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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

喧嘩別れした幼馴染が不良娘になってしまったかもしれない

作者: 芹薺

超短編です。

 私には一人の友達がいた。いや、正直言って友達以上の関係だったと思う。幼稚園の頃からずっと一緒で、きっと私達はこれからもずっと共に過ごしていくんだろうな、なんて考えていた。



「舞奈ちゃんなんて嫌い!」


「……ッ! 私もアンタなんて大っ嫌いだよ!」



 きっかけは些細な事だった。もう思い出せないくらい些細な事。でもその些細な事で私達の距離は離れてしまった。


 でも、世の中の恋人だって。実に下らない些細な事で別れたりするし、私達が変ってわけじゃないよね、多分。



 そして、中学2年生の春、彼女は遠くに転校してしまった。遠くといっても県を二つ三つ跨ぐくらいだけど。少なくとも中学生の私にとっては、遥か遠くと呼べるくらいには離れた距離だった。


 でも、連絡をしようと思えばいつでもスマホで出来たんだよね、それをしなかったのはやっぱり……


 そして月日は流れた、次第に私は彼女の事を忘れていった。いや、忘れるように努力した。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「え〜今日は転校生を紹介します」


 教壇に立つ担任がそんな事を言った。転校生と聞いてクラスは少しザワザワとする。どんな子だろうとか、可愛い娘かな?とかありがちな会話が聞こえてくる。


「はいはい静かに! じゃあ明石さん、入ってきて」


 明石……と聞いて私はピクリとする。まさかね、いやまさかね……


「……あ」


 そのまさかであった。教室に入ってきたのは、忘れたと思ってたはずのあの娘だった。


「じゃあ自己紹介して」


 先生が彼女にそう声をかける。すると彼女は気怠そうに「はぁ……」とため息を漏らす。


「……明石衣奈です、よろしくお願いします」


 彼女は長く綺麗な黒髪を弄りながら素っ気なく名を名乗る。担任は困ったような表情で「あの……それだけ?」と言った。



 私は混乱した。あの娘は衣奈だ、名前も見た目も……だけど雰囲気がまるで違う。


「……」


 っ!彼女と目が合った、冷たい目だった。凍るかと思った、思わず私は目を逸らす。


「……じゃあ、あそこの席に座って」


 担任の指示。あそこの席って……あ、私の後ろじゃん……


 私の席の後ろはこれ見よがしに空席だった。ここには別の子がいたんだけどその子が転校して以来、暫く空席のまま放置されていた。


 そして衣奈はこちらの方に向かってくる、私はなるだけリアクションを取らないように、他人のフリを心がけた。


「……」


 衣奈が隣を通る時、チラッとこちらをみたような気がしたが、私はスルーを決め込んだ。


 ……息苦しい、後ろには衣奈、帰りたい。


 そうして息苦しさで窒息しそうな1日が始まった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 転校生が来ると、普通クラスメイトが周りに集まって質問責めをするなんていうのは、多分全国の学校で共通のイベントなんだろう。だけど彼女の周りには誰も集まっていなかった。


 だって凄くピリピリしてるし、近寄ってくるなオーラ全開だし……衣奈は、変わってしまったのだろうか、もう私の知っている衣奈は存在しないのだろうか。



 若干の息苦しさが教室には息苦しさが漂い続けた、そうして放課後……


「……あ、あの」


 私は意を決して教室から出て行く衣奈に話しかけた、すると彼女は振り返り「……何、“佐倉”さん」と冷たい声を出した。


 名字呼び、私は思わずビクッとなった、心がズキンとした。


「……なんでも、ないです」


 私の心は弱かった、そうして彼女は返事もせずその場を去っていった。


「……怖かったねぇ明石さん、昔はあんなんじゃ無かったのに」


 私の隣にピョコンと小さな女の子が現れる。この娘は由奈ちゃん、小学生時代からの同級生だ、勿論衣奈とも面識がある。


「……だね」


 由奈と会話をしながら廊下に出る。寒い、廊下は暖房が効いていない。


「舞菜って衣奈と仲良かったよね? なんか凄く険悪な雰囲気だったけど」


 と、私に聞いてくる彼女。ちなみ舞菜というのは私の名前だ。


「ん……昔はね」


 私は力無く答える。彼女は「何その意味深な返し」と笑いながら私のことを見た。


「さむ……」


 気がつくと玄関口にいた、外からは雪が降っているのが見えた。白く冷たそうな雪だ。私はかじかむ手をポケットに隠す。


「雪降ってんじゃん! これ積もるかなあ」


 由奈は呑気にそう言った、私達は寒さに震えながら帰路についた。




「お姉ちゃん! 私のたい焼き食べたでしょ!!」


 帰宅早々、家にいた妹が開口一番にそんな事を言った。


「ごめんて、今度買ってくるから!」


 その後、妹に散々たい焼きの事で嫌味を言われた、食べ物の恨みは恐ろしいと聞く。すっかり妹は機嫌を損ねてしまった……


 私は2階の自室に入り、ベッドに倒れ込む。今日はいろいろなことがあって疲れた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 翌日の朝、私は窓を開けて外を見てみる。昨日降った雪はうっすらと積もっていた。今日は土曜日、学校は休みだ、何をしようか……


 と、昨日たい焼きを勝手に食べて妹を怒らせたままなのを思い出す。はぁ……買ってこなきゃ。あの娘、拗ねると面倒くさいからなぁ。



 そしてお昼頃、私は外に出た、まだ気温が寒い、でも日差しが出てるからまだマシな方かな……


 この街には昔からあるたい焼き屋さんがある、公園の近くだ。昔はよく通ってたなぁ……


「……あれ?」


 ふと私は立ち止まって首をかしげた、何かたい焼きに関して大切な事を忘れてるような、そうでないような……


 私はなんともモヤモヤした気分のまま歩き、やがて公園に到着、少し遠くにあるたい焼き屋を見てみる。


「相変わらず人いない……あそこの店大丈夫なの?」


 あそこの店、美味しいのに中々人が入っているところを見ない。店主がお婆ちゃんだからほぼ道楽でやっているようなものなのだろうか。


 私はたい焼き屋に近づく。すると店から人が出てきた。あれ? お客さん居たんだ、遠目じゃ見えなかったのか、珍しい。


「ん〜……やっぱりここのたい焼き屋さん最高!!!」


「……あ」


 衣奈だった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「何でついてくるの……」


「私の家こっちだし……」


 衣奈が返す。私たちの間にはなんとも言えない雰囲気が漂っていた。


「あ、あれ……まだ残ってたんだ」


 衣奈が指をさした方向には、公園によくあるベンチと屋根付きの小さな空間があった、こういうのを東家って言うんだっけ。


「……衣奈さぁ、なんか昨日と随分雰囲気違うね?」


 私は思った事を素直に言ってみた。


「……べ、別に」


 そっぽを向き取り繕うような声でそう呟く彼女、なんだこの可愛い生き物は。


「昔あそこに座って、よく買ったたい焼き食べてたよね」


 私が言うと衣奈はコクンと頷く。


「もう素直になっていいんだよ? あ〜んな可愛いところ見ちゃったしなぁ、たい焼き屋さん最高!!!」


 私が衣奈の声真似をすると、彼女はポカポカと私の事を叩いてきた。


「……で、何であんな不良みたいな態度とってたの?」


 私が聞くと彼女は徐に理由を語り出した。


「登校中に舞菜を見かけて、先生に聞いたら同じクラスだって、そしたら急に緊張して……」


 目撃されてたのか、私。


「それで、理由! ほら続き!」


「いや……だって! 久々に舞菜に会えるの嬉しかったけど……あんな喧嘩して別れて、馴れ馴れしくしたら明らかに変な()じゃん……」


 ……じゃあ衣奈、それが怖くてあんな不良みたいな雰囲気をピリピリと醸し出してたわけ!?


「いやそれはない……! 拗らせすぎでしょ! めっちゃ怖かったんだけど!」


「ご、ごめん……」


 衣奈は申し訳なさそうにそう言った。ホント、不良になっちゃったのかと思ったよ私。


「喧嘩した理由、覚えてる?」


 衣奈がそう問いかけてくる。


「あー……忘れてたけど今思い出した」



 たい焼きを頭から食べるか尻尾から食べるか。



 私達は顔を合わせてお互いに笑う、何ともまあ……そんな理由で何年も大きな溝が出来ていたなんて。


「……」


 衣奈は私の手をギュッと握る、暖かい。こんな寒い季節だからよけいそう感じるのであろう。


 私はその手を恋人繋ぎで返した。


「ちょ……」


 彼女は恥ずかしそうな反応をする、かわいい。この娘ってこういう事に昔から弱い。


「その……ごめんなさい」


 彼女は申し訳なさそうにそう言った。


「私こそ……もう遠くに行かないでよ?」


 私達は互いに寄りかかる、温かい。


 私はチラリと外を見る、昨日に都内に降り積り、ニュースが大騒ぎしていた雪は今日のこの澄み渡る快晴の空から降り注ぐ日差しにより、溶け始めていた。

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