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意地と矜持

「つかテメェ誰だァァァ!!」


「テメェこそ『ドコ中』だコラァァァ!!」




『十字傷』と津張、互いに咆哮を交わすーー!!


ビリビリと辺りの空気が震動した。


たまらず身を縮める者も多数いた。




「『来い』ョ……!!」


交わした怒号を『開戦』の合図と受け取った津張、すかさず挑発する。




尋常ならざる者と尋常ならざる者ーー両者が対峙したそのとき、観衆は皆、一触即発を予感したーーが!!しかし!!


「嫌だァ。俺があんたと喧嘩して、何の得があるってんだァ……」




悪漢三人組のリーダー格である『十字傷』、意外に聡いーー!!


元はといえば、彼らの標的はいたいけな一人の少女である。その少女を救うべく乱入してきた素性の知れない男と、一戦交える道理はどこにもない。


「俺の顔、見ろよ。この十字傷ーー昔、喧嘩でドジっちまってさァ……ダッセェよなァ。ホントはなァ、俺ァこんな傷、ひとっつも付けたくねーワケ。楽して稼ぎたいワケ。勝てる相手にしか因縁つけないワケ。だから、あんたとは喧嘩りたくないんだァ……」


チッーー津張の舌打ち。


「『臆病ビビ』ってんのかョ……!?」


津張が目力のこもったガンを飛ばすが、しかし『十字傷』はそれを振り払う。


「そんな安い挑発にゃア、俺ァ乗らねェよ。どこの誰かは知らねェが、これだけはわかるーーあんた、強ェもん」


本心であった。


眼前に立つこの奇怪な頭をした男は、並大抵ではない。対峙すれば、タダでは済まないーー『十字傷』もまた、伊達に路上を生業としていないというわけである。危機察知能力には関して、めっぽう長けていた。


『十字傷』だけではない。周囲の人々の目には一様に、津張剛は『底知れぬ強者』として映っていた。


髪、服、靴。

統一された黒、黒、黒ーー。


加えて、前方に飛び出した威圧的なヘアースタイルーー。


極めつけは、その鬼のような形相ーー。


何から何まで、津張剛という『漢』は、その世界では見慣れぬ特異な存在であった。


しかし、何より人々を惹きつけたのは、そんな『外見ミテクレ』ではなく、よりシンプルで高次元なモノ。


端的にいえばーー『風格』である。


戦闘を日常とする異世界人にとっては、津張のその立ち姿、その佇まい、その態度ーーこれらを一目見ただけで、彼の力量を測るに十分であった。


観衆の中には人知れず、ゴクリと唾を飲み込んだ者もいた。




『この二人が喧嘩ったら、どうなるんだろうーー!!』




野次馬のそんな期待に反して、『十字傷』は応戦せずーーこれには、津張も拍子抜けである。


どうしたものかと思索した津張であったが、はたと名案を思いつく。


「じゃあョ、『こんなの』は『どう』だィ……!?」


ここまで言って、津張は大袈裟に間を取ってみせた。




「『十発限定!!津張剛を殴り放題!!』ってのはョ……!?」


「!?」


津張は、楽しげに歯を見せた。


『十発』ーーおいらは『無抵抗』であんたの『攻撃』を受けてやるョ……!!もしそれでおいらが倒れりゃおいらの『敗北』け……おいらが全部受け切りゃおいらの『勝利』ち……!!どうでィ……『単純わかりやす』くて『愉快おもしれ』ェだろがョ……!?」


津張は、自らの提案に心底満足したらしく、フンと鼻を膨らませた。


一方、開いた口を塞げない『十字傷』。


「あんたさァ……俺ァ、余計なドンパチはやりたくねーって言ったんだぜ?たとえ俺自身のものでなくとも、余計な傷なんて作りたくないワケ。わかる?殴るほうも痛いワケ。疲れるワケ。あんたが抵抗しようがしまいが、関係ないワケ。平和的解決ができれば、それに越したことはないのに、なァんでわかんないかなァ……」


わざとらしく肩をすくめる『十字傷』に対して、津張は先ほどと何一つ変わらない調子で、同じことを尋ねた。


「『臆病ビビ』ってんのかョ……!?」


堂々巡りに嫌気が差したのか、『十字傷』は語気を強めて言った。


「だからさァーー」


「『間違ちが』うゼ……!!」


しかし、津張がこれを遮った。


「テメェ……わかんねェのかョ、おいらァ、『親切心』で言ってやってんだゼ……!?テメェがもし『ここ』で『退』いたらよォ……『巨大デケ』ェ一生モンの『傷』が、『のこ』っちまうって、言ってんのョ……!!」




「!?」




『十字傷』の顔つきが変わった。どこか気怠げな目つきにも張りが戻り、一人の『漢』の表情それに成っていた。


『十字傷』もまた、路上に生き、悪に生きる虎狼である。外道や不正には手を染めるが、度胸や矜持だけは手放せないーーそれらを侵害する者がいれば、力をもって、ことごとく薙ぎ払うほかない。


津張は今まさにーー『十字傷』のプライドに傷をつけようとしたのである。理性で動く『十字傷』とて、もはや黙って見ているわけにはいかない。




「……あんたァーー名前は?」


「『津張剛』ッてンだーー『夜露死苦』……!!」


「ツバリ・ツヨシ」と、聞き慣れない名前を反芻した『十字傷』は、津張と向き直って言った。


「ツバリ・ツヨシーーよく覚えたぜ。あんたもよく覚えときなァ。俺の名はクルス・クロス。あんたを今日ここでブチのめす男の名だァ……!!」


静かに自らも名乗り、そして大きく息を吸い込んだ。


「テメェらもよく聞けェッ!!」と、『十字傷』もといクルス・クロスは、野次馬に向けて言った。


「テメェらァ……よォ〜く覚えておくんだぞ。このトンガリ頭の名はツバリ・ツヨシーーこの俺に無謀な勝負を挑んだばかりに、無様にくたばるクソッタレの名だァ!!いいかァ!指咥えて見てるだけのテメェらの役割は、この死に急ぎ野郎の名を世に知らしめることだァ!!恥!恥!恥ィ!!二度と馬鹿面下げて外ォ出歩けねェほどに周知させろォッ!!」


焚き付けられた野次馬は、地鳴りが起こるほど声を上げた。


さらにここにーーダメ押しの一撃。


「それと……!!この救いようのねェ間抜けをブチのめす男の名はクルス・クロスーー俺の勇姿を目に焼き付けることも、ゆめゆめ忘れんなァッッ!!」


野次馬のテンションは、絶頂に達した。


「『ズイブン』じゃねェか……!!」


津張は、無邪気な子供のような笑みを浮かべた。


ビキッ。


「舐めた真似しやがったんだァ……!!ただブチのめすだけじゃあ、収まりも悪りィだろがァ……!!」


ビキッビキッ。


「ならよォ……さっさと『ただブチのめし』てみろョ……!?」


津張は、「ここに打ち込んでこい」といわんばかりに、親指の腹で額を二回叩いた。


津張のこの不遜な振る舞いに、またしても野次馬は沸き上がった。




ーービキィッッ!!


一方、怒りが頂点に達した男がここに一人。




「とことんチョづくガキだァ……そんなに死にてェならァ……十発も要らねェ……!!一撃で沈めてやらァ……!!後で吠え面かくんじゃねェぞォアァァァッッ!!」


クルス・クロスーー放つ!!




「『上等』ォォォッッ!!」


津張剛ーー受けて立つ!!




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「ーーハァ……ハァ……!!」




立っていたのはーークルス・クロス。


だが、息も絶え絶え、曇る表情。




「『最高イイパンチ』ーー持ってんじゃねェか……ッッ!!」




対して!!立ちはだかるはーー津張剛!!


息一つ切らさず!!晴れやかな笑み!!




ぶつかり合うーー!!

ワル』と『ワル』の意地と矜持!!


決着のとき、迫るーー!!

明日も同じ時間に投稿します。

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