ。
世間の皆様。国のお偉い様。
僕、思うんすけどね。
耳かきは、国家資格にするべきではないでしょうか?
あんな、かったいかったい棒っきれをね、他人の耳の穴にズボッとぶっ刺して、そして、コリコリ。
人体に2・3cm入ってっからね。あれ、なんで医療行為にならねーんだ?
僕は妻を愛していますよ。この世で、妻ほど心を許せる人はいませんよ。でもね、妻が、耳かきの最中に、日頃の夫に対する鬱憤を爆発させ、突然「ご乱心」する可能性は決してゼロではないのです。ああサイコパス! 考えただけで身震いブルっ! 鳥肌ボロッ!やっぱさ~、誰彼構わず自由にやらしちゃいけないと思う。耳かきは、国が定めた「学科試験」と「実施試験」に合格した後、国が定めた「実務経験」を経た、有資格者だけが行える医療行為にした方がよくないっすか? うちの妻じゃねーけど、好きだからとて、やらしちゃならねー下手くそもいるよ。いい迷惑だ! 災難だ! 痛てぇーんだっての! 勘弁してくれってのっ!
そもそも、「きゅう師」って国家資格あるじゃん?
あれ、「もぐさ」をチョイとのっけて、チョイと火をつけるだけじゃん?
そんでも、資格はいるんだぜ?
耳に棒っきれ、ずぼっ!
……に、なんで資格がいらねーんだ?
「はり師」って国家資格あるじゃん?
あれ、人体にほんの数ミリ、ほぉ~んの数ミリ、チクッと針を刺すだけじゃん?
そんでも、資格はいるんだぜ?
人体に3cm、ずぼっ!
……いーの? マジ、無資格でいいの?
「ひよこ鑑定士」って国家資格あるじゃん?
あれ、ひよこのオスとメスを見分けるだけじゃん?
そんでも、資格はいるんだぜ?
ずぼっ!そして、コリコリッ!
数センチ先は脳みそ!
癒されてる場合じゃねーちゅうーのっ! むしろ大ピンチだっちゅーのっ!
一刻も早く法律を制定して、モグリは厳重に取り締まって下さい。
妻みたいな中毒者は、テレビの「警察24時」みたいに警察に職務質問されて、バックの中を調べられてばいいのだ。
警察 「奥さん、使用済みのこれは何?」
妻 「……綿棒です」
警察 「先っちょの、この粉は?」
妻 「……耳くそです」
警察 「8時45分、耳かき取締法違反の容疑で逮捕!」
みたいな。
はやく、そんな日が来ればいいな~。
てかさ、耳かきってさ、耳くそと一緒に、ちょいちょい「記憶」も持って行かれちゃってると思うんだよね。去年の誕生日のメニューとか、親戚のおばさんの下の名前とか、思い出そうと思っても、記憶から削がれたように思い出せない事柄ってあるじゃん? あれ、耳かきの時に、コリコリッと「記憶」を削られてるんだよ、間違いねー。
そーいう訳で、この馬鹿エッセイを公開した後は、速やかに、妻に耳をコリコリしてもらって、こんな妻の悪口だらけのエッセイを書いたことなんて、すっかり忘れることにするのだ。
え? これ、書いたの、僕ぅ~? まったく記憶にござーせん、なんて。